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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
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23話 ポイントセーフハウス

洛陽の街__西側

空とファングの2人組は家をクリアリングしていた。

人の有無を確認したら地図を潰す__そんな作業を繰り返していた。

たが、馬鹿でも無い2人は洛陽に点在するセーフハウスの付近を捜索。

だが、今のところ人の姿は見えない。

空がマグプルMASADAを構えて家をクリアリング。

黄巾党が中にいるのを警戒しながら引き戸を蹴り開けた。

衝撃を受けた扉は奥へぶっ飛ぶ。



「ポイントG-21-b。クリア」


「了解」



空のクリアリングの報告を受けたファングは手持ちの地図にペンでチェックをつけた。

空とファングが担当しているのは街の西側。

ファングは地図をしまうと、小休止を含めて家の中へ入る。

空も引き戸を直すと近くに合った椅子へ座る。

直後、空のマガジンを取り出して弾を一発づつ込める始める。

そんな空をよそにファングはここまでの敵の特徴について纏めていた。



「敵の行動だが人に反応している。まるでゾンビだが、一種の催眠に近い。薬と催眠術的な何かを施して街に放ってると思うが合ってるかは分からん。痛覚は麻痺、こっちは恐らく脳の働きが極端に低下しているからだ」


「薬で脳機能を抑制して催眠状態か。なら確実に黒幕がいる」


「だろうな。連合の可能性はどうだ?」


「恐らく違う。こんな事ができるなら正面から攻めない。俺が黒幕なら、この状況で殺すのは生きてると都合の悪い奴。董卓か帝の二択にする。それに、ここの奴等がジャミングなんて高等な技術を持ってるとは思えない」


「何故都合が悪い?」


「連合の一部に保護の動きがあった。死ぬのを阻止する動きは黒幕にとっては何らかの不利益があると推測する。目的は分からない」


「ビンゴだ。黒幕の目的は恐らく歴史を進める事かも知れない。ストームが護衛に付いてる以上は片方か、上手くやってれば2人とも保護してる筈だ。……こっからは俺の推測だが、敵が多い場所の近くにストームがいる。敵は南に向かっていたのを見るに……」


「3カ所のセーフハウスの近くか。隊長達と連絡取れれば楽だけど」


「それはジャミング解除待ちだな。なら次の目的地は南西にあるセーフハウスだ。ここからは敵の攻撃があるだろうな」


「撃っても簡単に死ななそうだ……」



空とファングの2人は補給を済ませると、家を出て南へ向かう。

2人が進むのは人のいない路地裏。

更になるべく人気の無い場所を通るが、行き止まりに当たってしまう。

普通なら引き返すが、ファングはその行き止まりの壁へ近づくと背を付けた。



「ソラ、先に登れ」


「分かった」



ファングが空を壁を登らせるために待ち構える。

ファングの手に足を掛けて一気に登ると、今度は空がはファングを引き上げる。

警戒しながら着地すると銃を構えて南へと足を進める。

時に視界を隠す為にスモークグレネードを使い、追手を防ぐ為にナパーム剤を使ったブービートラップを仕掛ける。

まるで長年コンビを組んでいるかのように息のあった2人は、するすると奥へと進んでいく。



「後少しだな。次の角を右に曲るだ」


「了解」



空が先へ進み警戒する。

そしてファングの言われた角に差し掛かった辺りで空は何かを感じとってファングにハンドサインを送った。

ファングが銃を向け援護の態勢を取ると、空が突っ込むように角を曲がった。

黒のミリタリーストールを着た人影と出会った直後、SIG MCXから突きが放たれる。近距離での近接格闘。

空は即座に体をずらして躱すと、銃口を下げさせながらナイフで反撃。

人影はMCXで無理やり防ぎ、そのまま絡めるように空の腕へとスリングベルトを巻きつけ、蹴りでナイフを弾き飛ばした。

動きの良さに驚く空だが、スリングベルトが絡まる腕の肩の関節を即座に外すと、相手の足を払った。

相手も蹴りを打った直後でバランスは崩れており、地面へ倒れるその隙に空はベレッタを抜いて構えた。

直後、倒れた人影もハンドガンを突き出した。



「んだよ、空か。驚かすな」


「ストームか。クリア!」



ストームがストールのフードを外して顔を見せた。

互いに味方だと気付いた2人は銃口を外す。

空を見た月と詠の2人は驚くが、空の肩が外れた右腕をみて顔を青くさせる。

力なくプランプランしてるのだから無理もない。



「そ、空さん。う、腕が……」


「あんた、腕、腕!」


「ん? ああ」



空はベレッタをしまうと、関節を外した肩を自分ではめ治す。

あまりの手慣れた光景に、2人は酸欠な魚のように口をぱくぱくさせていた。



「慣れてる。問題ない」


「え、いいの!? そんなので本当に治ってるの!?」



詠のツッコミを他所に空は治した腕を回したりして状態を確かめる。

動きから見て特に問題は無さそうだった。

ファングも銃にセーフティを掛けると、空達のもとへやってくる。



「折れられるよりはマシだ。ストームなら容赦なく折にくる」


「人を木こりみたいに言うんじゃねーよ。折ったの一回だけだろ」


「お、折ったことはあるんですね……」



月は苦笑いするしかなかった。

空は蹴り飛ばされたナイフを回収しに行くと、入れ替わりでファングがやって来る。



「よっ、ストーム。元気そうで何よりだ」


「危うくソラに殺されかけたよ」


「そう言ってられるならまだ余裕だな。それで、お前が目指してたのはポイントO-13-eで間違いないな?」


「ああ、目的地はそこだよ。無線機を取りに行くついでに脱出出来れば良かったんだが、合流出来たし寄る必要が無くなったよ」


「ならこのままと言いたいところだが、予定より早過ぎて、ファントムとイーグルコンビのジャミング解除がまだ済んで無い。下手な戦闘を避けたい以上は暫く待機したい」


「了解だ。ならこのまま目指す」



イーグルがポイントマンをはって先頭へ出る。

とは言ってもセーフハウスまでの残りの距離は近く、直ぐに辿り着いた。

ファングとストームがクリアリングして安全を確かめた後、月と詠が入る。



「ほれ、今のうちに補給をしとけ」


「ありがとうございます!」



ストームが月達2人に保存食を渡す。

少し甘さのある乾パンを啄むように食べる2人。

お腹も満たされ、セーフハウス内を見渡す余裕が出来ると、ファングとストームが情報のやり取りをしていた。



「なるほど、城も荒らされた訳か」


「夜に潜入して調べてみたが、痕跡一つすら無かったよ。大方、皇甫嵩辺りが手引きしたと見てる」


「他に共有する事は無さそうだな」



2人のやり取りが丁度終わった頃、警戒しながら帰ってきた空がガスマスクを取って椅子に座った。



「奴等、動きがおかしかった」


「おいおい、敵がおかしくなってるのは元からだろ?」


「さっきまでは南に集中展開していた。今は西側の入り口へ集まってる」


「何か来たか」


「おそらく」



敵の展開から別の異物が来たと推測する空とストーム。

ファングも同意を示して、別の異物が侵入したと共通の認識を持ったことでストームとファングの2人が動き始めた。

セーフハウスのあちこちを物色する。

一見大した事が無い普通の家に見えるが、家具のタンスを開けると中からは弾薬や防弾プレート、更にはプラスチック爆薬まで出てくる。

ソファを引っ剥がすと、当然と言わんばかりにHK433やAK102などの銃まで出てきた。

ストームはタクティカルベストを二つ取り出すと、月達の前に持っていく。



「何が起きるか分かりません。これを」


「これは?」


「鎧見たいなものです。弾を止めますが、気休めです」



そう言って2人に黒い防弾のタクティカルベストを着せていく。

この世界の格好とはミスマッチだが、命を守る以上はそうもいってられない。



「ソラ、お前も入れておけ」



ファングがセラミックプレートを2枚空へ渡す。

受け取った空はコンバットスーツの中へと差し込んだ。

セラミックプレートの誇る防弾規格は高く、7.62mm、通称NATO弾までを止める事が出来るソレは現代の鎧とも言える。

しかし、弾がプレートを入れていない場所に当たれば容赦なく弾が体を貫くし、それ以上の弾丸が当たればプレートものとも砕け散る。

もっと言えば、弾が貫通しなくても衝撃は伝わるから痛みだけは避けられない。だが、無いよりはずっとマシと言う代物だ。

そして現代戦闘を想定していなかった空はプレートを入れていなかった。

汜水関での空の身軽さは、動きを制限されてないからこそだった。

空はコンバットスーツの前後にプレートを入れ、感触を確かめる。

少し重くなったスーツに顔を少ししかめながらも、戦闘の準備だけは進めていく。

そうしているうち、ザザッとノイズが聞こえた直後に無線から音が響いた。

空達3人は即座に無線に手をかける。



『こちら、フェンリル。ジャミング装置の破壊に成功した。これより無線封鎖解除。各班、状況報告』


『こちらスコル。各地に散らばっていた仲間の合流完了、現在そちらに向かっている』


『こちらハティ班。ジュエル、クラウン確保ならず。依然捜索中』


「こちらガルム班。ジュエルの確保完了したが、クラウンの行方は不明。ストームと合流し、ポイントO-13-eで待機中」


『了解。最優先のジュエルを確保した以上はクラウンはロスト扱いとする。各員、ポイントO-13-eに集結せよ』



ブツッ__

無線が切れる。

ストームとファングは勝ったも同然と笑う。

後は待機するだけである以上は難しく無い、当然とも言える。

ストームはこの数日で落ちてしまった2人の気力を回復させるために、仲間との無線のやり取りを伝えた。



「仲間との連絡が回復しました。しばらくはここで待機して、仲間と合流します」


「そうですか……良かったです」


「これからの事は、終わってから考えるべきかと。今は身の安全を優先で頼みますよ」



一方の空は黙々と準備を進めており、壊れたフルフェイスガスマスクではなく鼻と口を覆うだけのハーフタイプの防毒マスクを装着している。

フルフェイス型とくらべ威圧感は無いものの、不気味さは増している。

そんな格好で空は、細やかなパーツを使って何かを組み立てている。

それは自身が持つ愛銃のベレッタ90-twoの予備のパーツだ。

ベレッタの予備パーツからもう一つを組み上げ、新たに用意したホルスターへとしまう。

俗にいう二丁拳銃。

空は気にした素振りもなく、ホルスターから抜いたりしまったりしながら具合を確認していた。



それから2時間ほど経過。

最後にホーネットがセーフハウスへと合流した。

セーフハウスは既に過密状態で、月と詠は目を回している。



「お待たせしましたね。どうです? 何か情報掴めました?」


「敵はゾンビもどきって事だろ?」


「それは殺すのが大変そうです。では私から調べた情報を一つ。連合軍はどうやら内通者を得ていたようです。虎牢関での防衛はまずか1日で瓦解、敵本隊は既にこちらに向かってますね。早く脱出する事をお勧めしますよ。計算では明日早朝には到着予定です」




糸目のホーネットがもたらした情報は少しばかり衝撃が強かったのだろう。

軍師の詠が「何で?」って顔をしている。

詠の予測では数日は持つと確信があったから尚更だった。



「随分とお仲間を信頼してるようですが、戦争の勝ち負けを決めるのは情報ですよ。どんなに優れても筒抜けでは簡単に瓦解します」


「それよりホーネット、敵の内通者の情報」



空が気になったのかホーネットへ更なる情報を求めた。

防衛が抜かれたことよりも内通者の方が重要と見ていた。



「我々と同じ存在ですね。用意周到に官軍に変装しているようです。姿を捉えることは出来ませんでしたよ。そしてその情報のやり取りの方式さえ不明です。何せ傍受できなかったもので」


「隊長、早くここから出た方が良い。もしかしたらこっちの情報がバレてる可能性がある」



空が警戒していたのは内通者の能力。

ホーネットの情報を聞くだけでも敵が恐ろしく有能である事が分かってしまう。

悟らせない情報通信の技術と、1日で攻略させる手腕。

どれをとっても恐ろしい能力をしている。

まるで、こうなる事が全て決まっていたかのように進んでいる。

凄く悪寒が走るのを感じた程だ。

それはファントムも感じたのか、ヘルメスへと呼び掛ける。



「ヘルメス、ストライカーは?」


「街の外に隠している。ここじゃ乗り回せないからな」


「案内しろ、今すぐ行くぞ」


「了解、隊長」



全員がセーフハウスから動き始める。

ローンウルブズ総勢15人と月と詠を足した17人。

結構な大所帯である。

軍における小隊のように、警戒し街の外を目指す。

道のりは遠くないが、近くもない。

それが行けなかったのだろう。

董卓の存在を保護すべく急行してきた一刀の少数部隊と出会ってしまった。

街の中で__


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