11話 連合
「危惧していた自体になったわ」
賈詡こと詠が会議の始まった開幕にそう告げる。
その言葉は誰もが恐れていた事。
漢軍が袁紹を洛陽から追い出した事から始まってしまった、反董卓連合についてだった。
空は護衛と言う形で会議に出席しているが、口出しは一切行わない。
ましてや、興味すら無さそうである。
あれからと言うもの、空の姿を見た者達は空を露骨に避けるようになっていた。
喧嘩を吹っかければ殺される。
そう認識したのだ。
空も訂正をしないものだから、洛陽に広まる噂の中に人の姿をする化け物がいると伝わっている。
それが、反董卓連合の組織に起因しているのかは誰も分からない。
「さて、どうするんです? 滅びますか?」
ローンウルブズの中から発言者が出る。
コードネームはホーネット。蜂とも呼ばれる男だ。
「滅びる訳ないでしょ! 何としても、生き残るの!」
「勝ち目はほぼゼロ。粛清で物資も兵の質も劣る今、どうすると言うんです?」
「篭城よ。連合の通る街道に大きな関所が二つ。汜水関と虎牢関。この二つで防衛し、時間を稼ぐ。旗色が悪くなれば、彼等は連合を保てなくなる」
「なるほど。後で、情報共有を。こちらで工作出来るならば、それに越した事はありませんのでね」
「分かったわ」
それから軍議は緊張を保ちながら進んでいく。
ローンウルブズからの発言はホーネット以降は出ず、汜水関と虎牢関の両方が落ちた場合など、色々な対策が進められていく。
案も出尽くし、これで終わりというべき時。
隊長であるファントムが挙手する。
「我々の部隊を幾つかに分けるのはどうでしょう? 洛陽と近辺の防衛、汜水関と虎牢関の防衛へ割り振るのであれば、敵の出鼻は挫けるかと」
戦力の分散が避けられない中、その提案によって官軍は戦力を十分に関所防衛に務める事が可能になる。
少なくとも、彼等15人の働きと、強さはこの場にいる全員が把握している。
詠が頷くと、ファントムはそれに答えるように続ける。
「では、護衛の彼には汜水関へと向わせ、代わりにストームが貴女達の護衛を行わせます」
「分かりました。そのようにお願いします」
「頼んだわ」
そして、軍議は終了となる。
なんとか形を整えるまで持っていく事が出来た事に、月と詠の2人は安堵の一息を吐く。
それからと言うもの、2人は執務室で残りの作業に取り掛かる。
まだ、護衛の交代は行われていなく、空も執務室で護衛を行なっていた。
「あんた、随分呑気ね」
詠はジト目を空へ向ける。
詠の視界に映る空は、自分の銃を分解して整備している。
小言の一つも言いたくなる。
「気を張り詰めたところで現状は変わらない。それに奴等、真正面からの大義を得たからか、暗殺の手は取らなくなった」
空が冷静に答えくる事に、詠はペースを崩される。
空の言う通りな事に、現状は嵐の前の静けさにも似た平和が訪れている。
空は、それを気にした様子すらなく、自分の職務を全うしている。
「本当ブレないわね、あんた」
「まぁ、まぁ、詠ちゃん。空さんは怖くは無いのですか? 逃げたって誰も文句なんか言えないのに」
「仕事な以上は、それ通りに動くだけだ。依頼主が望むなら悪事だって行う。それが傭兵だ」
「空さんが時々羨ましく感じます。自分の個をしっかりとお持ちで、強くあろうとする。私達に持ってないものを持っているのですから」
「君達は、俺達を天の御使いだの、天の兵だの呼んでいるけど、この世界の人と何も変わりはしない。君達が思ってる以上に、どこの世界もロクでもない」
整備を終え、空は銃を組み上げていく。
手慣れた様子で、数十秒もしないうちに元の形に戻ると、空は不敵な笑みを浮かべた。
「やつら、誰に喧嘩を売ったのか分からせてやるさ」




