39話 休日を過ごす狼達
いつもより凄く短い。
そして、寒い。てか、雪が凄っ⁉︎
空と愛紗が戦った翌日。
中庭でファントムは上半身裸で腕立て伏せをしていた。体のあちこちには銃弾を喰らった跡、切り傷の数々が生々しく残っていた。一匹狼達のリーダーとして指示を出すファントムは弱くてはいけない。そう言う思いが彼を突き動かしているのだろう。腕立て伏せの回数は既に500を超えていた。
「526……527」
「おーい、いつまでやるつもりだ?もう2時間ぐらい経つぞ」
一方、その横でチェイタックM200を分解し、掃除をしているイーグルはずっと腕立て伏せを続けるファントムに声を掛けた。
「もう、そんなに経つか……休憩にしよう」
「良くやる……隊長、昨日のアレ見てたろ」
腕立てを止め、立ち上がったファントムにイーグルは分解していたM200を組み立てながら、昨日の愛紗と空の間で起きた戦いをファントムが見ていた事を言う。
「傷が疼いてな」
イーグルに聞かれたファントムは少しだけ歯切れ悪く答える。ファントムの上半身にある傷の内、切り傷は殆どソラによるものだ。
「ソラ坊に付けられたやつか?」
「ああ、あんな子供に傷を付けられたのは初めてだったからな。忘れようにも忘れられない。そう言うお前も撃っても無い銃を完全分解整備とは珍しいな。 やはり、昨日のアレが原因か?」
「んだよ。バレてるのか……俺の狙撃をピンポイントで避けたのはソラ坊が初めてだからな。同じく忘れようにも忘れられない」
お互いに過去の事を思い出して笑い合う。
昨日のソラはそれまで2人を動かす様な事を思い出させたのだろう。
「もう5年前か……」
「時が経つのは速いな……って、俺達まだ20代だぞ!思い出して、しんみりしてるって、おっさんかよ!」
自分で言いつつ、自分で突っ込むイーグル。
はたから見たら間違いなく変人だ。
しかし、彼等はまだ20代後半。人生まだまだこれからと言う様な年齢だ。おっさんどころか中年が言いそうな言葉に呆れるのも無理は無い。
「しかし、よくあんな危なかっしい奴を引き込んだものだな、隊長」
「社長と話してる内に欲しくなったからな。切り裂きジャック。イギリス人の傭兵が言い始めた空の渾名。正規兵、傭兵、テロリストを容赦無く切り裂いた悪魔か……」
「最初聞いた時は耳を疑ったからな。子供がナイフ片手に戦場を駆けてるって。そう言えばあいつ、確か血塗られたダイヤモンドとか言う場所の出身じゃ無かったか?」
イーグルは過去の噂を思いだしながら言っていると、空のいた組織を思い出す。
「ああ、そうらしい。あの組織は子供を使って実験を繰り返していたらしいが、今じゃ迷宮入りの謎だ」
「まだ調べていたのか?」
未だに血塗らたダイヤモンドについて調べていたファントムに呆れて突っ込むイーグル。
「……ああ。調べれば、調べるだけ謎だらけだ。資金源はダイヤモンドの密売、人間の限界に近い技の数々。そして、資料だけにある、一部の人間だけにある遺伝子を強化した隻眼の死神と言う存在……」
血塗られたダイヤモンド。全てが謎と言われ、組織の実態を知る者は居ない。空は一部の記憶を失って答えられず、ゴーストは口を閉ざして答えようともしなかった。ファントムが調べた中、分かっているのはさっきの言葉の通り。
「もう少しで全貌が掴めそうだったが、これだ」
「飛ばされたと。まあ、もうあの組織の連中とは会う事は無いだろうよ」
「そう願いたいが、嫌な予感しかしない」
「思い過ごしだろ」
重く捉えているファントムに対し、イーグルは大丈夫だろと言った感じに軽く答えた。
暗くなるら話題を変えようとイーグルは考える。
そして、浮かんだのは
「それよりもう昼だし、コブラになんか作って貰おうぜ」
昼食の事だった。
「だな、考え過ぎた様だ。久しぶりにパスタでも食いたい気分だ」
腕時計を確認したファントムも時間が昼時なだけあって納得する。
「あいつ、厨房占拠してるらしいし、材料は好きに出来るから好き物を頼めるらしいぞ」
イーグルの言葉にファントムは「ほぉー」と言っていると、物凄い険相したジョーカーが走って来る。
「ちょっと隊長!レインが暴れて手が付けられ無いっすよ!」
「はぁ……空はどこ行った?」
「ソラ坊、どこかに姿くらましていないっすよ!」
「分かった。直ぐ行く」
こうして、騒がしい一日が今日も始まったのであった。そして余談だが、ファントムはこの日の昼食は食べれなかったと言う。
久しぶりに見てはいけないものを見てしまった。
エヴァグリーン♪エヴァグリーン♪エヴァグリン エヴァグリンエヴァグリーン♪
アー アー アー♪エヴァグリーン ファミリー♪
これが脳内でベビーローテーションしてる。
ACVDやったこと無いんだけどね!




