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38話 愛紗の複雑な気持ち

「納得いきません、ご主人様!」



開始早々、一刀の執務室で愛紗の怒鳴り声が響いた。

いきなり目の前で叫ばれるものだから、一刀はビックリして筆を落としてしまった。



「愛紗よ。そんなに叫んでおると寿命が縮まるぞ」


「星は黙っていろ!」


「まあまあ、落ち着いて愛紗。」



筆を拾いながらどうにか愛紗を宥め様とする一刀。しかし、それでも愛紗は落ち着く事は無かった。

そもそも何故、愛紗が一刀へと問い詰めているのか?

それは先日の賊の捕縛に愛紗が同伴出来ず、一刀と桃香だけが行った事に嫉妬している事もあったが、一番大きいのは空達、所謂一匹狼達の存在だ。

愛紗は一度、泗水関の戦いで空に挑んだが、武器を奪われて負けた。そして、防衛をしていた一匹狼達によって死傷者も出ていた。

だが、一刀が傭兵として雇うと蜀のメンバーの前で言ったのだ。それを聞いてから愛紗はずっと不機嫌な顔付きで1日を過ごしていた訳だ。そして、一刀に直談判するに至っている。



「お主は単にあの者達が気に入らないだけであろう」


「そんな事は無い!彼奴(あやつ)らは敵だったのだぞ!」


「主、愛紗はどうやら空とか言う奴に負けたのがよっぽど悔しいみたいだ」



図星を突かれた愛紗は星を睨み付ける。

愛紗に睨まれた星は「おお、怖い怖い」などと言って余計に愛紗の怒りの火に油を注いでいた。

執務室で今にも武人同士の戦いが始まろうとする空気の中、一刀は苦笑しながら愛紗に語り掛ける。



「うん、愛紗の言いたい事は大体分かったよ。けど、大丈夫だよ。あの人達は悪い考えはしてなさそうだし、空は俺の知り合いだから」


「ですが!」


「ファントムさんはしっかりしているし、空もああ見えて結構優しいところがあるよ。だから、そんなに神経質にならなくても良いんじゃないかなぁと…お、思うの、ですが?!」



一刀が恐る恐る愛紗の顔色を伺いながら、説得を試みるが……愛紗の睨みの恐怖に負けたようで、最後の方は声が少し裏返っていた。



「はぁ…もう分かりました。どうやってもご主人様の説得は無理みたいですし、諦めます」


「そう……良かった」



しかし、愛紗はこれ以上文句は言わず、諦める形で話しは決着する。ホッとした一刀は筆を持ち直すと再び政務の仕事である書簡に目を通し始める。

溜め息を小さく吐いた愛紗は静かに部屋を出た。



「主よ、愛紗が出て行ってしまったぞ」


「今はそっとして置こう。きっと愛紗も受け入れてくるさ」



愛紗が執務室から出て行く姿を見た星は一刀に報告する。しかし、一刀は追い掛けず、そっとして置くと言う判断を取った。

すると、星は



「では主、小煩い愛紗も去った事ですし、一杯どうですかな?」


と、言いながら徳利と盃を取り出す。



「あの……見て分かる通り仕事中なんだけど」


「別に良いではありませんか。口を出す者はいないであろう」


「うっ……少しだけだぞ」



こうして一刀は星によって懐柔され、一緒に昼間から酒を呑むと言う暴挙に出ていた。



一方の愛紗は何時もよりも不機嫌そうに城の廊下を歩いていた。何時も以上に顔が険しいものだから朱里、雛里の2人は声を掛けようにも掛けれずに足早に立ち去って行く。月なんかは一刀に休憩のお茶を持って行くところだったらしいのだが、ムスッとした愛紗に驚いてお盆をひっくり返して大惨事に……

詠と一緒に慌てながら、後始末をしていた。



休日である愛紗は一刀の直談判以外にやる事が無く、自己鍛錬の為に自分の愛刀である青龍偃月刀を取りに行くと、渡り廊下横にある、庭らしき場所に出て、素振りを始めた。

しかし、今日の調子は絶不調の一言。キレが悪く、どこか覇気が無い。



愛紗は泗水関での出来事を思い出していた。

突然目の前に現れ、邪魔をして来た男。空。

自分の事を生温い、遅いなどと言い。更には、自分が英雄などと謳われるまでに手を掛けた人数を経った一週間で殺し切れると言ったのだ。

その時の目を愛紗は忘れる事が出来なかった。

自分以上の絶望を目にした様な程の虚ろな目。



愛紗には自分の非力さで守り切れなかった家族、民を目の前で殺される以上の絶望が有るのだろうか?などと考える程。

しかし、時間が経っても全く浮かばなかった。



そして、30分程経ったぐらいの時、弾薬箱などを持った空とゴーストが渡り廊下を通り掛かった。

彼等はまだ外へ出歩く事は許されてないが、城内は好きに歩いて良いと一刀に言われている。

その為、城の彼方此方で一匹狼達は自由に過ごしているが、空とゴーストの2人はこれからの為に、ファントムに頼まれ物資を武器庫など、色々な所へと運んでいるところだった。

先程まで、空の事を考えていた愛紗は自然に空の事を睨んでいた。



「……何か用?」


睨まれた空はどうしたら良いか分からず、なんとも言えない顔をしていた。



「放って置いてやれソラ。年増特有のコウネンキとやらだ」



弾薬箱を持った空は困った顔をしながらゴーストと愛紗の両方を交互に見る。ゴーストはソラとの時間を邪魔をされたみたいで、こっちもこっちで機嫌が悪くなっていた。

ゴーストの一言で愛紗の中で何かがプツンと切れる音がする。



「聞き捨てならんな」


「事実を言ったまでだが?」


「お前の様な下郎にその様な事を言われる筋合いなど、もうとう無いのだが?」



売り言葉に買い言葉。ゴーストと愛紗は睨み合う。

アニメ的に言うと2人の目には多分、ウェーブのかかった何かが出て、ぶつかり合って、火花を散らしているのだろう。



「泗水関で負けた事を恨んでるなら俺に直接言えば良い。気に入らないのなら、幾らでも相手になる」



あまりに空を睨んでいたものだから、空本人は自分に恨みがあるのではと思い、言う。

これを聞いた愛紗は、少しだけ心の中に空を懲らしめ様としている自分が存在した。



「なら、丁度良い。私の練習相手にでもなって貰おう」


「分かった」



愛紗の仕合の申し込みに空は了承する。



「おいソラ、まだ仕事が」


「直ぐに終わらせる」



ゴーストは仕合を止めようとするが、空はそれを制した。そして、運んでいた弾薬箱を置くと、何処から取り出したのかゴム製のナイフを取り出す。

そして、愛紗が先程まで素振りをしていた渡り廊下横の中庭に出る。



「俺に触れたらあんたの勝ち。俺が首筋にこれを当てたら俺の勝ちだ」



手に持ったナイフを振りながら空は愛紗にルールを説明した。

しかし、このルールでは愛紗が納得いかない。



「どこまで私を愚弄するつもりだ!」



なんせ、自分を舐めきったルールに等しい。

ハンデも良いところだった。



「愚弄などしていない。あんたの実力ならこれ位が丁度良い。本気でやりたいのなら、泗水関の時みたいに武器を取られない様にする事だな」



空は少し不敵な笑みを浮かべると、ゴムナイフを右手の逆手持ちで構える。愛紗も青龍偃月刀を構えた。



「準備は出来ている。何時でもどうぞ」


「では、行かせて貰う!」



戦闘モード状態になった空は口調を少し変え、視線を愛紗に向ける。

急に変わった空に、愛紗は少しだけ内心驚くが、直ぐに振り払い、空に突っ込む。



「はあぁぁあ‼︎ 」



愛紗は小手調べに連続突きを放つ。

しかし、空はそれを体を少し動かすだけで簡単に躱して行く。

ここまで想定はしていた愛紗は、次に偃月刀を頭上から叩き潰す様に振り下ろす。空はそれを両手をクロスさせ受け止めた。

当たれば骨など簡単に折れてしまいそうな速度だったが、空は難なく受け止めていた。



「泗水関で話した事をもうちょっとだけ教えるよ……俺が育った世界を」



青龍偃月刀で押し切ろうとする愛紗だが、空の力が予想以上に強く、膠着状態になる。

その間に空は愛紗へと自分の境遇を話し始めた。



「俺は7歳の時に血塗られた(ブラッド)ダイヤモンドと言う組織に拉致され、無理矢理殺しを強要され、数々の実験の実験台にされた。生きるのに必死だった俺は言われた通りに殺し続けたし、従い続けた。時には友達になった人も手に掛けた。心が壊れるまでずっと……だけど、俺はそれ以降の記憶が無い。自己防衛なのか、怪我で失ったかも分からない」



あまりにも重たい話しに空の目は泗水関の時みたいに虚ろな、光すら呑み込む目へと変わって行く。

思い出したく無いなら言わなければ良いのにと思うが、空は泗水関で愛紗に生温いなどと言った事を思い出しており、素直に話していた。



「壊す、殺す事しか出来ない俺は、君達みたいに理想なんか持てないし、弱い者を助ける事も出来ない」



自分への叱咤なのか、愛紗達への羨みなのかは分からないが、空はそう言うと、両手を一気に開き、愛紗の青龍偃月刀を跳ね上げさせる。

そして、空自身は10メートルぐらいの距離を取った。



「あの薄汚れた世界で覚え、今でも覚えている技を見せてあげる。加速(ブースト)……」



空が声音を低くして言うとゴムナイフを逆手に構え、腰を落とす。そして、消える。

赤い地平線のスティーブへと使った技である加速(ブースト)。愛紗もあの時に目にした技を再び見せられる。

体勢を立て直そうとした時には既に空が愛紗の首筋へゴムナイフを当てていた。



「……俺の勝ちだ」



と言いながら、ゴムナイフをパーカー内に仕舞う。そして、ゴーストの方へ向き数歩歩いて行く。

そして



「でも……理想は力になる。そんな風に思えるのは凄く羨ましいよ……」



と、言いながら弾薬箱を持つと、ゴーストと共に去って行った。

少しの間を置いて愛紗は地面にへたり込んだ。

膠着状態の時に愛紗が空へと触れていれば愛紗が勝手いた。しかし、空の話しを聞き入っていた愛紗はすっかり忘れていた。

自分が有利過ぎるハンデを貰ったにも関わらず、清々しいまでに完敗。手も足も出なかった。

悔しい気持ちでいっぱいだったが、恨みなどの気持ちは不思議と晴れていた。



戦いの熱が少しだけ冷めた愛紗は立ち上がり、青龍偃月刀を仕舞いに行こうとした時、ある人物と目が合った。



「あっ……」


「ご主人…様」


その人物は言うまでも無く、一刀だ。

ここまでは普通に起きる事だろう。

しかし、一刀の手には数本の徳利。これを見た愛紗は怒りで震えた。そして、一刀は30分の正座させられながら愛紗の説教を喰らった。


空は隻眼の死神としての記憶を失っている⁉︎

今後の空の記憶がどうなるかで、世界が動く!


次回予告風な事はさて置き、今回から拠点みたいな?ものが始まる。(穏やかとは言ってない)

趣味で適当に書いてるとは言え、なるべく更新速めにしたい。

どうやったら早く書けるんでしょうね?(昔の自分への問い掛け)




どうでも良いけど、BFで重課金兵となりました(白目)

合計1万の課金です。だから弓を取って遊ぶんじゃぁー!

課金する前までは弓は奪って使っていたって事は内緒ね。既に20名以上の犠牲者は出ているけど

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