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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
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20話 洛陽動乱

洛陽


攻め込まれるとの不安から住民達は浮足立っていた。

逃げようと街を出る者、最後まで街に残ると言い張る者。

残念ながら善人だけがある訳では無い。

火事場泥棒を働く者、堂々と殺人を犯す者。

警備の兵が総動員されて、何とか押さえ込みを図っているが、状況なだけに対応に遅れがでていた。



「ソラ坊じゃないからな。上手くできないのは諦めてくれ」


「いえ、そんな」



ストームは申し訳なさそうな表情をするが、月もそれをなだめている。

月の映る視界の先にある光景に、言葉が見つからないというべきか。

それをデジャヴでも見たかのような反応をするのが一人。



「しかし、アイツも容赦無いけど、あんたも大概ね」



詠も月と同じ光景を見て、驚きより先にあー、またかとばなりにため息を吐いた。

それもそのはず、街からの避難を誘導してた先、「お前のせいだ」と月に刃物を向けた男の首を、ストームが後ろから左右に捻ったのだ。

あまりの速さに刃物を持った男は、何が起きたのか分からずに意識を刈り取られたのだ。

一瞬で事切れた後は地面に放られる。

その光景を見た詠は、ストームに空の姿を重ねていた。



「言い訳をすると、俺はアイツ見たいに護衛が得意ではないんでね。どちらかで言えば、攻め滅す方が好きだ」


「ほんと危険人物ね」


「お褒めに預かり光栄です」


「皮肉よ! ほんと……どうして貴方達には皮肉が通じないのよ!」



空と同じ反応をするストームに憤慨する詠。

その反応にストームはにこやかに笑ってみせる。

そこで詠は、ストームが空に似ているのでは無くて、空がストームに似たのだと理解した。

タチの悪いことに、ストームは皮肉を言われている自覚を持っており、詠の反応を楽しんでいる分、空よりも強敵である。



「まぁ、そんな事よりだ。避難状況の進捗が知りたい。場合によっては戦場になる事は覚悟しとけ」


「まだ、半分程が避難した程度。全員が避難するには後数日かかるわ」



それを聞いたストームは落胆する。

こんな大行列を後数日も護衛するには少々気が重い。

内心、放り出して戦場に出たい気分だった。



「門を爆破しちまうのが楽なんだが、そうも言ってられないしなぁ……」


「そんな事したら、防衛なんてできないじゃない」


「だから俺は苦手なんだよ。誰かを守るなんて性に合わねぇ……」



それは本心から出た言葉。

ローンウルブズは能力が高い者の集まりでも、向き不向きと言うのは存在している。

ローンウルブズは基本的に、攻撃に優れた部隊だ。

中には諜報に優れた者もいるが、基本的には特集部隊崩れの集まり、空に至っては少年兵と来た。

基本的にしがらみが無い部隊なだけあって、日々は戦に明け暮れている。

だからこそ詠は戦う根本にあるものが気になった。



「なら、何のために戦ってるのよ?」


「ああ? そうだな……秘密だ」



歯切れ悪く誤魔化されてしまう。

だが、余計に気になってしまう。



「私達に言えない事なの?」


「まぁ、そう言うこと。正直褒められたもんじゃない」


「ふーん」



気にはなるが、追求しても答えは来ないのは分かっている。

だから納得いかなくても諦めるしかなかった。

それからストームとは避難に関する情報のやり取りを行なった。

避難場所はどこか、洛陽での戦闘はどうするのか、戦闘後の街の復興などなど__

時間があっという間に過ぎていく。

だが、それは新たな問題が起きるにはとても短いとも言える。



「賈詡様! 南門より、黄巾党の残党が出現。こちらの呼び掛けを無視して城門を攻撃しています!」



伝令が状況を伝えに来ると、それはありえない状況だと捨てたくなる。



「はぁ? どう言うこと?」


「こちらの呼び掛けに対して、まるで理性の無い反応を示しているんです。このままでは抜かれかねません!」


「分かった。部隊を回すわ! 直ぐに伝令を!」



こんな時に!と吐き捨てる気持ちを飲み込み、対処を指示する。

そこは軍師たる詠。

住民の避難に支障が出ない采配をする。



「俺が行く。流石に無視は出来ない状況だ」


「頼んだわ!」



洛陽は不安の空気に包まれる。





空とよく似た姿をした少年は城門に取り付く黄巾党の残党を見て無線を掛けていた。



「さて、順調っと。ねぇ、これも君の案?」


『ああ、そうさ。問題はないだろう?』



無線から返ってくるのは実に楽しそうに弾んだ声。

少年は眉を挟めた。



「確かに問題はないよ。でもこれは、まともとは言えない」



目の前の光景にそう言わざるおえない。

まるでゾンビ映画を見てるようだった。



『そりゃ奴等正気じゃないからな。俺達の軍師による案だ。なかなかいかすだろ?』



正直何を言いたいのかさっぱりだ。

しかも、その軍師を一度も見たことがないために信用する方が無理である。



「その軍師を僕は一度も見た事がないんだけど、その辺の説明は貰えるのかな?」


『姿を見せないのには理由がある。そのうち嫌でも見ることになるさ。それで、お前はお前の仕事が残ってるだろ?』


「はいはい、わかってますよ。やりますよ、エス」


『そうさ、それでいいシエル。お前は駒だからな』



ブツンと無線が切れる。

文句の一つも言ってやりたいと思う少年__シエルは城門に取り付くゾンビもどきどもをもう一度見る。

知性の欠片もなく門を攻撃してるだけだった。

一体、何の実験かも分からない以上は追求しても答えは得られない。



「さて、世界の歯車(ワールドギア)のシエルとしてやるか……」



シエルは刀を掴むと、ゾンビもどき__黄巾党に紛れていく。


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