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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
30/117

24話 救出

「あっ……」



一刀は目の前のローンウルブズのレインと目が合い固まった。

探し物が意図せず見つかったかのような反応だ。

レインは容赦なくAKMを構える。

近代化(モダナイズ)され、兵士が取り扱うようなカスタマイズされた見た目に、全体的に厳つさが増したフォルム。

取り付けられているレーザーサイトが一刀の頭を捉えた。



「させるか! はぁぁあああ!!!」



レインがトリガーに指をかけるより速く、愛紗がレインに偃月刀を振った。

予想以上の速さにレインは構えを解くと、地面を蹴って後へと飛ぶ。

愛紗の偃月刀はレインがいた場所を斬り裂いた。



「愛紗下がれ!」


「レイン、代われ」



一刀が叫ぶのと、空がレインへと指示を出すのは同時だった。

愛紗とレインはその場から後ろへと飛んだ。

入れ替わるように一刀と空が前へと躍り出る。

直後、空のコンバットナイフの斬撃を一刀は刀の鞘で受け止めた。



「ぐっ!?」



予想以上の重さに一刀の顔が歪む。

空は一刀が羽織るフランチェスカ学園の制服の襟を掴むと、足を払った。

一刀はバランスを崩して倒れるが、直ぐに立て直して空と向き合う。



「隊長」



空は一言、ファントムを呼ぶとフラッシュバングレネードを地面に叩きつけるように投げた。

愛紗の視界を奪った記憶に残るその攻撃。

一刀達は目をやられないように顔を腕で覆う。

直後、マグネシウムの化学反応による閃光と爆音。

視界はなんとかなったが、それでもキーンと耳に残るような不快な耳鳴りが響く。

一刀達が辺りを見渡せるようになった時には、そこに空以外の姿は無い。

そして、その空は道を塞ぐように立ち塞がり、



「ここからは俺が相手だ」



まるでラスボスのような台詞を言ってのけた。

今の空の格好は黒いコンバットスーツ、顔には鼻と口を覆う防毒マスク、手には軍で使うようなライフル銃が握られている。

それだけで手を抜いて無いのが伝わってくるが、それ以上に恐ろしいのはその眼光だった。

光を全て飲み込んでしまいそうな虚な目から放たれる殺気に一刀は息をのんだ。

そのひと睨みだけで愛紗すら怯んで一歩後ろへ下がってしまう程だ。

目だけで人を殺せてしまいそう。

それでも一刀には引けない理由がある。

だからこそ一歩前へ踏み出した。



「空ならそう言うと思ったよ」


「虚勢…ではない、か。目の前の脅威を正しく理解できてないのか?」



一刀の表情から無理をして立ちはだかっている訳でない事を理解する空。

しかし、空の手にはレミントンACRと全く同じ型のマグプルMASADAが握られている。

試験運用中の6.8mm弾が撃てるこの銃にとって、目の前の兵士など相手にならない。

射程距離の長さ、火力、どれをとっても兵士では太刀打ち出来ずに命を散らすのが目に見えている。

空がその気になってトリガーを引けば、目の前の敵達は命を散らす。

だからこそ、立ち向かってくる事が理解できなかった。



「正しく理解してないのは貴様の方だ」


「3人で俺に傷一つ付けられず、実力差すら理解出来ないとは呆れたよ」


「ああ、我々3人ではな」



愛紗のその言葉と共に空中を飛ぶ一つの影。

空がその影を見つけた時には既に攻撃態勢に入っており、その一撃は空の持つMASADAを吹き飛ばした。

そして、その影は空には最も見たことある姿をしていた。



「……呂布」



先日の試合を思い出す。

空が本気で挑まなければ簡単に負けただろう相手。

自分が持っていた銃は地面を大きく転がり、空からはだいぶ離れている。



「ここへ来て裏切るとはな」


「恋、負けた。でもご主人様、月を助けるって言った。だから協力してる」


「これで形勢逆転だな」



目の前の関羽が強気な事に何か引っかかる。

今、空の前に囲むのは一刀、愛紗、恋、そして少数だが兵士。

以前の空と戦った時の状況を聞き出したのなら目の前の強気な姿勢を取るのも分かる。

手の内が明かされたのだ。



「形勢逆転? それで勝ったつもりなら頭は相当花畑だ。そろそろ出てきたらどうだ」



空が家影に視線をやると、隠れていた者達が出てくる。

関羽が得意げに言った「3人ではな」と言う一言。

倒す、もしくは捕まえる為にもっと人数がいると空は看板した。

趙雲こと星を始め、鈴々、白連、兵士達が姿を見せると逃げられないように囲んだ。



「兵士一人に差し向ける戦力ではないな」



自身の周りを囲む戦力に呆れる空。

だが、まだどこかに余裕が見えている。



「降参しろ空!」


「武器を奪えば勝てると? 狼を舐めるなよ平和主義者」



空は一刀達を前に拳を構える。

徒手空拳___ファイティングポーズを取った。

だが、肝心の一刀は戦おうとしない。



「聞いてくれ、空! 俺は戦うために来たんじゃない!」


「なら何の為? この状況を作り出したのはお前達だろ」


「違う! 俺達が戦うのは皆んなが笑ってくれる国にする為だ」


「皆んな? それはお前達が選んだ者だけだ。選ばれなかった者は? 死んだ者はどうなる」



舌戦が続く。

感情的にまくし立てる一刀と、あくまでも無感情に突き放す空。

2人は両極端とも言える。

違いすぎるが為にすれ違う、そんな光景だ。



「いつからお前は神になった。そんなもの偽善だ」


「このッ……分からず屋ぁ!」



一刀が痺れを切らし空に殴りかかった。

直後、一刀の顎に鋭い一撃が入る。

容赦のない右のストレートだ。

堪らず一刀は転がった。

その一撃で全員が空に掛かろうと武器を構えるが、一刀が叫んでそれを止める。



「武器で挑んじゃダメだ! 奪われる!」



その場にいた全員が武器をその場に置く。

槍に剣、更には弓までその場に置く始末。

空の手に武器が取られぬように皆、素手を構えた。



「チッ……余計なマネを」


『うおぉぉぉぉぉぉおおお!!』



空が舌打ちをつくと、一刀達、兵士達は素手一つで雄叫びを上げながら空へと挑み掛かった。





一刀達の作戦は人海戦術だった。

一刀が恋から空の手の内を聞いた時、真っ先に真正面からでは勝てないと考えた。

現代の銃を使いこなし、ナイフすら使って敵を倒す。

そんな彼の動きを止める為には銃は邪魔だった。

だから一刀は恋や兵士達にこの作戦を提案した。



"飽和攻撃で空の隙を作って捕獲する"



この作戦を成功する為には二つの絶対条件がある。

先ず一つは武器を持たせない事。

汜水関で見せた脅威から、武器を持った時点で勝ち目が薄くなる。彼一人によって戦況が大きく変わったのがなによりも証拠である。

もう一つは逃げられない状況を作ること。

なによりも不利な状況だと必ず逃げてしまう。これは全滅したレッドホライズンがいい例だ。

数的不利で覆す事が不可能になると空は離脱する姿勢を見せた。逃げられたら元も子もない。

そして、恋が空の武器を吹き飛ばすとこまでは順調と言えた。



正面から挑む兵士が一人投げ飛ばされる。

空は既に何人も格闘戦だけで倒している。

一刀にとっての予想外だったのは、武器がなくとも彼が強かったと言う事だ。

愛紗や鈴々、星や恋は武器が無いと攻撃力が低下する。

もちろん身のこなしで敵の攻撃が当たることはないが、攻撃手段は無くなるものだと考えていた。

だが目の前で戦う空は、素手でも攻撃的だった。



「拳法か、クソッ!」


「また動きが変わったぞ!」


「腕がぁ!」


「うぐッ」



ある者は肩の関節を外され、ある者は膝に棒を噛ませて膝を外させる。

多対一の状況に柔軟に対応してきた。



(こいつら、キリが無い。銃を抜く暇がない)



しかし、空も対応に精一杯だった。

ある意味、一刀の作戦は成功していた。

そんな時、誰かが空のバックパックの尻尾を掴んだ。

空はすぐに顔に蹴りを入れて離れる。

だが、今度は真後ろから拘束するように誰がしがみつく。



(次から次へと……)



引き剥がそうとすると、兵士達が次々に空にしがみ付いて空を雁字搦めのように自由を奪った。



「チッ……」



空が肘でしがみつく兵士を殴っていると、鈴々が空に向かって突進した。



「うりゃぁああ!!」


「くっ……」



衝撃で空の姿勢が崩れる。



「まだだ!」



そこへ星が軽やかな動きで空の顔に蹴りを入れた。

受け止めることもままならず、空は地面を転がる。

意図せず兵士達から解放された空は立ち上がろうとしてくる。

そこへ愛紗が空を上から押さえ付けた。



「動くな!」



腕を掴まれ、足で背中を押さえ付けられた。

そこで空は完全に身動きが取れなくなった。



「俺達の勝ちだ!」



顔がボロボロになった一刀が座り込みながら勝利を宣言した。

空も抵抗を止め、大人しくなる。



「何が目的だ」


「董卓さんに合わせて欲しい」


「分かった。俺の負けだ。好きにしろ」



手枷をはめられた空は諦めた表情でそう言った。

その気になれば抜けてしまいそうな手枷だが、今のところは心配ないらしい。

一刀がガッツポーズを取って勝利を喜ぶ。

だが、そこへ不穏な空気が迫る。



「う、あぁ……コロス…」



街を徘徊する理性無き黄巾党。

ガタイが良く、身長もかなり高い。見るからに筋骨隆々としたパワータイプだ。

単身だが、異様な光景である。



「何してる!? 早く対応しろ」



空が叫ぶが、空以外全員が既に疲れ切っている上に武器を持っていない。

空もベレッタを二丁持っているが、手枷をはめられている。



「なんだよこ……」



兵士の一人が言い切る間もなく、叩き潰された。

肉と血が辺りを飛び散る。



「なッ……」



全員の顔が引きつった。

目の前で人が、人でないものに変化したことを受け入れない。

空も引きつるが、直ぐに手枷を外そうと試みる。



「おい、早く鍵を貸せ! このままだと全滅するぞ!」



空の言葉が届く者はいない。

全員が気を取られていた。



(やりたくないが仕方ない……)



覚悟を決めたかのように空は深呼吸をすると、自分の左手の親指の関節を外した。

痛みが走るが、空は表情一つ変えずに手枷から左手を抜く。



「ひィ……!」


「お前……コロス」



直ぐに親指を嵌め直すと、空は黄巾党に向かって走る。

敵は既に二人目に狙いを定めていた。

どうやら目に映るもの全てを殺すつもりらしい。

空は走りながらベレッタを引き抜くと、トリガーを引く。

狙いやすい胴体へ何発も撃ち込んだ。



「うっ、うぁ? ゔう!」



9mm弾が胴体にダメージを与えたと言うのに目の前の巨漢はピンピンとしている。

無傷ではないが、見るからに元気だ。



「痛みを感じないのか!?」



威力は高くはないとは言え、銃の弾だ。

アドレナリン、もしくは麻薬による痛感の麻痺がなければ死ぬほど痛い。

しかも空の扱う弾は初速に特化している為、威力は普通の弾よりも遥かに高い。



「チッ……」



空は目の前の兵士の首根っこを掴むと後ろへと投げる。

獲物を失った事で空へと巨大な腕が迫る。

当たれば肉片を散らすようなその攻撃を躱すと、反撃に胸にナイフを突き立てる。

だが、筋肉に阻まれて致命傷にならない。

しかも、刺さったナイフは抜こうとしても引き抜かなくなっていた。



「ゔっゔ! コロス、コロス!!」



その一瞬の隙が、巨漢の手によって空を掴み上げれる。

逃げる事が出来ない空は刺さったナイフへ蹴りを入れてもがく。



「ゔう! ゔぁぅ!」



巨漢が痛がり、空を建物へと投げつける。

空が直撃した建物はハリウッド映画よろしく、バラバラに崩れ落ちた。

空はその瓦礫の下敷きになる。



「グヴッ!」



胸に刺さったナイフを引き抜こうと暴れる巨漢。

直後、瓦礫から空の手が出てくる。



「死ね、木偶の坊」



瓦礫の中から空が構えたのは、恋に蹴り飛ばされた筈の銃、MASADA。

貫通力に優れ、ピストルとは比べ物にならない威力を誇る小口径高速弾。

それをもがく巨漢の頭へと狙いを定め、トリガーを引き絞った。

発射される何発もの弾丸が巨漢を穴だらけにした。

血が飛び散り、肉片が舞う。

弾切れによって銃撃が止まった時、巨漢の頭は体にはついていない状態だった。

直後、ドサっと前のめりに巨漢の体が崩れ落ちる。



「隊長達のもとへ案内する。ついてこい」



瓦礫で頭から血を流しても、どこ吹く風の空。

撃ち切ったマガジンをその場で捨て、巨漢からナイフを引き抜く。



「もうダメだな」



空は折れ曲がったナイフを捨てると、一刀達の前へと来る。

一刀達へMASADAを差し出し、両手を前に出すと



「そんなに怖いなら拘束でもなんでもしろ」



仕事は終わったと言わんばかりに自ら手枷を嵌め直し始めた。

更には近くの兵士に手枷の紐を無理やりに奪って、手枷と繋げる。

紐を渡された兵士は青ざめた顔でプルプルと震えていた。

その猛獣に近しい何かが、いつ牙を剥くのか分からないのだから恐怖しかない。



「そ、空? と言うか、どうやってそれ外したの⁉︎」


「普通に外した」


「もうそれ、手枷の意味ないよね? なんでそんなケロッとしてられるんだよ!」


「あんな雑魚、硬い以外は大した事ない」


「その割には頭から血出てるけど……」


「瓦礫のかすり傷だ。怪我にはいらない」


「えっと…あと、えー……」


「ほら、殺すなり好きにしろ」



何故、ここまで潔いのか理解出来ない。

一刀は恐る恐る、空にあることを尋ねた。



「どうしてあの時、急にいなくなった。連絡もしないで……。本当に心配したんだんだぞ」


「……日本のテレビ局に襲撃があったのは知っているか?」


「ああ、ニュースで見た。テロリストが立て篭もった事件だろ? 死者もかなり出てたよ」


「あれが原因だ」


「は? え? 本当にそれだけ?」


「他に何かあると?」



一刀があっけに取られる中、空は防毒マスクも邪魔なのか外した。

自由すぎる行動に周りの兵士はついていけない。



「ほれ、街から出ないと全滅するぞ? 次は自分達で対処しろ」


「アレが何のか知ってるのか?」


「知らん。俺の後ろのミリタリーパックの中に地図がある。その通りに行けば出られるから早くしろ」



一刀は仕方なしに空の後ろに回る。

ミリタリーパックは恐ろしい事に連結され尻尾のようになっている。

しかもソレが3本もあるのだからどれか見分けがつかない。



「ご、ご主人様!?」


「大丈夫。で、どれだよ」


「右の1番」



言われた通りにミリタリーパックのジッパーを引っ張り、中から紙で出来た地図を引っ張り出す。

広げてみれば、すごく詳細に書かれた洛陽の都市の地図だ。

だが、問題が一つ。



「これ、読めないんだけど……」



英語で書き込まれていた事だった。

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