27話 カーチス・ランバート2
数日が経過。
カーチスランバートはオンボロの車を運転していた。
この数日で得られた情報は多くはないが、それでも有益な情報を戦闘区域にある町から得られた。
一応、彼等にも避難を呼びかけたが、最初に出会った老人のように、皆、留まる事を選んだ。
その情報とは、町から西に5キロでアメリカ軍が戦闘を行なったと言う事。
軍が全滅していようが、生きて戦争をしていようが、カーチスはアメリカに情報を持ち帰らなければならない。
はやる気持ちを押さえ、打ち捨てられた車を修理してその場所へと向かっている。
「頼む、皆生きててくれよ」
カーチスが走る道は戦闘の酷さが窺えた。
砲弾が舗装された道をボコボコにし、看板は棒だけが残った状態になっている。
それならまだマシだが、絶えず銃声が響いていた。
砲弾の1発が至近距離に着弾した。
地面がめくり上がり、ハンドルが取られる。
「クソッ! まじかよ」
ついに車が回転し道路からぶっ飛ばされた。
転がる車内でカーチスは衝撃を耐え続ける。
シートベルトでなんとか外に放り出されずに済んだ。
HK416を手に、車の外に出る。
そこは酷い光景だ。
あちこちから煙が上がり、曳光弾の赤い光が空へと伸びている。
その光景に映る小さな閃光。
「クソがッ!」
カーチスは車の裏に隠れると、近くに銃弾が着弾した。
車に着弾した弾丸はあろうことか鉄板を貫通し、カーチスの横に着弾する。
ガス臭い匂いがカーチスの鼻を刺激する。
「嘘だろおい!」
カーチスはその場から離れると、オンボロの車は爆発した。
燃料がだいぶ気化していたのか爆発が大きく、衝撃波に吹き飛ばされる。
それでもなんとか簡易塹壕に飛び込むが、体は傷だらけだ。
簡易塹壕に先客がいた。
「よく生きてたなおっさん」
その先客は先程の光景を見ていたのかカーチスが生きている事に驚いているようだった。
「はぁ、はぁ……お、お前は?」
「ただの旅人だ。人を探しているんだが、見つからなくてね。気付いたら巻き込まれた」
「災難だな」
「ちょっとした情報は得られたから受け入れるさ」
やれやれと言った様子を見せる目の前の先客。
だが、格好はすこし異質だった。
ボロボロ過ぎる外套、フードを目深に被り、顔を隠すようだった。
そこである思考に行き着く。
「まさかと思うが、あんたが切り裂きジャックか?」
「いや、違うね。だがその名を知っているとは驚きだ。軍関係者か」
「そうだな。一つ聞きたいんだが、アメリカ軍について何か知っているか?」
「そうだな……取り敢えずこれを渡して置くか」
そう言って渡してきたのは小さな銀色のプレート。
それはカーチスが誰よりも知っているものだ。
___ドッグタグ
軍で使われる個人の情報が刻み込まれた認識表。
「来る途中拾ったものだ。生きてるか死んでるかは分からない」
「すまない。拾ってくれた事に感謝する」
「感謝は生きてここを抜けてからだな。見たところ素人ではないんだろう?」
「ああ」
カーチスの返事に先客は笑うと、懐から銃を二つ取り出した。
イズマッシュと刻印された、銃身の太い銃。
マガジンボックスをかなり大きく、ライフル弾ではなくショットシェルを入れるものだ。
「敵は中国軍の実験部隊。最新のパワードスーツで武装し、麻薬で痛みは麻痺してる。殺すには挽肉にするしかない。俺が道を切り開く、あんたは援護してくれればそれでいい」
「大丈夫なのか?」
「うん? 誰に言っている。こんなもの昔に比べたらイージーだ」
笑った男が飛び出していく。
カーチスもHK416を構え、援護をしようとするが
___全く必要としないほどその男は強かった。
敵の弾を身のこなしだけで全て避け、懐に飛び込んでいく。
至近距離から2丁の連発式のショットガンで何度も撃ち、敵を沈黙させた。
弾の軌道が見えているのか、擦りすらしない異常な動きはカーチスでさえ指が止まるほどだ。
だが、男がショットガンで頭を撃ってもまだ敵は動こうとしている。
「まだ動けるのかッ!?」
カーチスも射撃し、敵がようやく動かなくなる。
が、まるでゾンビのように死なない敵を撃つのは気色が悪かった。
戦闘が終わっても晴れる事はなく、吐き気が襲う。
だが、もう一人は凄く楽しそうだ。
「いやー、戦った!戦った!」
「随分と楽しそうだな」
「なんだ、おっさんは違うのか?」
「ああ、慣れんものはなれんさ」
そう言いつつも少し気になったことがあった。
旅人と名乗りながらも、その身のこなしは素人では無かった。
「それより、お前も軍の関係者なのか? どう見ても素人とは思えない。と言うよりも人間か?」
と言うよりも、普通の人間とは思えなかった。
試作品とは言え強化スーツを着た敵を倒してしまうのだから。
「人を化け物呼ばわりとは随分な言い方だなぁ。まぁ、そこら辺は企業秘密ってやつさ。あ、えーっと……」
「カーチス。カーチス・ランバートだ」
「助かったカーチスのおっさん。俺はオルカって呼ばれている」
「シャチ?」
「当たり。とは言っても勝手に名付けられたようなもんさ。なんでも獲物で遊ぶのが似てるんだと」
「ああー」
納得していると、オルカは死体を漁り始めた。
とは言っても持ち物を奪うとかではなく、何かを確かめているようだ。
「こいつらもハズレか」
「何を探してるんだ?」
「切り裂きジャックの居場所。カーチスのおっさんに心当たりは?」
「いや……たが、数日前に立ち寄った村の老人がこんなものを持っていた」
そう言ってオルカに渡したのは、先日見せて貰った写真だ。
結局、ここまで持って来てしまった。
それを見たオルカは驚いていた。
「おっさん、その老人のもとまで案内してくれ!」
「無理だ。もう亡くなっている」
「あっ…………」
「ただ、数ヶ月前と言っていたぞ!」
「マジ?」
「マジのマジだ」
「俺っていつの情報でここに来たんだよ……」
どうやらオルカは情報に疎いようだった。
落ち込みはしているようだが、切り替えも早かった。
「仕方ない、一から出直しか」
「そいつを探して何かあるのか?」
「ああ、戦争を止めるため__」
オルカが何かに気付き、会話を止めてある方向を向いた。
その方向とはさっきまでの敵の死体が転がっているだけだ。
だが、その一つが再び立とうとしていた。
右腕も、左脚を掛け、胴体も内臓が飛び出している。
そのゾンビ具合は異常だった。
「おいおい、マジかよ!」
『アメリカのクソ野郎共と同じ場所に送ってやる!』
拡声器で拡張された英語で叫ぶとスイッチをオルカとカーチスに見せつける。
その一言にカーチスは怒りを覚えた。
この目の前の敵が仲間だった彼等に何かした。
殺してやると殺意を抱いた。
敵が自爆のスイッチを押すより、またカーチスのHK416のトリガーが引かれるより早く、地面が輝いた。
「ぐっ!?」
「おっさん、気を付けろ!」
『何だよコレ!』
光が収まった時、そこに人の姿は何も残っていなかった。




