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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
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22話 脱出劇

移動から数日。



「ッ!……」



装甲車から降りて、外から見える騒動に空は驚愕としていた。

目を見開いて、その光景を食い入るように見ている。

視線の先にあるのは洛陽の街。

通常なら何ともない筈が、連合軍に抜かれたわけでも無いのに街から煙りが立ち込め、城門にはおびただしい数の人が取り付いている。

さながら地獄絵図。

今まで色々な地獄を見てきた中でも、初めてみる光景だ。

その光景を前に、ローンウルブズのメンバー達は息を飲むと、その手に銃を持った。

皆、初めて見る地獄の光景だ。



「ハルトマン、ストームと連絡は?」



ファントムもこの状況は不味いと判断し、ハルトマンへストームの安否を確かめさせた。

ハルトマンはストライカーに取り付けられた無線装置を使って連絡を取ろうとするが、思わしくない顔をした。



「ネガティブ、ノイズが酷い。辺りに妨害電波が出てる可能性があります、隊長」


「了解。敵との交戦は避けられないと判断する。ここで戦力分散は望ましくないが……ここの奴等はそんなヤワじゃないだろう?」



ファントムが大胆不敵に笑った。

ローンウルブズの面々も口元には悪役然とした笑みを浮かべ、バラクラバを被っていく。

その姿は第三者からは悪役にしか見えない。



「さて、ゾンビ映画さながらの突貫だ。作戦は簡単だ。街でジャミングを行なってる敵を排除する部隊と、捜索の部隊。これを二人一組(いつもの)でやるぞ。連絡は信号弾で行う」


「街での交戦規定は?」


「制限はナシだ」


「了解!」



ファントムからの許可で全員が長物のチャージングハンドルを引いた。

それぞれに弾が装填される。



「俺はストライカーを見なきゃいけないから待機だな。所定の信号弾で援護に向かう。ハルトマン! お前にここにいない連中の連絡を続けて欲しい」


「了解しました。なら私とヘルメスで動きます」


「さっすが!」



ヘルメスとハルトマンでコンビが確定し、居残り組が決まる。

他のメンバー達は既に準備を終えており、ファントムの言葉を待つ。



「さて、状況を開始だ」



ファントムを含め、6人が洛陽へ向かう。




「そろそろと思ってたけど、随分お早い到着だ」



シエルは一人、洛陽城の上で街を眺めていた。

そこから分かる異変。

仕込まれた黄巾党達の暴れ方に変化があった。

まるで本能で暴れてる黄巾党だったが、今は敵を見つけたかのように一部地域に向かっている。

統率も何もないが、戦闘が出来ることだけは評価できる。

時間稼ぎにしかならないが。



「あのエスは危険だなぁ。人を支配するのに暴力はいらないか……」



エスと名乗る男によって支配される黄巾党。

まるで理性は存在していないが、その本能だけで暴れるのも十分な脅威だ。

しかもそれを暴力による恐怖で従わせた訳ではないのだから恐ろしいとも思う。



「もし言葉だけで人の意思を支配出来るのなら、この世界の支配者達にとっては天敵にも等しい」



シエルですら本能的に拒否を示すエスの存在。

それが吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。

通信機器がなり、シエルはそれを取る。

妨害電波では遮断出来ないレーザー通信方式だ。



『シエル君〜。そっちの状況を聞かせて貰えるかな?』


「まだ見つかってませんよ、支配者(アドミニストレーター)


『だろうね。僕もそこまで早急に進むと思ってなかったからね。どうだい、見つかりそうかな?』


「どうでしょう。董卓達は身を潜めているのか、ゾンビもどきでは限界があるかと」


『分かった。じゃあ、適当にこなして帰っておいで。まだ無理に仕留める必要は無いからね』


「なら、適当にデータを採取して帰還するよ」



適当な報告が終わり、通信が切れる。

シエルは溜め息を吐く。

そして、新たに別の通信をかけた。

出るのはエスだった。



「エス、説明を貰っても?」


『ああ、アレか。アレは理性にマスキングをかけて、意識を特定の方向に向けさせただけだ。黄巾党は、言わば董卓達に怨みがある。仲間を殺された怨みと言うのは心の底に残りやすい物だ。敢えて理性にマスキングをし、その部分を前面に押し出してやれば後は勝手に動く。そう言うものだ』



あのゾンビ達の動きの法則にようやく理解が追いつく。

ある意味生きる屍になっているとも言えた。

少し同情してしまうほどだ。



『君の兄、ルーラーって言うんだっけ? それとも海と呼んだ方が良いのか? まぁ、どうでも良いが、彼は残党を見つけて交戦してる。君は君の役割を果たして貰わないと』


「分かってる」


『じゃ、期待してテンシサマの遺体を待ってるよ』



ブツリと無線が切れる。

所属する組織のトップ、支配者(アドミニストレーター)よりも読めない相手のエス。

裏で暗躍するタイプなのは明らかではあるが、最初の無線の相手であるアドミニストレーターが信頼する以上は従う他ない。



「やりたくはないけど、しばらくは道化を演じるとしますかね」



エスの言うテンシサマを探して城へと挑む。





ストームは勢い良く家の中に飛び込むと、ドアを閉め、近くにあった家具でバリケードを作った。

幸い黄巾党達にはバレてはなく、ホッと一息を吐くと建物の二階へ上がる。

そこには月と詠の2人がいた。

襲撃以来、こうしてセーフハウスに身を隠し、やり過ごしている。



「戻りましたよっと」


「ストームさん、どうでしたか?」


「ダメだな。楼杏を見つけられなかった。出入り口もダメだな。奴等が徘徊してる。援軍が来るまではこうだな」



その言葉に2人は肩を落とす。

もう既に何日もこうして隠れて生活している。

ストレスや不安、死の恐怖が隣り合わせな状況では仕方の無いことであるが、脱出が出来ない以上はこうするしか方法が無い。



「限界か?」


「大丈夫です……」


「月が大丈夫なら私も大丈夫」


「大丈夫じゃねぇな」



2人に限界が近い事は目に見えて分かる。



「こうならソラと変わって貰うべきだったか」


「貴方も十分よ。これ以上は我がままになるわ」


「アイツなら護衛に強い。こう言った状況でも必ずひっくり返すからな。俺はこう言ったのは苦手だ」



ストームも空も戦闘力はかなり高い。

だが、向き不向きってものがある。

空は護衛に関しては飛び抜けているが、ストームは攻撃、強襲が飛び抜けている。

それが自身のカードネームの元になっている。

汜水関側になったとしても防衛な以上は不向きなことは変わらないとも言える。



「そう? アイツ、この間護衛は苦手だって言ったわよ?」


「ソラはこう言った状況の経験が多い。だからこそ必ず__」



言い終わる直前、洛陽の街に炸裂する音が鳴る。

ストームは心当たりがあるのか、窓に飛びつくと外を見た。



「ツイてるぜ」


「何よ、今の音?」


「すぐに準備しろ。ここを離れるぞ」



ストームは2人に準備するように促すと、信号弾を撃つ銃を探し始める。

しかし、そこには5.56mmの弾が入った木箱はあれど信号弾を撃つ銃も、弾も無かった。



「クソッ、しくじった……無線が使えなくなった時に準備すべきだった……」


「あ、あの、ここを離れるって一体?」


「ああ、救援だ。連絡が取れなくなってる事に気がついた仲間が助けに来た」



その言葉で2人に希望が差し込む。

表情が暗いものから回復し、動きも軽やかになって荷物をまとめ始める。

ストームもリュックへ弾を込めたマガジンをいくつか入れ、携帯食料へ手を伸ばす。



「残りの食料も不安だな」



このまま数日が流れれば間違いなく持たない食べ物。

救援のタイミングは丁度良かったとも言える。

負ける気はなくとも、2人の心がいつ折れてもおかしくはなかった。

仲間に感謝しながら、必要なモノを詰める。

リュックを背負うと黒色のミリタリーストールを羽織る。

口と鼻を覆う防毒マスクを装着し、ストールのフードを被れば準備が整う。



「よし、行くぞ。南口の近くに別のセーフハウスがあって、そこに無線装置と信号弾がある。無線は掛かるか分からんが賭けてみる価値はある」


「はい!」


「ええ、でも外は敵だらけよ?」


「人の居ない道をさっきまで調べてたんだ。奴等、比較的明るい場所を陣取ってる以上は、裏道を駆使すれば数時間で辿り着けるさ」



最後にスリングベルトをつけたSIG MCXを掴み、肩からかける。

2人を先導しながら1階へ降りると、裏口へと移動する。

ドアを少し開けて、人の有無を確かめた後、2人に振り返った。



「生き残る為にチャンスは自ら掴むべきだ、違うか?」


「いえ、違いません」


「なら、ちょっとだけ我慢してくれ。希望はある」



ドアを蹴り開け、クリアリング。

戦闘モードに入ったストームは警戒を常にしながら2人に手招きをする。



「よし、いくぞ」



3人の脱出劇が始まる。



その3人の移動する姿を見下ろすエス。

エスは誰かと無線のやり取りをしながらも、3人の姿を目で追っていた。



『人は思っている以上に言葉を軽視しているが、私はそうは思わない。言葉____言語と言うのは人間の意思の支配そのものだ。言葉が変われば、考え方が変わるように、意思を変えるのはとても容易だ。もし、彼等が確固たる意思があるのなら、それはそれで面白いと思うよ』


「相変わらず、人を試すような事を。で、いつになったら姿を見せるつもりだ?」


『まだその時では無いよ。いずれ見せる時はある。それまでは、君の力に隠れさせて貰うとするよ』


「そうかい。また掛ける、軍師ドノ」



そう言って無線を落とす。

エスは笑うと、ジャミングに使う装置の遠隔操作パネルを弄り始めた。

出力を大幅に上げ、全てのメモリをHighにセットする。



「ここまで読んでるとは恐れ入る。だが、まだ混沌を振り撒くだけだ。せいぜい俺を楽しませてくれよ」



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