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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第五章 崩れ行く平和
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105話 戻りし日々

とある街。

動く人の影はなく、普段歩くのに使われる道には死体安置所と思わんばかりの人の死体が横たわっている。

炸裂音が数回響くと、建物や地面から衝撃を受けたように色々と飛び散り、破片を散乱させ、地面からは土煙を上げる。

死体にぶつかると、衝撃を受けた体は揺れ、破れた体の一部から血と臓器が溢れ落ちる。

冒涜的な光景の中、ストームは走っていた。



「急げ! 早く!」



ストームは近代化(モダナイズド)AKを構え、走る女性達の後ろにいる敵に向かって何発もの銃弾を放つ。

狙う先は後ろから攻め立ててくる黒い殺意の塊。

敵は即座に建物の影、障害物へと身を隠し、最低限の露出で銃を突き出し反撃を行ってくる。



「身をかがめて!」



血と土で汚れてしまっても高級さが残る衣服を纏う女性を半ば無理やり屈ませると、その頭上を数発の弾が通り過ぎる。

自身を盾に、女性を奥へと進ませるとAKを構えてトリガーを引いた。



「ぐぁっ!」



敵の1人が太腿に弾が当たり苦悶の声を上げて倒れる。

しかし、反撃は増す一方だ。

クソッ!と叫びたいが、敵がそれを許しはしない。

大量の弾丸が、建物や地面、死体へ突き刺さる。

5人を抱える以上は初めから攻める選択肢は初めから存在せず、後退するしか無かった。

敵は訓練され、雑兵のソレとは全くの別モノ。

言葉の端々にカバー、リロード、グレネードなど英語が目立つ。

そして動きも、連携を重視し、弾幕が途切れない。

一人では火力負けしていた。

そこへ、ヘルメスが運転するストライカー装甲車が互いの射線を塞ぐ様にドリフトをしながら停車。

上部ハッチが空き、ヘルメスが顔を覗かせる。



「ストーム!」


「こっちです、早く!」



ヘルメスが叫ぶと、後ろのハッチが開いた。

ストームは敵の足止めをしながら、全員を誘導する。

5人が乗る時間を稼ぐには少し足りない。

ヘルメスも上部ハッチから援護をしていた。

敵も黙ってはおらず、1人が背負ったRPG対戦車ロケットランチャーを展開した。

RPGが狙うはストライカー装甲車の横っ腹だ。



「来るぞ!」


「分かっている!」



ヘルメスの焦った叫びとは逆にストームの思考は冷静になる。

余計な雑音など聞こえない。

人の絶叫も銃撃の音さえも、すーっと消えてゆく。

構えるAKの照準が敵を捉えてる。

敵も撃たせまいと攻撃が激しさを増す。

それは敵側のRPGによる攻撃の準備だ。

あれを受ければ全員あの世だ。

思考する余裕を持ちながら集中し、RPGを構える敵へ引き金を引く。



「チッ……」



地面を跳弾した弾丸がガスマスクをかすめて破損してしまう。

半分の視界を塞いでしまう。

それでも、余裕はあった。

RPG弾頭が放たれる直前に、敵の首に銃弾が命中した。

堪らず敵は倒れる。

が途中で、引き金が引かれたRPGから弾頭が発射された。

バシュッ! 発射音と煙りが上がり、ストライカー装甲車の右側3メートルを横切った。

そして、後方で爆発音。

家が一軒、バラバラに吹き飛んで破片が巻き上がる。

冷や汗が流れそうになるが、そんな余裕はない。



「カバー!」



敵の1人が叫ぶと数人による弾幕が再び張られ、1人が負傷者を後ろへと引っ張りながら下げる。

ヘルメスがまだかと焦りがで始める。

が、信頼するストームの言葉を待つ。



「全員乗った! 出せ!」


「了解だ!」



ストームはスモークグレネードを投げ、視界を塞ぎながらハッチを閉めた。

直後、ストライカー装甲車のタイヤがフル回転し、土煙を上げなら発車した。

敵の銃声が段々と小さくなり、敵聞こえなくなったところで、ストームは床へ座り込んだ。

見える光景の半分にヒビが入って傷つき、視界は悪い。

だが、しっかりと弾は止められていた。 




「アイツら、何者だ?……、アメリカ軍の精鋭より強いぞ」


「奴等、ハンプティダンプティだ」


「イギリス資本が、どうしてこんな場所に!? ……いや、だが強さは納得した。言われれば確かにそうだ」



ストームは納得はするが、認めたくないものがあった。

自分達以外にも現代戦闘をこなす熟練の兵士。

しかも、能力は特殊部隊以上の実戦部隊。

直ぐに思考を変えAKのマガジンを外すが、マガジンを持つ手に篭る力は強く、不安が残る。

それ以上になにやら世界とはやばい方向に進んでいるのではないだろうか。



「元SAS隊員を主要で構成した実践重視の部隊。こなす業務は軍に出来ない作戦の全て。そんな奴等が何故こんな世界にいるだよ……」


「どうした?」


「いや、きな臭ぇと思った程度だ。それより早くここから離脱しよう、包囲されると面倒だ」



ストームは警戒しながらも、タクティカルヘルメットに電子イヤーマフ、ガスマスク、バラクラバと言った頭に付ける装備を全て外す。

露出した顔は少しだけ疲労が出ている。

そして先程乗せた者達へと目が向いた。



「この乗り物。乗り心地が良いわ。でも揺れているわ」


「そうですね、空丹様」


「馬よりも速いです!」



あれだけの戦闘が起きたと言うのに呑気だなと印象を受ける。

そんな中、軍人然とした態度でストームを睨む女性が1人。



「助かったわ、貴方が来なければ流石に今回は駄目だったかもね」


「せっかく内緒で逃したんだ。それで死なれるのは寝覚めに悪い。それで、影武者達はどうなった?」


「全員殺されたわ」


「流石に本物と気付いてるか。まぁ、今は休めよ楼杏」


「そうは言ってられないわ」


「いや、今は休むべきだ。また戦闘が起こる」


「ならそうさせてもらうわね。今のうちに風鈴も休みなさい」


「ええ、そうね」



憮然とした態度だが、ストーム言われ楼杏は目を閉じて休息を取る。

少し不安さが残る風鈴と呼ばれた女性も目を閉じはしないが、力を抜いて休息を取り始めた。



「こらち、ストーム。パッケージの確保完了。ミッションコンプリート。帰投する」



装甲車に積まれている無線機を手にミッションの成果を報告した。

ストームは上部ハッチを開けると、先程まで戦闘していた街を見続けていた。

その街では撃たれた兵士を治療するハンプティダンプティの兵士達。

部隊の隊長は無線機を手に取り、想定内と言わんばかりな抑揚の無い声で本部へと失敗した事を報告していた。



「こちらトルーパー、目標ロスト。これ以上の対象の追跡は困難と判断。これより帰投する」


『こちらオペレーター、了解。損害を確認し、報告せよ』



報告を終え、無線を切った部隊長は空を見上げる。

何の変哲もない青空が広がっている。



「世界とは広く見えて狭いものだな」


「随分と楽しそうですね」



聞こえは嘆きだが、表情が違うと隊員の1人が気付く。



「例の狼、その一匹だ。……あんな大物は久しぶりに見た」


「通りで随分狩られましたか。被害は11、その内死亡7です」


「さて、対策を練らなければな!」



楽しそうな隊長を含めハンプティダンプティは街から消えていく。

多くの死者を残して__





徐州にある城こと彭城。

天気の良い日に、東屋の下で空は車椅子の上で本を読んでいた。

読んでいる本のタイトルは『虐殺器官』と書かれている。

鳥のさえずりと、紙のページをめくる音以外は静かな空間。

それを東屋に設置されている椅子に腰掛けながら見守るのはメイド姿の月。

現在、動けず車椅子で生活すら空の世話をしている月は、彼の読んでる本へと視線が向かう。



「凄い難しそうなご本ですね?」


「……ああ。これはサピアウォ………言葉の力を題材にした小説だ」



月が受けた印象では空はまだ先日の事を引きずっている。

背中がいつもよりも小さく感じてしまうぐらいには、空の覇気は感じられない。

まるで病人のように見えてしまう。

空が本のページを一枚めくる。

パラっと紙が擦れ、次のページの文字へと視線が落ちていく。

空の横顔を月はニコニコしながら眺めている。

無表情で本に視線を落とす姿は様になっている。



「どうした?」



横からの視線に耐えきれなくなった空が月を見る。

それでもニコニコとした表情が返ってくるだけだ。

これにはどうして良いか分からない空は困った顔をする。



「いえ、ただ眺めていただけですよ」


「読み辛いんだが……」


「そうですか? 様になってて格好良いですよ?」



そう言われて空は微妙な表情をした。

なんて返して良いのかわらないと言いたげだ。

そんな空を見て詠は爆笑していた。



「空でもそんな変な表情をする時ってあるのね!」



声から楽しそうである。



「それよりそっちに集中しなくて良いのか?」



空が指摘するのは、将棋に似たボードゲームについてだ。

詠は今、陳宮と手合わせをしている中で、空の表情を見ていたのである。

あまり余裕さに対戦相手が小物に見えてならない。

実際背は小さいが。



「こんなもん余裕よ。はい頂き!」


「ぐぬぬッ」


「よそ見する私に何連敗かしらね?」


「今のは、そう! ワザとです!」


「なら次は勝てるんでしょうね?」



詠と音々音が騒ぎ始めると、空は再び読書へと戻っていく。

興味を失ったようだ。

それからは音々音の唸り声がたまに聞こえるぐらいで、静けさが戻ってくる。

パラパラと紙をめくり読み進める空。

本の半分を読み進めたころ、一刀がひょっこりと現れた。



「皆んな何してるんだ?」


「見たらわかるでしょ」



詠が邪魔するなとばかりに噛みつく。

空は我関せずと無視を決め込んでいた。

音々音は視線だけで一刀を殺す睨みを向けている。

恋は無表情で盤面を見て、月は苦笑いしていた。



「ねぇ! 俺の扱い方が雑すぎません!?」


「お呼びじゃないのよ」


「酷いな! 空からも何か言ってやってくれよ」



パラッ__

ページがめくれる音が聞こえただけだった。

ブワァッと涙を流して一刀は空へすがりつく。



「空ぁぁ! 頼むよぅ」


「読書の邪魔だ。あっちいけ」



鬱陶しそうに一刀から離れようとしても車椅子では逃げられない。

体を捩っても限界がある。

そのうち、一刀は諦めたかのように離れた。



「あの、その、なんだ……この間の事だけど、ごめん! 聞いちゃいけなかった、んだよな? なのに俺……」


「白狼から話したのなら、それは話すべきだったと諦めがつく。白狼が話した事は全て事実だ。どうやっても覆らない」



空は諦めがついたようだ。

自分の半生を聞いた以上は衝撃を受けたのは間違いない。

空はそう言う人生を送ってきた。

恋はよく分かっていない顔をしていたが、一刀をはじめ、陳宮でさえも暗い顔になる。



「なんでそんな暗い顔をする? あれがあったから今がある」


「そっか……でも、空の心の傷は__」


「お前達が気にしたところで変わらない。……傷なんてしょっちゅう出来るし、治療すれば治る」


「強引だなぁ」


「傭兵なんてそんなものさ」



実体験が入ってるからか、説得力がある。

ある意味、空は割り切っているのだろうか?

そんな疑問が一刀に浮かぶ。



「強いな……やっぱり」


「………。この姿を見てそんな事を言うのか?」



空の姿は車椅子に座る怪我人だ。

両足は治療中のためか、包帯グルグル巻きである。



「随分と皮肉がきいているな」


「いや、違っ」


「冗談だ」


「お前のそれは冗談に聞こえないんだよ!」


「そうか」



気が付けば、暗い雰囲気など吹き飛んでいた。

皆が、ホッと一息が付ける。

そこへ城勤めの武官が通りすがった。



「あっ、探しましたよ不知火殿!」


「ん? 何か用か? 個別の仕事なら勘弁してくれ」


「少し相談したい事があったので参った次第です。兵士の事なんですが……」


「場所が悪いなら変えるが?」


「それでお願いします」


「分かった」



空が月を見ると、月はニッコリと笑う。



「はい。分かっていますよ」


「すまない」


「気にしないでください」



月が車椅子の後ろに来ると、空の車椅子を押す。

どうやら運んで貰うようだ。

楽しそうに車椅子を押そうする月に、詠が待ったをかけた。



「あんた! 月に色々と頼みすぎよ!」


「なら誰に頼めと? 生憎、今の俺じゃ無理だ」


「そこに暇してる誰かさんがいるじゃない?」


「お前か?」



見事に予想を外す空。

詠は勢いよくツッコミをいれた。



「違うわよ! そこの人畜無害な男よ!」


「おれか?」


「なら月に頼む」


「はい」


「あっ、ちょ……こら!」



詠が呼び止めるが、面倒くさそうな表情をする空は、再度月に頼むと武官と共に東屋から去っていく。

一刀は無視されたままだった。



「無視かよ!」


「うるさい黙れ!」


「あーもー!集中している邪魔をするなです! この、ちんきゅキック、キックキック……」


「痛いかはそんな蹴らないで!」



理不尽な暴力が一刀をしばらく襲うことになった。


いつか言っていた、一章をわかりやすく書き直す件についてですが、25話ぐらいまで来ているのでもう少しで終わりそうです。

終わり次第、どこかで報告すると思うのでお待ち頂けると嬉しいです。


今回は序破急をちょっと頑張りつつ、大分内容を濃くしています。

話数は少し減ったので、そこに間話など挟むような形になりそうなのでお待ち下さい。


余談ですが、以前のよりSF味が増したように感じました。

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