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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第一章 外史に落ちた一匹達
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6話 子供達

以下同文


「ありがとうございます。ありがとうございます」


「分かったから、それ以上はやめろ……」



村の長は空の手を両手で掴み、ひたすら礼を述べていた。

困った空は誰かに助けを求めるが誰にも助けて貰えずに長の両手から逃れようとしていた。

あの報復の一件の後、元賊である青林を連れてアジトに保管された宝を回収した。

村の人々は感謝こそするも、その宝は賊の討伐報酬として受け取ってほしいと申し出た。

ファントムは拒もうとしたものの、長の強い押しと、活動資金も何もない状況でそんな事を言える筈もなく、ローンウルブズの懐に入る事となった。

その得た活動資金を元手にファントムは現在仕事を得るべく村を出ている。

残るメンバーは全員休日という事で思い思い過ごしているが、空だけが村人達に引っ張りまわされていた。

それは賊の報復の際に空が一番目立っていたからと言う理由である。

村の子供達は、空に戦い方を教えてとねだったりするが、空は青い顔をして逃げてやり過ごしていた。

仕事上の関係以外での人付き合いを嫌うが故の行動だった。

だが、子供は何を勘違いしたのか、空が隠れんぼをしてくれているのだと思い、探し回っている。

まるで命の危機を感じるかのごとく、空は必死に逃げ回っていた。



「ソラ坊必死っすねー」



それを眺めているジョーカーは呑気そうに淹れてもらったお茶を啜っていた。

中々飲まない飲み物に興味深々で味わっていた。



「随分と他人事ですね」



横で同じくお茶を啜るハルトマンがツッコミをいれた。



「そりゃ他人事っすからねー」



そう言いながらジョーカーは楽しそうに笑った。

ハルトマンもそうですねと言いながら一緒になって笑っている。

一方の空は村長から逃げられたものの、今度は子供達に四方を囲まれていた。



「今日こそおしえろー!」


「「「「おしえろー!!」」」


「断る!」



そう言って空はベルトに付けられたm84フラッシュバンを抜こうとした。

だが、相手は子供。

近くにいたドッグが石を空の頭目掛けて投げつけてくる。

空はフラッシュバンに掛けていた手を離し、その石を掴んだ。

そこには英語でDon't away(逃げるな)と墨で書かれていた。



「はぁぁ……」



空は溜息を吐くと、降参だと両手を挙げた。

それから「ただし一つ条件だ」と付け加える。



「強くなって戦うと言うことは相手を傷付けるに等しいんだ。君達にその勇気があるのか俺に見せることが出来たら教える。それでいいな」


「分かった!なら頑張る!」


「僕も、僕も!」



空の言葉に元気良く答える子供達は一斉に何処かへと行ってしまう。

空は苦笑いでその背中を眺めていた。




「なるほど。あの賊達は黄巾党とやらの残党という訳か」


「はい。私も最初は官軍の1人でした。ですが、このどうしようもない現状にいても立ってもいられずに官軍を辞めて黄巾党に合流しました。最初は小さな烏合の集だったのですが、気付けばあのような輩が増え革命を志す人は少なくなってしまいました。あれだけ憎んだ力に屈した私も同罪です……」



空は賊の生き残りである青林からあの賊の元を聞いていた。

黄巾党、西暦184年に起きた黄巾の乱に加担した太平道の信者の事を指すのだが、空がローンウルブズ内で教えられた認識ではそれは農民反乱である。

決して賊ではない筈なのに、目の前の男は元賊である。

自身がそんなどうでもいい情報を覚えている事に驚かざるおえないが、この世界は空の認識とは乖離している。

疑問しか出てこない状況だが、その疑問を晴らしたのはドッグだった。



「たしか…演義の方では賊だったな」


「演技?オペラ座とかの?」


「それは歌劇だ。簡単に言えば脚色された小説だ。世界的にもある程度有名だと思うが?興味の無いものはとことん覚える気がないお前なら仕方ないと言えば仕方ないが」


「………」


「その様子だと本当に知らなそうだな。まぁ、俺も詳しくは知らんがな。少し前に誰かが似たようなモノをビデオゲームでやってたような気もするな」



ドッグは空の頭の上に手を置くと



「まぁ、助かった事を素直に喜べ。コイツは何も言わないと全て殺すからな。相当運が良い」



青林に笑ってみせる。

その一言で青林の顔は引き攣る。

自分よりも年下の少年がやるような事ではない。



「で、その様子だと乱は既に終わったみたいだが、それはどれくらい前だ?」


「確か2ヶ月ほど前です。負けて敗走した私達はバラバラになりました。最初は官軍の一部を襲ってましたが、あの者が頭領になってからは今のような形で襲えるなら何でも襲っています」


「おいおい、殺すつもりはないから強張るなよ。で、どうするか………もう、あの三国志の中へと片足どころか両足を突っ込んじまってる」



青林の発言によりドッグは額から冷や汗が流れる。

どっかの英国的な紳士の詩人が言った『事実は小説よりも奇なり』の状況と言える。

このあり得ない世界に、現在いるのだから不思議で仕方がない。

だが、大してそんな知識など蓄えていない空はドッグが冷や汗を流す理由はわからない。

空が一体どういう事なのかと目で訴えるとドッグはそれに答えた。



「この大陸内だけで世界大戦的な事が起きるからな。相当にマズイぞ。下手をすれば演義の出来事に巻き込まれる」


「回避方法は?」


「もちろんこの大陸からの脱出だ」


「ならさっさと……」


「大変よー!」


「……またなのか」



つい先日聞いたばかりの声が響き、また似たような状況に空は呆れるしかなかった。



「で、要件は?」


「はぁ、はぁ…こ、子供達が!く、熊に襲われて……秋が一人で!」


「方角は?」


「西の…吊り橋を渡った先に…」



その言葉を聞いて、空とドッグは駆け出した。





「グルルルッ!」


「来るなー!」



熊を目の前に一人の少年が怒鳴って威嚇していた。

空に言われ勇気を見せるために選んだ手段は熊の巣に近づくというものだった。

最初はビビっていた少年達だが、負けじと進むにつれてつい熊のテリトリー内に入ってしまい熊を怒らせてしまった。

熊は自身のテリトリーを脅かされて黙っていられず子供達を襲った。

少年達の中でも年長者である秋が他の子供達を連れて吊り橋まで逃げて来たものの、誰かが足首を挫いて立ち止まってしまった。

そして今の状況に陥っていた。




「グルルルッー!」


「た、誰か助け……」



少年の一人が届きもしないような小さな声で助けを求めた。

恐怖で顔は青く染まり、その手足はこれでもかと必死に震える。

秋は手に持った木の棒を振り回すが、それが余計に熊を刺激してしまう。

怒り狂った熊がその大きな腕を振り上げ、秋を殺さんとすべく腕を振り下ろそうとした。

もうダメかと諦めかけたとき



「伏せろ!」



と叫ぶ声が聞こえた。

秋は言われた言葉通りに反射的に伏せた。

振り下ろされた熊の腕は秋の体の上の空間を切り裂いた。



「空の兄さん⁉︎」



その声の方向を見れば足を挫いてしまった子供の服を無理矢理掴み、熊の一撃を避けた空の姿があった。

空は子供を空中へと投げるや、腰の抜けてしまった子供を無理矢理に立たせ



「早く行け!」



焦った声音で叫び無理矢理に橋を走らせる。

ドッグはほんの数メートルを飛んで来た子供を受け取り肩に担ぐと、動けない子供数人を無理矢理に抱え込み吊り橋を戻っていく。

それでも熊の前には秋と後3人の子供が取り残されていた。



「動けるな。今すぐその子達を連れて橋を渡れ」



熊と睨み合いながら空は秋へと語りかける。

秋はコクリと頷き、3人を立たせると橋へと逃げた。

残された空は熊と向かい合う。



「グルルルッ!」



再び熊が手を振り上げた。

空は秋が橋を渡る姿を確認するや、ハンドガンではなくスリングベルトで背負ったショットガン、レミントン社製M870を構えた。

それでも熊の一撃の方が少し速い。

空は再びその一撃を回避すると、その巨体の背中をターゲットしトリガーを引き絞る。

撃針が12ゲージ弾のリムを叩きプライマーが爆発する。

小さな爆発が12ゲージ弾に込められた火薬に引火し、更に大きな爆発を起こさせる。

爆発によって発生したガスが弾頭を押し出し、銃口から飛び出す。

しかし、飛び出したのは普通の弾頭ではなかった。


ただの火花。


発射時の火花を貰い、マグネシウムペレットが引火するドラゴンブレス弾と呼ばれる特殊な弾だった。

火花の塊は熊の巨体を包み込み、熱によるダメージを与える。

焼けるような熱さにに熊は堪らずに転げ回った。

しかし、命を奪う程ではなかった。

背中の毛が焦げたものの命に別状は無かった熊は戦意を失い、森へと逃げていく。

空はM870のポンプを引き、弾を排莢した。





「勇気と蛮勇は違う。……なんとも無かったから良かったものの、誰かが喰われたらどうするつもりだ」



事の顛末を聞いた空は呆れていた。

チキンレースをやって熊を怒らせたなどと、怒る事すら馬鹿馬鹿しく感じるぐらいだった。



「「「ごめんなさい……」」」



子供達が泣きながら空に謝り、頭を下げた。

反省はしている姿に空はそれ以上は追及はしなかった。

泣く声に混じり、笑いを堪えるかのような声が聞こえて来る。

足を挫いた子を背負いながら隣を歩くドッグだった。



「しかし子供には甘いなお前。大人なら容赦無く見殺しにしたくせに。お前が連れて来た子供達と重ねたのか?」


「うるさい。帰る。……ほら急げ。早く帰って寝なければ明日が大変だぞ」


「もう少し感情を出せば可愛さもあるのにな」



歩く速度を上げて行ってしまう空の背中を見ながらそんな言葉を吐露する。

中々見せる事の無い空の優しさを知るものは殆どいない。

ドッグですらほんの数回見た程度だ。

あの熊がメスであり、子供を守る為に襲っていたなどと空とドッグ以外は気付きもしなかった。


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