8話 董卓に与する者
2020/11/21 大幅な修正 内容の変更
「おい待て止めろ! いや、止めてくれぇ! 賄ならッ!?」
ある1人の男が何かを言い切る事なく、勢い良く仰け反ると、全体重を地面へと引かれ転がった。
恐怖の顔の額には穴が空き、その穴からは大量の鮮血が流れ出ている。
ほぼ即死と言っていい。
倒れた後の目の前には、USP45と呼ばれる拳銃を手にしたガスマスクを付けた黒尽くめが立っていた。
地面に落ちた薬莢を拾うと、足で死んだ男を蹴るなりして生死を確かめた。
「クリアだよ」
「クリア」
「オールクリア、撤収ー」
同じ格好をしたのが他にも2人。
部屋には大量の死体が転がっている。
中には身体の一部が欠損した死体まである。
共通しているのは皆、顔に絶望を貼り付けて絶命している点。
命乞いすら虚しく、目の前の黒ずくめ達の手によって殺されていた。
黒尽くめの2人は燃える瓶を室内に放り投げた後、その場を後にした。
◆
空達ローンウルブズが洛陽へ来て一ヶ月。
彼等は今、洛陽で悪人を抹殺する仕事を行なっている。
董卓によるクーデター。
それは洛陽だけではなく、大陸中を震撼させた。
そして運悪く、その片棒を担ぐことになった15人は連日人を狩る。
だが、その数はあまりに多く、3桁を超えた辺りからローンウルブズのメンバーの1人である不知火 空は数えるのをやめた。
あまりの多さに無駄であると判断したのだ。
これからも増える事に多少の嫌気がさしていた。
「失礼する」
空がドアをノックして中に入ると、少女2人と、空と同じく黒の格好をする男が話をしていた。
少女の1人が空の姿を認めると、会話を止めて陰りのある顔で状況を尋ねてくる。
「空さん、どうでした?」
「あんたの依頼通り、十常侍の息のかかった商人を抹殺した。当然、機密文はその場で処理。遺体は焼いた。残念ながら十常侍への証拠は無かったが」
「こんな事になってすいません」
「…………」
空はそれ以上語る事なく、同じ格好する男の横に立つ。
少女は再び、深刻そうな顔で竹間に目を落としながら3人との会話に戻る。
「このままでは貴女を討伐する動きはとめられない」
「分かってはいるんです。でも病巣は取り除かねばなりません」
「このまま我々は貴女の味方はします。が、このままでは我々は悪人の抹殺で手が一杯で対処が出来なくなる。早急な判断が必要でしょう。既に十数回の暗殺未遂は見過ごすわけにいかないのが現状です」
「分かってはいるんです、でも今は少しでも……」
「そう言うと思っていたので、この者を護衛に付けます。それでよろしいですね」
「分かりました。ファントムさん、引き続きお願いします」
「では」
ファントムと呼ばれた男は部屋を後にする。
空は無言でその後ろ姿を見送ると、諦めたかのようにため息を吐いた。
「何よ。あんたもう少しやる気出しても良いんじゃないの?」
「無茶をする。普通ならここまで早急にやるべきでは無い」
「ご迷惑かけてすいません……」
「いや、仕事だ。依頼はこなす」
淡々と、ビジネス的にこなす空と、暗いながらも必死に気を保つ董卓こと月。
そこには彼女が本来持っている優しさが苦しめていた。
賈詡こと詠も必死に月をフォローし、支えているが、
このどうしようもない状況に限界を感じている。
空は無口ながらも2人を守るための護衛についた。
◆
朝から暗殺を仕掛ける者を返り討ちから始まり、昼には会議の護衛。
夜は睡眠を取る2人を暗殺されないようにと城の巡回。
1週間程経てば、2人も慣れてくるもので何も言わなくなる。
だが、城からの不満は全て空へと向かい、城に勤める者と空で睨み合いが起こっていた。
「いい加減、奴等を黙らす事は出来ないのか?」
「いや、仲間だからね! 息の根止めちゃダメだからね!」
「流石に邪魔だ」
「そんなの簡単よ、力を示せばいいのよ。そしたら嫌でも黙るわ。けど、彼等だって不満に思うのを理解するべきよ」
「暗殺者惨殺のどこに不満だ……」
「惨殺がいけないのよ。もっとこう……なんか無いわけ!」
粛清を行う以上、殺しはつきもので、放たれる暗殺者を殺すよりもいい案などある訳がない。
賈詡はなんとも言えないそれに、イライラするしかない。
「力を示すか……。最強の奴を叩きのめせば、奴等は黙るんだな?」
「そりゃ、黙るかもしれないけど……」
「この軍で最強は誰だ? 今すぐ潰そう」
言葉に感情がないのに、不思議おやる気に聞こえてくる。
詠は慌てて、月は苦笑する。
「味方なのよ! 潰しちゃダメでしょ!」
「お手柔らかにお願いしますね……」
こうして、護衛を務める空と最強の呂奉先との仕合が決定する。




