12話 汜水関
連合軍は各地から合流、大きな部隊へと成長し、長い列を作りながら汜水関を目指して進んでいる。
その最前列では緑色を基調とした防具をつけた兵が列をなしている。
「雄々しく、勇ましく、華麗に進軍ねぇ…」
その中で本郷 一刀は、劉備玄徳こと桃香達と共に、汜水関に向けて進軍していた。
白蓮からの提案により幽州を中心とした連合を組んだとは言え、反董卓連合内では利権のチラつかせや、主張の食い違い、はたまた一番槍はどうするかなど、問題を上げるとキリが無い。
それに巻き込まれ、内心うんざりとしていた。
そして、あまりの決まらなさと袁紹による田舎者イビリに、一刀はついカッとなって大ボラを吹いてしまい、ならばやって見せろとばかりに一番槍を命じられて現在にいたっている。
作戦は蜀の名軍師2名よる案で、猪武者をおびき出して関門を開けさせるという事。
だが、汜水関に近づくにつれて漂う不気味な雰囲気を感じとり、肌がピリピリと痺れる。
その不気味さを感じたのは一刀だけではなく、横にいる桃香が桃香が心配そうに見つめてくる。
「大丈夫だよ、ご主人様。愛紗ちゃんや鈴々ちゃんがついてるから。それに、今はともかく生き残ることを考えないと………」
「そうだよな、もっとしかっりしないとな」
「伝令! 汜水関が見えてきます、そろそろ部隊の展開の御準備を」
「分かった、ありがとう。戻っていいよ」
「はっ! 」
そう言って伝令の兵は自分の持ち場に戻って行く。
一刀は自分が大きな錦の旗になりつつある事に、少し不安を覚えながらも虚勢を張るしか無い現状、気丈に振るってみせる。
それでも足りないと、両手で自分の頬に喝を入れた。
「よし! 頑張んないとな」
「そうだね、ご主人様」
一刀と桃香は互いに見つめ合い、頷く。
気持ちは一つだと確認を終えると、2人の元へ集う者達へと激励を飛ばす。
「今はこれしか言えないけど……頑張ろう! 」
「ガッテンなのだ、お兄ちゃん」
「ふっ……やってみせましょう」
「もったいお言葉、必ずや良い知らせを」
劉備の旗本に集う将達が、三者三様に返事をしてそれぞれの部隊へ展開を始めた。
展開していく部隊は烏合の衆でありながらも訓練され、その動きは機敏だ。
一部は黄巾の乱によって経験も積んでいる。
そんじょそこらの相手に負けるとは思えない
だが__
「心配?」
「あぁ。ぶっちゃけると心配でどうしようもない。俺がこんなとこにいて良いのか不安だってある。でもそれ以上に皆んなに生きて帰ってきて欲しいんだ」
「大丈夫。きっと元気な姿で戻ってきてくれるよ」
「ああ!そう信じてる」
一刀に気合が入ると同時、本隊から作戦開始の合図である銅鑼が鳴り響いた。
◆
一方の汜水関。
関所の上では慌ただしく兵達が戦闘準備を行っている。
その中、ドッグは双眼鏡を除き敵対する者達を見ていた。
「さて、どうしたものか」
汜水関の上で、ドッグは困ったようにポツリと呟いた。
ドッグの視線の先には、広くはない街道を埋め尽くす軍勢。
蟻の行列の方が幾分マシに見えるほど人で溢れかえっていた。
諦めたかのように双眼鏡を下ろすと、汜水関で待機するローンウルブズの面々は思い思いに過ごしている。
ローンウルブズのメンバーのうち、関所の防衛に回ったのは、ファントム、ドッグ、ハルトマン、ファング、ソラ、レイン、イーグル、ヘルメスの8人。
残りのストーム、ヴァイパー、ホーネット、ゴースト、ジョーカー、コブラ、ファットマンの7人は洛陽とその近郊の防衛に回っている。
関所の防衛に回っている中でも、虎牢関で準備を進めるためにヘルメスとハルトマンの2人は下がっている以上、現状6人で連合から汜水関を防衛をしなくてはならない。
目の前の光景を見た以上は、絶対に勝てるとは言えなくなってしまう。
「連中、やけに指揮がはっきりしてないな」
「ファントムがそう思うなら、所詮は烏合の衆だな」
ファントムが双眼鏡を覗き、得た感想はすこし呆気に取られたようだった。
彼は少しばかり、現代の兵の指揮系統を想定していたらしい。
そのギャップを埋めるのには少し時間が必要そうである。
「烏合の衆でも、数だけは本物だ。侮るなよ」
「分かっているさ。俺達に明日が掛かっている以上はそれなりな働きはしますとも」
「それに、小規模の部隊で見てみればかなり出来るとかもいくつかあるな」
「なら、指揮系統を混乱させるか?」
「狙ってもいいが………ソラ、お前ならどうする?」
「地雷を仕掛ける」
「もう手遅れだな」
ファントムが空へと案を求めると、凄く興味なさそうに即答した。
しかし、地雷を仕掛けるには敵が汜水関へと展開してしまってる以上は不可能と言える。
目的は防衛であって敵の殲滅でない以上は、まだやりようというものはある。
「連中の数からして糧食に余裕は無いだろう。とりあえず10日だ。それほど足止め出来れば、こちらの思惑通りに事が運ぶ」
「地獄の1週間よりキツそうだ」
「言えてる」
「展開準備しろ。発砲は許可、ただし指揮官級の殺害は認めない。こんなところでタイムパラドックスを起こさせる訳にはいかない」
「了解した、隊長」
「ソラもいけるな?」
「大丈夫、任務は頭にある」
「なら、こちらも始めよう」
こうして双方の展開が終わり、戦いに幕が上がる。




