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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
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26話 カーチス・ランバート1

俺は今までで多くの決断をして来た。

仲間を助ける為に任務を放棄、捕虜として捕まった仲間を単独で救出、仲間を死んだと見捨てた司令を殴り飛ばす事だってあった。

結果的にはアメリカ海兵隊をクビになったが、それは間違いでは無いと思っている。

それでも多くの仲間を救ったのだから。

そんな今では警備が主業務のフリーの傭兵だ。

俺ことカーチス・ランバートは傭兵だ。



「カーチスさん! ここより先は危険地帯ですよ、良いんですか?」



ぼんやりと日記を読んでいたカーチスは運転手に声をかけられ、目的地に近付いているのだと気がつく。

窓の外は砂漠地帯なのだろう。

緑色はほとんどなく、一面は砂色だ。



「ああ。今回はどうにも引けなくてね」


「ここから先は車は出せません。分かってると信じてますが、ここより先は紛争地帯ですから何か起こっても運が悪かったと思って下さいよ!」


「ああ、助かる。ありがとう友よ!」



運転手が来た道を引き返していくのを見送ると、立ち入り禁止と書かれた看板を越えて歩み始めた。

今回、カーチスに来たのは古巣のアメリカからの依頼だ。

それもCIAからで、紛争地帯で連絡が取れない軍の調査。

それだけなら断る筈だった。

だが、連絡が付かない部隊の名前を聞いた時、反射的に受けてしまった。



「あいつら、元気だといいが」



重たいバックパックを背にカーチスは砂漠を歩いた。

それから数時間がたった頃、一つの廃村が見える。

日も沈みかけている以上はここで夜を明かそうと立ち寄る事にした。

廃村は爆撃によって破壊されたのか、建物は崩れ、瓦礫が当たり一面を覆っている。

その瓦礫の隙間から人の手が見えた時、カーチスは必死に掘り起こしたが、出てきたのは腕一本。

既に腕は冷たく硬い。

血も黒く変色し、固まってしまっている。

ようやくそこが戦場だと言う実感が湧いてくる。



「安らかに眠れ。アーメン」


「おや、こんなところに人が来るとは珍しい」



祈るカーチスを不思議に思ったのか、老人が声を掛けてきた。

カーチスは驚きながらも、銃に手を伸ばす。

が、老人はあろう事か両手を上げたのだ。



「わしゃ、逃げることも出来ない。だから撃たんでくれると助かる」


「す、すまない。反射的に握ってしまったんだ」



毒気を一気に抜かれたカーチスは直ぐに銃を下ろし、老人に謝罪する。

老人は謝罪を聞いて、怒ることもなく笑った。



「そうかい。おぬしは軍人さんか何かかのう? 今日の夜は冷えるから、瓦礫ばかりで悪いがうちに泊まるといい」


「お気遣い感謝する、老人」


「別にいいんじゃよ」



老人はカラカラ笑うと、カーチスを自宅まで案内してくれた。

が、やはり老人の言う通り、家は酷い有り様だった。

上を見上げれば夜空に輝く星が見え、横見れば不発弾が突き刺さっている。

なんなら、大穴が空いて隣の家だった瓦礫の山が見える。

正直、なんで老人が生きているのか不思議に思うぐらいだ。



「逃げようとは思わなかったのか?」


「考えたさ。だが、わしゃこの通りの有り様でね」



老人が民族衣装をまくると、片足が義足だった。

あまりに痛々しい手術痕に取ってつけたような義足。

逃げれないのも無理がなかった。



「今からでも遅くない! 救援を呼べばこんな地獄から___」


「そう言わんでくれ。地獄でもわしのたった一つの故郷なんじゃ」


「ッ!?」


「わしゃ、この外に生きる術をもたん。保護されたところで何もできないわしゃ、腐って朽ちるのを待つだけになる。それに息子達を置いて逃げるのは違うんじゃよ」


「すまない! 失言だった」



良かれと思った事が時に人を傷付けることになる。

だが、老人は笑うだけだった。



「おぬしが謝る事じゃない。全てはこの国とアメリカが初めてしまった事。アメリカ人だからと恨むのは違うんじゃよ。それは日本から来た少年が教えくれた」



そう言って老人は一枚の写真をカーチスに見せた。

写真に写るのは目の前の老人と、息子と思われる30代の男性、歳が一桁ほどの子供、そして一人だけ異質なほど真っ黒なコンバットスーツを来て、顔をフルフェイス型のガスマスクで覆った男。

老人の口ぶりから少年らしいが、姿が曖昧な以上は良くわかない。

老人とその息子は普通に写り、小さな子供が黒い男にに抱きついており。

男が憂うように子供の頭に手を置いている姿だった。



「これは?」


「以前、この村でアメリカ軍とこの国の軍が近くで戦闘した時に、この写真の少年が両方を退けてくれたんじゃ」



老人が語るのはこうだった。

戦略的に重要な位置にあるこの村は戦争の被害が絶えなかった。

写真に写る男が両軍を壊滅させた後、この村の復興を手伝ってくれた。

その時に撮った写真だと。



「こいつが切り裂きジャック……」



カーチスはその二つ名を各地でよく聞いた。

真っ黒の格好で戦闘が激しい場所に現れ、両軍を壊滅させる危険度がかなり高い人物。

彼らが現れた場所では戦闘が止み、膠着状態になる。

ある場所では救世主のように語り、ある場所は恐怖として語られる。

また目撃情報が錯綜しているのか、同時期に2、3つの場所に現れたりと耳を疑いたくなるばかりな話が殆どだ。

その中で確実な情報と言うのは、1ヶ月ちょっと前に起きた、日本テロ事件。

G7サミットを襲撃したテロリスト達を全て迎撃し、世界で有名だ。



「そんな事すれば、両方に悪感情が高まる」


「ああ、そうなる。彼はアメリカを一度撤退させるまで追い込み、この国を脅して無理矢理に戦争を回避したそうだ」


「小さな衝突で終わらせた、と」


「あの少年の活動が止まってから世界は酷くなる一方じゃよ。まるでせき止められていたものが流れ出るかのように……」



老人の言う通り、イタリアで起きた新型の爆弾テロ以降、彼の名前を聞かなくなっている。

そして、世界はどんどん戦争に向かっているのも事実だ。



「だが、切り裂きジャックは悪党だ」


「そうかも知れんがの。少年はこうも言っておった。『正義なんて人の数だけある。己の正義でしか正義と悪を測れず、自己満足を振りかざす奴は皆悪だ』」


「………」



その言葉が妙に胸に残る。

目の前に彼がいたら反論出来たのだろうか。

だが、老人は気にした様子もなく優しく笑う。



「その少年は自分のやっている事は悪じゃと言っておった。それでも自分が正しいと思う事をするのじゃと。唯一心残りなのは、あの少年に一度も礼を言えなかった事じゃろうな……。『助けてくれてありがとう』と」



この老人は切り裂きジャックに救われたのだ。

その息子も、孫も。

だが、戦争はそれらを奪ってしまう悲惨なものだった。



「話しをありがとう、老人。あんたの代わりにあったら俺が礼を伝える」


「ッ! ありがとう。本当にありがとう。これで思い残しもなくなった」



老人は涙を流して、カーチスにありがとうと何度も繰り返した。

困惑するカーチス。

しばらくすると疲れてしまったのか老人は目を閉じて寝息を立てていた。



「忙しい老人だな」



老人に毛布を掛けると、自身も目を閉じて眠りについた。

そして翌朝。

家の空いた穴から朝日が差し込み、カーチスが目を開けた。

腕時計を見れば6時半を過ぎた頃だ。



「老人、世話をかけたな」



立ち上がって老人に声かけたところで違和感に気がつく。

老人が目を開けていたのだ。

近寄ってみれば、呼吸が聞こえず、暴れた形跡も無い。

満足した顔で死んでいた。



「安らかに眠れ」



目蓋を閉じさせ、祈りを捧げたカーチスは、老人に掛かる毛布を整えた。

まるで眠るような姿に少しだけ生きているのではないかと錯覚するが、そうはならないと知っている。

荷物を背負うと廃村を後にし、昔の仲間のためにカーチスは歩みを進めた。


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