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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
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21話 転進

汜水関を放棄した事に気付いた曹操の手によって1日で陥落。

防衛線は虎牢関まで下げる事になった。

そこまでは想定内だった。

そう、"だった"のだ。

防衛から丁度一週間。

突如、届いた伝令により虎牢関は騒ぎが起きていた。

その問題を解決するため、防衛ラインの要の関所に詰める将軍達とローンウルブズの面々が卓を同じにして囲っている。

そこには汜水関にいなかったハルトマン、ヘルメスの2人も加わっていた。



「さて、今日届いたっちゅう伝令に洛陽が攻撃に遭ってる内容がある」



露が伝令の内容を要約、それを伝えた。



「だから、このまま防衛を続けるかどうかを決めたいんや」


「決めるも何も、洛陽が落ちてしまえばここを守る意味がないだろ」



一番に意見を出した華雄。

それは最もな意見だ。

頭の無い体は動かないように、国が無い軍隊というのも機能不全に陥る。

他にも、洛陽が落ちたら挟み撃ちに遭う、敵の陰謀ではないか、と意見が出てくる。事態は悪化の一途を辿る。

ローンウルブズは静観を決め込み、決定するのをただ待っている。

彼等にとっては依頼者の決定にただ従うだけ。

合流したファングがファントムへ近寄ると、耳打ちで状況の確認をとった。



「ストームと連絡は?」


「つかん。何かあったのは事実だ」


「なら引くか?」



ファングが提案したのは依頼破棄。

彼にとっては目の前の光景はどうでもよかった。

メリットが無い以上は続ける必要がないと言うこと。

ドライだが、傭兵然とした姿。

ファントムはファングの言葉の裏を読むように思考する。



「そうしたいが……」



ファントムは概ね同意を示すが、部隊の中に依頼達成にこだわるのが1人だけいる。

天の世界と呼ばれる現実世界において、1回の失敗を除き全ての任務を達成してきた男。

今はただ席に腰掛け、時が過ぎるのを待っている__空。

そこでファングが空を使ってここを乗り切ろうとしていることに気がついた。

ファントム以外も何か気付き、空を見る。

視線に気が付いた空は勘弁してくれといった態度だった。



「ノーコメント」



空だってこの状況は良くないを知っている。

ここで視線が向いた理由も予測がつく。

ファントム達がやりたい事も気が付き、空は自ら考える必要ご無くなったと思考を放棄した。



「隊長はあんただから、そっちで決めてくれ」


「そうか。提案がある!」



丸投げの結果。

ファントム達の進みたい方向へと進み始めた。

ファントムの騒ぎの中で良く聞こえるような大きな声に全員が注目する。



「ここで戦力を大きく分散してまで洛陽に戦力を送るのは得策ではない。ここの防御力に影響が出ない程度に洛陽へ人を送るべきと判断する」


「その影響がないのはどれくらいだ?」



華雄が眉を挟めた。

何を提案するつもりなのかの真が見えてこない。

怪しさ満点である。



「俺達8人を洛陽への増援として派遣する」


「この状況で何ゆうとるんや! ここであんさん達が離脱したら連合の思うつぼや!」


「いや、案外そうならないと思う」



黙っていた空がファントムの援護に回る。

空が推測した方向通りでもある以上は時間を無駄にしたくはなかった。



「向こう側の天の兵の勢力は潰した。文字通りの全滅。後はあんた達が知る程度の戦力だ。俺達が欠けても十分に対処可能だ」


「何故そう言いきれる!」


「まだ説明が必要なのか?」



空が突っ掛かって来た武官を鼻で笑った。

それはもう十分な喧嘩の売り方だった。

血管が浮き出るほど顔を赤くする武官に、空は更なる挑発をしてしまう。



「それとも俺達がいないと何も出来ないのか? そんなんだから求心力が下がって内乱になる訳だ」



燃え上がった火に大量の酸素を吹き込む勢いだ。

相手の怒るツボを分かっているのかいないのか……

武官は空の胸ぐらを掴み上げた。



「こ、このッ!……ぐっ!」



武官の喉元へ手刀を入れ無理やりに離れると、咳き込む武官を睨みつけた。



「貰った分の仕事はした。これ以上と言うなら、この国を俺が潰す」


凍りつくような殺気と、冗談には聞こえないソレは、黙らすのには効果覿面である。

喉を疲れた武官は恐れをなして空から距離をとってしまう。

下がって以降は、誰もが沈黙する。



「他には?」


「おーい、そ、空……?」



明らかにやり過ぎな空にファントムは度肝を抜かれていた。

まさかここまでするとは思っていなかった。

それは漢の武将達も同じだったようで、皆同じようにぽかーんとした顔をしていた。



「……わ、分かったわ! 後はこっちぃで何とかしてみるわ。だから月達を頼んだで」


「了承を貰ったぞ、隊長?」


「あ…ああ。では我々は準備に取り掛かるのでこれで」



そう言ってファントム達は、やっちまった……そんな表情をしながらそそくさと退室していく。

最後にお腹を抱えて笑ってるレインと、やり切ったとドヤ顔の空が退室していった。

廊下へ出た一行は洛陽へと戻る為に移動を開始する。

最後尾を歩くファングは空の横につけると、呆れた表情をしていた。



「容赦ねぇなお前」


「あれでまだ頼るようなら底が知れてる」


「顔を真っ赤にしてたぞ、酸欠で倒れたんじゃねぇの?」


「なら関所の上から投げれば良い。下には餌を欲してる魚がうじゃうじゃいる」


「その魚、飢えに飢えてるから取り合いになるな」


「だな」



ファングは笑いながら空の背中を叩き、先へ出る。

洛陽方面の門は既に開けられており、そこにはAPCと呼ばれる装甲兵員輸送車___ストライカーが存在感を出していた。

軍議前に整備をしていたヘルメスは、得意そうな顔で乗り込んでいく。



「これ、パーツから組み立てるの大変だったんだからな!」


「そんなのよく出来たな……」



ストライカーを品定めしながらも、素直に感心しているイーグル。

隊長であるファントムは事情を知っている為、何事なく後ろのハッチから乗り込んでいく。



「で、コレの運転、誰がするんだ?」


「は? そんなの俺だろう? 他に誰かいるのかよ」



ヘルメスのその一言で全員が『ああ……』と溜め息を漏らす。

空は無言で乗り込むと目を瞑ってジッと動かなくなった。

雨風に耐える日本の地蔵の様に動かない空の諦めにも似た行為に全員が息をのみ、空に習ってジッと座っていく。

あちこちから漏れるため息。



「うっしゃおらぁ! ガンガン飛ばすゼ!」



やけにハイテンションなヘルメスの雄叫びが装甲車内に響くと、タイヤがフル回転しながら地面を削って進み始めた。

重たい装甲車だというのに、レースカーさながらのスタートダッシュ。

中にいたメンバー引っ掻き回されるのを耐えながら洛陽を目指す……





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