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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第五章 崩れ行く平和
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108話 洛陽へようこそ

「気付いていたのね、ソラ」


ミーナはふふっと楽しそうに笑うと変装をしていた付け髪を外すと、白銀の絹の髪がふわっと広がる。

可笑しそうに笑うミーナに目も向けず、空はぶっきらぼうに推理をこぼした。



「部屋の数と受付の時に見た帳簿の人の数が合わない」


「他には?」



相変わらず不器用なその態度が可笑しくて、ふふッと笑いながらソラの横に座った。

空は少しだけ警戒しているのか、チラッとだけ女将を見る。

格好は既に女将としてではなく、以前戦った時の格好になっており、髪も目立つほど透き通った白髪になっていた。

それから少しだけ間を置いて空がポツリと溢した。



「足音を消そうとして微妙に残る歩き方は君しかいない」



それを聞いたミーナ・ヴァイス・アルヴァーンは嬉しそうであり、寂しそうであった。



「ミーナとは呼んで呼んでくださらないのですね」


「お前達が知っているソラと俺は違う。今の俺はその記憶をしっているだけの別人だ」



敵対する意思が無いと分かった空は再び月を見ていた。

まるで何かを誤魔化すようであり、ミーナを突き放すような言い方だった。

と言うよりも、記憶しか知らない事を恐れている。

体を半歩ほど寄せると、空も半歩離れる。



「確かに喋り方も考え方も違う。でもソラはソラなの。不器用なとことか全く変わってないの!」


「……そうか」



彼女の喋りはこちらが素なのだろうと思う。

1人の女性で、きっと以前の自分は慕われていた。

記憶にはあるが、今の自分には凄く褪せたような記憶だ。

それこそ古い映像を見せられて、これが昔のお前だよと言われているような気分だ。

他人の記憶など今の俺に必要かと考えれば、間違いなく必要はない。

そう言うものでしかないのに、今の空の内には敵対心は沸かなかった。



「アルはどうした? それに何で敵対しない?」


「兄さんは今、この宿の部屋で治療中なの。私も兄さんも今は………」



ミーナは誤魔化したが、失敗して組織に追われているという事は直ぐ分かった。

そして妙だった部屋の数と人の出入りが合わないのも納得がいく。



「今は追われる身か」



空がそう言うとミーナはうつむき、小さく頷いた。

失敗したら口封じのために殺す、想像に難くない。

それこそ良くあるような話しだ。

けど、今の空には救う手立ては持っていなかった。

仮に持っていたとしても、徐州にいる人達には納得はされそうに無かった。

だからと言って、皆を敵に回してまで助けたいかと言われると、「いいえ」と答えられる。



「敵対するつもりがないのなら別にリークしたりする必要もないな」



空は警戒を解くと、銃を取り出して弾を抜いた。

これが空に出来る最大限の譲歩。互いに忘れるのなら、問題にすら上げなければ、それは問題ではなくなる。

それに、話を聞く限りでは元の組織は既に抜けてる以上は敵対する必要はなかった。

ならば、お互いに深いところまで探り合わなければ問題はないと空は判断した。



「お互い、あまり関わるべきじゃないな。リスクになるな」


「そ、そうね……」



だから唯一の問題はこうして会話をする事。

互いに知らないと言うには、ベンチに座って会話などするべきじゃない。

それを聞いたミーナは寂しそうに俯くだけだった。

立ち上がった空がミーナのその小さくなった姿を見た時、以前日本で見た少女の姿を思い出した。



「……ま、近くに誰もいないなら顔見知りでなくても一緒に月を見ていても不思議じゃないな」



言い訳を作ると空は再びベンチに座り直した。

ミーナは少しだけ嬉しそうに、空と世間話を幾つかすると、空達が向かっている場所の話題になった。



「ソラはこれから洛陽に向かうの?」


「ああ、情報を集めにな」


「そうだ。なら、これを持って行って!」



ミーナが空の手を取り、何かを握らせる。

手を開くと、そこにあるのは記憶媒体で小さなディスクを覆うように半透明な容器に包まれている。



「これは?」


「この世界の秘密よ。もしかしたらだけど、洛陽の地下には戦えない異世界人がいるって噂があるの。その人達なら何か知恵を出して解決に導いてくれるかもしれないわ。……でも今のあなたがこれを見ると何も信じられなくなるかもしれない」


「分かった」



空は深くは追及せずにその記憶媒体をしまった。

その光景にミーナは少し驚いていた。



「何も聞かないの?」



恐る恐るといった表情で空に訊ねる。

気にならないと言ったら嘘になるが、この世界の秘密を知ったとて何を出来るとも思わない。

だからそれは聞かなかったことにしてしまえばいいと半ば興味を捨て去るようにした。



「聞いたら不味いなら聞かない」



空の反応にミーナは少しだけホッとした安心した様子を見せた。

だが、空も気になる事が一つ。

こんなトップシークレットを持ち歩くなんて命を投げ捨てようとしてるのと同じ事だ。



「追われてるのはこれが理由か?」


「違うわ。それは逃げる途中で手に入れたの。結局、助命してもらうにも使えないから、私たちが持っているよりはマシなの」



偶然なのか必然なのか。

こんなヤバそうな情報を手に入れるにしても偶然にしては出来過ぎているし、必然だとしたらなにか別の意思があるのではと勘繰ってしまう。



「もしかしたらお前達は別の者に情報が渡るように仕向けられているのかもな。用済みと消されないように注意した方がいい」


「そうね。注意しておくわ」



そう言ってお開きになり、空は部屋に戻って行った。

ミーナも姿を女将へと戻した。



それから数日。

幾つかの宿と野宿を経て、空、柊、星の3人は洛陽へと到着した。



「ここが首都……」



柊が徐州と比べ物にならないぐらいな巨大な街に息を呑んでいると、空は馬を馬宿に預けながらそれに補足する。

星はなにやら行商人の荷車に積まれたメンマ壺に興味を引かれていた。



「元な。今は魏の領内だ」


「ふむ、前に来た時よりも随分活気は戻ったようだ」


「戦時中と一緒にするなよ。それとソレを買っても持って帰る余裕はないぞ!」


「わ、分かっておる!」



そう言いながらも顔はメンマの壺へ向けられており、空はため息を吐いた。

だが一つ作戦を思いついた。



「まあいい。そのまま観光を楽しんでくれ。…いや、むしろ観光してろ」



2人が観光にしてるうちに終わらせてようと言う魂胆を見抜かれてか、2人はジト目で空を見た。

空はゆっくりと目を逸らす。



「あ! 私達を置いていくつもりですね!」


「やはりそうであろうと思ったわ。この趙子龍の目を誤魔化せると思うな!」


「ば、馬鹿! 名前をこんなところで出すな!」



妙に息の合った2人に空はたじたじになりながらも、周りの目を避ける為に2人の手を取って人混みを抜ける。

手を引かれる星は空の背後で柊の方を向くと舌をペロッと出して笑って、柊も笑みを零していた。

以前セーフハウスとして利用していた家に着く頃には空は地に手をついていた。



「連れてくるんじゃ無かった……」


「まぁ、良いではないか。こうして到着したんだ、問題あるまい」



星は笑いながら空の背中を叩いている。

星の巧さに空は一杯食わされる形で一緒に行動する事になった。

結局、諦めた空は2人をセーフハウスに入れる。

以前洛陽で活動していた時に使っていた家も、今や埃をかぶっており、人の手入れが入ってないのがひと目でも分かる。

なんとも咳き込みそうになりそうな湿った空気だ。

柊は窓を開けて換気し、星も先程買ったメンマ壺を大事そうに机の上に置いていた。



「いつ買った?」


「さぁいつだろうな?」



ジト目で問い詰めると星は上手くはぐらかす。

そんなやりとりを何回か繰り返して、先に折れた空が柊と同じように掃除を始めた。

そんな空を星は物珍しそうに見ていた。



「お主なら生活の痕跡を残さないと言って埃に塗れて生活すると思ったのだが……さては綺麗好きか」


「1人なら地面にでも座って寝てたさ。余計なのが2人もいる以上は目立つから、少しでも普通に見えるようにしておきたいんだ」



空が皮肉で返してくる。

星はむっとするが、空はそんな星の表情など見ていない。

星は空の背中をしばらく眺めると、柊を手伝いに行った。

空は頭にはてなを浮かべながら作業に戻った。

柊の方では、いきなり将軍がやってきて箒を取って掃除しようとしてる姿に慄いていた。



「あの、趙雲様? 私がやるので休んでもらっても大丈夫ですよ!」


「やりたいからやる、気にするな」



そう言いながら箒を取ると、大雑把な手つきで地面を掃いていく。

槍は上手くとも箒の腕はイマイチのようだった。

見かねた柊は星を手伝い始め、2人は楽しそうにしている。

空はそんな和やかな光景を前に一瞬だけ笑うと、何事もなかったかのように1人荷解きを始めた。



それから日は傾き、夕刻。

空が外食を提案し、3人はセーフハウスを出て繁華街へと出た。

元首都なだけあってか徐州と比べるのもおこがましいぐらいに活気に溢れている。



「うわぁ、活気がすごいですね」



柊は目を煌かせ、あちこちの出店や屋台などに惹かれている。

その柊の横では星が何を食べるか悩んでいた。



「うーん、あれも捨てがいが、こっちも……」


「悩みますね、星!」


「柊、こう言うのは勢いが大事だと言うそうだ」


「そうなんですか? 私はそう言うのには疎いので……」


「まぁ、主からの受け売りだけどな」



いつの間にか真名で呼び合う2人。

そんな何を食べるか悩み視線を迷わせる2人とは違い、空はすれ違う人に警戒を向け、その瞳は小刻みに動いていた。

すれ違う人の袖には武器は隠していないのか、建物の間の影に怪しい人が隠れていないか、屋根に潜む人影はないのか。

何も信じられないから警戒するのか、何かを恐るから警戒するのか。

前者にしろ後者にしろ、その警戒心は異常ともいえる。

警戒に囚われているからか、最も近くを歩いている柊の声にも気が付いていなかった。



「あ、あの、空様!」



肩を叩かれてようやく柊に気がついた。

ようやく反応した空に柊はムスッと頬を膨らませていた。



「警戒する理由はわかります。けど、私達も警戒はしてますので何でも1人でやらないでください!」


「そうは言われても習慣なんだ」



苦し紛れに言う空の態度に星は吹き出して笑った。

通行人から視線が集まり、注目されても星は笑い、空は星にジト目を向けた。



「いやーすまない。ことごとく主とは真逆だなと思っただけだ」


「そりゃ育った環境が違う」


「確かにお主の武の才も知識も我々では届かない程だ。だから一人で何でもこなせてしまうのだろう?」  


「…………」



空は答えなかったが、図星もいいところだった。

人生思い返してみれば仲間に裏切られて以降は人を信用するのをやめて1人でやろうと努力した。普通なら直ぐに死ぬような体験をしてきたが、才能があったから元の世界で生き残り続けて、戦い続けた。

それを今の言葉で自覚させられたと言っていい。

空の無言を肯定と受け取った星は続けた。



「主は逆で、人に頼る事を知っていた。直ぐにと言わんが、お前も少しは頼る事を覚えろ。我々はお前が思うほど非力じゃない」



その言葉に柊はうんうんと頷く。



「そうですよ! 1人でやろうとするからあんか怪我するんですよ!」


「そう言われると耳が痛い……」



柊の援護に空は苦しそうに言う。

その空の表情は親に怒られて拗ねた子供のようであり、切れ長の目は視線を彷徨わせいた。

見慣れないその姿は少しだけ新鮮で星も柊も面白そうに笑った。



「笑う事ないだろ」



2人が笑い合う姿に空はどこか安心を覚えながらも、自分がその中心であることは面白くない。

ぶっきらぼうに返したところで、柊と星からからかわれるだけだった。

それから柊が提案した店に入る。

すると、そこには現代の武装した10人に護衛される曹操の姿があった。

曹操はまるで来ることが分かっていたかのように不敵に笑うと空達を歓迎した。



「洛陽へようこそ。私の国に何の用かしら?」



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