28話 カーチス・ランバート3
「うわぁぁぁ!!」
カーチスがホワイトアウトから目を開けて飛び上がると、そこは戦場では__無く、見慣れないベットの上だった。
どうやら廃墟でも戦場のど真ん中でもないらしい。
「な、何だここ……」
落ち着かない様子で当たりを見渡すと中華系のような宿に泊まったのでは無いかと錯覚する。
が倒れた記憶もなければ、こんな場所に宿泊したつもりも無い。
「起きたか?」
その声の主に驚き、ホルスターからハンドガンのM45を抜こうとしたところで何も無い事に気がついた。
架空を引き抜き構えた姿はマヌケもいいところである。
「おいおい、戦場のど真ん中だと勘違いでもしたか? それとも気が触れちまったのか?」
「おい、ここはどこだ!」
「中国、河南省ってところだな」
「河南省!? 中国だと!? どうやって連れて来た! 少なくとも車で2日以上はかかる距離だぞ!?」
「落ち着けよ兄弟。今から丁寧に説明してやるから」
そう言って、カーチスに全てを説明する。
ここが自分達がいた世界とは違うこと、この世界が元になった世界と似通っている事、そしてこの世界が三国志の時代である事。
一つ一つを説明し、理解する頃にはカーチスの顔が血の気が引いて青くなっていた。
「待ってくれ! ここは異世界だとでも言うつもりか!?」
「少なくとも俺たちの世界じゃねーよ。パラレルってわけでも無い」
「何故わかる?」
「すぐに分かるさ」
男がそう言った直後、ドアが勢い良く開いた。
というよりもドアが吹き飛んだ。
その光景に男はまたかと溜め息を吐いた。
「はぁーい、天の御使いは起きたかな?」
「……あのですね、雪蓮殿。怪我人がいる部屋をそう簡単にぶっ壊されても困るんですよ」
「そんなケチケチしないでよ、ぶーぶー」
「可愛くしてもダメです……と言うかいい加減に落ち着けよ! あんた歳いくつだと思っているんだ!」
「あー、またロイドが歳で私をいじめた! どうせ、精神年齢お子ちゃまですよーだ!」
「はぁ……」
目の前の雪蓮と呼ばれる女性と言い争うのが疲れたのか、大きく溜め息を吐くと、椅子に座った。
「コレがそうだ。この人が三国志で有名の呉の王、孫策殿だ」
「あ、ああ……」
先程のやり取りに息を呑まれ、男の言葉が入ってこない。
しかし、頭の中で反芻するうちに冷静な部分が認めるなと訴えて来た。
孫策が女。
これはあまりに衝撃的で、自己の常識と合わない。
「ほ、本当にここは異世界……なのか?」
「ああ、時期に慣れる。ここの人達の言葉が英語で聞こえるんだぜ、なれなきゃ体が持たない」
男の言った英語に聞こえる。
確かに孫策と呼ばれる女性が英語を喋る事が違和感しか感じない。
だが、耳をすっと通り抜けて英語だと分かるのだから恐ろしかった。
慣れなきゃ体がもたないというもの当たっているようだと思った。
「そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はロイド・パーカー。傭兵をやっている。よろしくな海兵」
「ああ、カーチス・ランバートだ。だが、何で海兵って分かったんだ?」
「傭兵でMK18なんて高級品持つような馬鹿はいないからな。それにその服装は海兵隊で見るパターン迷彩だ」
「当たりだ。元が付くがな」
「大方、上に何かしたんだろう?」
その推理の当たりにカーチスは素直に驚かされる。
「あんた、超能力者か何かか!?」
「知り合いに似たような奴がいるのさ。あんたも似たような匂いと言うより、オーラ的な何かを感じたんだよ」
「ぶーぶー、二人だけ盛り上がってずるい! 私も仲間に入れてよ!」
「子供か! まあいい、それでカーチスはどう言った経緯でこの世界に来た?」
「あ、それ、私も気になる!」
「分かった。俺がここに来る前___」
カーチスはここに来る前までの経緯を二人に話した。
仲間の生死を調べに中東に向かった事、戦場で中国の実験部隊と戦闘になった事、オルカと言う少年っぽい男の子と出会ったことなど、包み隠さずに話した。
ロイドはオルカと言う名前を聞いて、驚いた顔をしていた。
「そのオルカって奴、オルキヌス・オルカって名前じゃ無かったか?」
「さぁ、そこまでは聞いて無かったが明らかに少年っぽかったぞ? 戦いを楽しんでもいたな」
「少し待て。おいネロ! デイヴィッド! 少し来てくれ!」
ロイドが二人の名前を呼ぶと、少年さが残る男二人が部屋にやってきた。
年齢的に15か16ほどと見える。
そんな二人にロイドは説明すると、ネロと呼ばれた少年は明らかにうろたえていた。
それから、二人とロイドが話し合う。
「すまない、紹介が遅れたな。こいつらは俺の部下達だ」
「ネロと呼ばれているネ」
「デイヴィッドだ……。おっさん、よく生きてたな。オルカと会って生きてるのはあんただけだよ」
「そんなにやばい奴なのか?」
「やばいも何も____まぁ、戦ったら分かるさ」
分かるも何も実験部隊を壊滅させるほどの実力者だと知っている。
微妙な反応を見せたカーチスに、デイヴィッドは独り言で「もしかして本気を見せてないのか?」とぶつぶつ言っていた。
「後、切り裂きジャックを探していると言っていた」
「「「……………」」」
その言葉を聞いた直後、部屋の空気が凍った。
「禁句だったか? それだったら謝罪する」
「いや、そう言う訳では無いんだが……、中々にタイムリーでセンシティブな話題だなと」
「タイムリー?」
ロイドはカーチスに事の端末を説明した。
説明を聞いていく内に、カーチスもヤバいことを理解し始めていた。
挑発に乗った敵将を回収した上で、武将相手に大立ち回り。
砦を攻めてい現代の傭兵200名が一夜にして全滅。
曹操の率いていた精鋭の護衛100名の内、80名が即死、残った者達も状態が思わしく無い。
董卓を討伐する為に組んだ連合にトラウマを植え付けたらしい。
「まぁ、今は行方知れずだ。何でも董卓を裏切ったとか噂されている」
「そんな奴をあの少年が探していたのか!? おそらく俺と同じく光に呑まれた筈だ。もしかしたらこの世界に来ている可能性があるぞ!」
「雪蓮殿! 当分の活動目的が決まった。後で書簡にまとめる!」
そう言って立ち上がって、部屋を出て行こうとするロイドを雪蓮が止めた。
「了解。でも良いの? 下手するとあんたも死ぬわよ」
「奴とは面識はあるのでね。それに正面切って戦おうって訳じゃない。寧ろ戦ったら簡単に死ぬ……。ちょっとした妨害だ。少なくとも2人が出会うのだけは妨害したい」
「ならカーチスにも手伝って貰えば良いじゃない」
雪蓮の素直な言葉に一同が「あっ……」と声を出した。
カーチスの手を借りればロイドの生存、妨害の成功は上昇する。
「しかし、良いのか? どう見ても客人だぞ?」
「貴方はどうしたい?」
雪蓮はカーチスに直接聞いた。
明らかに助けて貰った自覚があるカーチスは答えに迷うことはなかった。
「助けて貰った恩義もあるからな。俺で良ければ手伝わせてくれ。この様子から元の世界には戻れないのだろう?」
「あら! じゃあ、今日から私が貴方を雇ってあげる!それなら互いに利があるでしょ?」
「助かる、孫策殿」
「雪蓮で良いわよ。雇うなら家族みたいなものになるんだし」
「いや、しかしだな」
「気にしない気にしない」
そう言って笑う雪蓮の顔はとても眩しかった。
「よし! 私は会議に呼ばれているからそろそろ行かなきゃ。後は任せたわよ」
「おい、まさかサボったのか?」
ロイドの問いも他所に、楽しそうに部屋を出て行く雪蓮。
その後ろ姿にロイドは溜め息を吐いた。
結構振り回されているようにも見える。
「大変そうだな」
「ああ……。デイヴィッド、ネロ。先に行って準備を進めてくれ」
2人は頷くと、部屋を出て行った。
残ったのはロイドとカーチスの2人。
「さてと、カーチス。こいつを見る勇気はあるか?」
「なんだいきなり?」
「切り裂きジャックの映像だ。こいつを見れば後戻りは出来ない。なんせ、バレたら即抹殺モノだからな」
内心、仰々しく思うカーチスだが、ロイドは至って真面目に言ってきていた。
カーチスも覚悟を決めて、頷いた。
「分かった。見るよ」
「なら見せるぞ」
カーチスにプレイヤーを渡す。
画面に再生された映像が流れていた。
そしてその映像には真っ黒の狼のような存在が暴れ回っていた。
「これは?」
「汜水関と言う関所で起こった戦闘の記録だ」
映像に日付が映し出されているが、皮肉な事に現実の時間だ。
映画と勘違いしてしまいそうなほど、現実感が湧かない。
が、映像を全て見終わったカーチスは空いた口が塞がらなかった。
「嘘だろ……これが切り裂きジャック?」
「ああそうだ。これから妨害する対象だ」
「冗談だよな?」
「冗談なものか。コイツがお前のあったオルカと出会うと大変な事になる。……多分な」
「マジかよ……」
「頼むぜ、ブロ。これから生死を共にするからな」
この世界へとやってきた1人の別の物語が幕を開けた。
彼の旅は終わりを告げ、この世界の動乱に巻き込まれて行く。
その裏でまた不穏な存在も確かに活動を始めたのだ。
サイドストーリー___カーチス・ランバート 完




