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37話 真っ黒の女神 V.S 地を駆ける魔物

30分後 調練場



華琳が出て行ってから準備をした2人は魏の武将達が見守る中、調練場のど真ん中に立っていた。

そんな真っ黒の外套に身を包んだ2人は体の調子でも確認するかの様に準備運動を始める。

緊張感など微塵も感じられない2人を見た(なぎ)はこれから本当に仕合でも始まるのだろうか?などと疑問が浮かぶ。

しかし、隣にいる沙和、真桜はオルカとアテナを物珍しそうな目で見ていた。


そんな中、オルカに武器が返される。

オルカは兵士からイズマッシュ・サイガ2丁とマチェットナイフを受け取ると、マチェットナイフを外套の中の後ろ腰に、サイガ2丁は手に持つ。



「さて、始めましょう」


「ああ。来い」


「ルールはどうする?」



まだ決めていなかったルールを尋ねるアテナ。

しかし、オルカは次に飛んでもない事を言い始めた。



「あの時のヤツで構わないぜ。降参するか、動けなくなるまで。それか審判が止めるまでだっけか?」


「それと武器は真剣、実包よ。それと寸止めは無し」



仕合と言うべきか、殺し合いと言うべきなのか……

危険過ぎるルールを何の躊躇いも言っていく。

ルールの一つ、動け無くなると言う事は、つまり負傷して動けないか、気絶するか、死ぬかのどれかだ。気絶、負傷も十分危険なのだが、死ぬ仕合など本当に仕合といえるのかグレーゾーンどころかブラックな程ダメである。

そして、華琳達魏の武将は死ぬ事など一切想定などしていない。普通に刃を潰した槍などを使うと思っているのだ。



「先に行かせて貰うわ」



そう言うとアテナは外套内から44マグナム顔負けのS&W M500を取り出した。そして、オルカへと向けて構える。



「殺す気で行くわよ」



その一言と共に仕合じゃあり得ないほどに殺気を強くしたアテナはM500の装弾数5発を片手で全弾を撃ち尽くす。しかし、発砲音がおかしい。速すぎて変に重なっているのだ。はっきり言って、アサルトライフル顔負けの速度だ。

オルカはほぼ同時に飛んでくる5発を横ステップで難なく避けるが、後ろの地面は黒い弾痕で埋めつくされる。

この間、1秒足らず。



「なんだ今の?」


「何が起きたんだ……?」


「スゲぇ…なんも見えなかった」


「前はもっと遅かったはずなのに……」



一瞬の出来事に何が起きたか分からないと次々に言っていく野次馬の兵士達の中で、アテナの実力を目の前で見て来た兵士の1人は驚いていた。

しかし、驚いているのは兵士や士官達だけじゃない。

華琳を含め秋蘭など、魏の武将達もその速度に驚きを隠せなかった。ただし、春蘭だけは全く分からんって顔をしながら2人を見ていた。



「流れ弾を抑えて地面か?」


「よく分かったわね。足吹き飛ばせば、それで終わるもの」


「吹き飛ばせばって…再生能力は無いんだぞ」


「気合いでなんとかしなさい」



と言うと、アテナはどこから取り出したのかM500の弾薬を空中に放り投げる。

そして、オープンさせたM500を弾薬に目掛けて降る。すると、弾薬がM500の薬室に綺麗に嵌まり込む。

一往復でリロードを完了させると、再びあり得ない速度の連射を始める。



「チッ……二度も同じは御免だ‼︎」



弾丸の飛んで来る射線を確認したオルカはイズマッシュ・サイガ2丁を空中に投げると、外套内からマチェットナイフを取り出し、5発の弾丸を弾き跳弾でアテナに返す。


返って来る弾丸にアテナは驚きもせず、自分に飛んで来る弾丸に視線を添えると、M500のグリップを使って、弾丸を全て叩き落とした。

高速の5連射に加え、跳弾を利用し全弾を弾き返す、戻って来た弾丸を叩き落とすなど、人間離れし過ぎた技の数々は兵士達の口を開きっぱなしにしている原因になっていた。

調練で武将同士の仕合を幾度となく見て来た者に取って衝撃は更に大きい。まさに空いた口が塞がらない。



「へぇー、やるなお前も」


「あら、このくらい当然だったでしょ?挨拶程度の」


「まあ、そうだな」


「随分と詰まらなさそうな顔をするわね。じゃあ、そろそろ本気でいく?」


「来いよ。」


「行くわよ。破壊者(デストロイ)!」


「アレンジナンバーの実力を見せてやるよ。侵略者(アグレッサー)モード」



2人は同時に叫ぶと、殺気が一気に濃くなるのと同時に右目が赤く輝き始めた。重たい殺気は一気に空気を冷やし、一同が少しだけ後ずさる。

後ずさるだけではなく、中には寒気すら感じる程だった。



オルカはマチェットナイフの柄を口に咥えると、両手にイズマッシュ・サイガを。

アテナはM500を空中に一度投げると、外套の中からバラバラになった何かを取り出し、一瞬で組み立てる。一本のワイヤーに繋がれた数々の棒は合体して行き、一つの死神鎌(デスサイズ)となる。

組み立てられた死神鎌(デスサイズ)を逆手に持つと、落ちて来たM500を掴んだ。



「実力の違いを見せてやる」


「それはこっちのセリフよ」



赤く輝く右目が尾を引く様に残光を残しながら、オルカとアテナの動いた軌跡を残していく。

速さもさる事ながら、オルカのマチェットとアテナの死神鎌(デスサイズ)がぶつかり合うたびに金属音とは言えない様な音が響き渡る。そして、衝撃が辺りに伝わっていく。



「これならどう?ブーストチャージ!」


「ぐっ…その技はソラの⁉︎」



アテナはオルカに飛び蹴りを放つが、オルカはそれをガード。しかし、それだけでは終わらず、アテナは再びオルカを蹴って空中に滞空。そこから、あり得ない速度の回し蹴りが放たれる。三度の蹴りにオルカのガードは崩されブーストチャージと呼ばる技が炸裂し、吹き飛ばされたオルカ。アテナは更に、空中でM500を一発撃つ。飛ばされているオルカは避ける事が出来ず、肩に一発貰い、肉片と血が飛び散った。



「痛っ⁉︎」


「何やってるの⁉︎ 」


「仕合、でしょ?問題はないわよ」



いきなりの血飛沫に華琳は慌てて止めに入るが、アテナは悪びれた顔すらせずに「何故?」と言う顔で華琳の方を見つめた。



「問題だらけじゃない!これじゃ、殺し合いよ!」


「あー、俺なら大丈夫だ」


「どこが大丈夫なのよ!怪我してるじゃない!」



アテナに叫ぶ華琳をオルカは制する。しかし、今も尚流れ続ける血を見た華琳は青ざめる。

それもそうだ。なんせ、致命傷レベルの傷なのだから。この時代なら先ず医者が諦めるレベルだろう。

痛々しい傷口を直視しない様に華琳は視線を逸らした。

華琳を見て、言葉だけじゃ駄目だと判断したオルカは外套と中の服を脱ぐ。そして、アテナに弾丸を貰った場所を見せる。



「ほら、治ってるだろ」


「は?何を言…って……」



痛々しい傷の場所を見せようとするオルカから目を逸らしていた華琳だが、再び同じところをチラ見すると、言葉を失う。

患部が綺麗にとはいかないが、治癒し始めているのだ。オルカの肩を穿っていた穴は次第に塞がり、血が止まって行く。



「っな?大丈夫だろ。俺やアテナには、隻眼の死神特有の回復速度がある。大抵の損傷なら5分程度で完治する。まあ、流石に連続で負傷し続けると回復速度は落ちるが……つまりだが、俺達死神は簡単に死なん」


「私達は戦うのに特化した駒よ。だから、この程度で死なないの。と言うよりも死ねないの」


「まるで化け物ね」


「よく言われるわ」



華琳の皮肉をさらりと受け流すアテナ。



「そう言えばオルカ、一発も撃たなかったわね。もしかして弾切れ?」


「よく分かったな。来たばっかの時に賊とか言う訳の分からない奴にぶっ放したら弾が切れた」


「後で補充の方法を教えるわ。で、続きはどするの?」


「もちろん、やるに決まってる」


「そう。なら……」


「駄目に決まってるでしょ!」



再戦しようとする2人に慌てて叫ぶ華琳。

その華琳の一言で2人は「えぇー…」と文句を言いたそうな顔になった。



「あなた達が戦うと、私の寿命が縮まるし、調練場が持たないわ!いい、分かった?」


「善処するわ」


「まあ、気が向いたらな」


「今後あなた達2人の決闘は一切禁止!これ以上言わせないで!」



この時の華琳の叫びを機に、華琳達の苦労が始まる。

そして、オルカの所為により、魏には悩みの種が尽きなくなった。

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