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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
第五章 崩れ行く平和
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102話 シベリアの白狼


「あの?」


「なんだ?」


「馬とか、大丈夫ですか?」


「ああ、心配するな。ゴーストを回収に向かわせた」



白狼に言われて、一刀はゴーストがヘリに乗っていない事に気がつく。

まさに幽霊の如く消えていた。

一刀達は今、UH-60、ブラックホークに乗っている。

チプリアーノを追いかけるには馬よりこっちの方が速い、と白狼の提案によるものだ。

それは間違いではない。

馬は時速60キロ程で走れるのに対して、このヘリはその数倍だ。

一瞬で追いつくどころか、追い抜く事だって容易だ。



だが、問題はそこではない。

ゴーストや空より遥かに強そうで、一人で救出に向かった方が成功率が高そうな白狼が、何故一刀達を頼ったのか。

そこだけが謎であった。



「何故、ここまでしてくれるんですか……」



恐る恐る聞くことしかできない。

それだけ白狼は、近づいてはいけないヤバめなオーラを出している。

触れたら切れるとかのレベルではない。触れたらたちまち燃え尽きるようなオーラだ。



「これはお前たちのためではない。ボウズのためだ。アイツには身寄りがない。だからこそ、帰る場所を一つでも多く残してやりたい、と親心かね」



帰ってくる答えにヤバい気迫などは感じられない。

それだけ彼を気にかけている。と言うよりも大切に思っている。



「教えてください。俺、アイツのこと何にも知らないんです。今まで、それで良いと思ってた。でも、もうそれじゃいけないんだ」


「うむ……どこから話すべきか。だが、話は全て終わってからだ。メーター、後どれくらいだ」


「イーグルからの指示だと、後5マイルだ。ランディングはどうする?」


「ランディングはいい、低空で飛んでくれ」



メーターが目標地点までの距離を伝えると、ヘリ内に緊張が走る。

白狼は、空が持っていた武器であるマグプルMASADAにマガジンを入れ込む。



「いいか、先ずは俺が降下してランディング出来るように制圧する。その後、君達と合流、ソラを確保だ。戦闘をするのは3人だったな?」


「はい!」


「さて、状況を開始する。君達に作戦を説明しよう」





……


…………


………………



地に這いつくばる少年(おれ)がいた。

周りは死体だらけ。

敵か味方のかすら分からない程転がっている。

その地獄の真ん中で右肩と左大腿から大量の血を流し、今にも気を失いそうな顔で、絶望を見ている。

その視界に映るのは、首から上が無い死体と、その上を持つ真っ黒な戦闘服を来た男。

髪は金髪で、怖いくらいに薄ら笑みを浮かべている。



「さてソラ、選ばせてやる。このまま死ぬか。それとも、俺の駒になるか」




酷い夢だ。過去の無力だった頃の夢。

まだ世界の怖さを知らず、大切なモノは守れると過信した時の愚かな夢だ。

そんなもの幻想に過ぎないと知った今では、絶対に見ることのない理想(ゆめ)

あの時を境に、俺は世界を憎んだのだから。



「ゴホッ……うぐッ!?」



目を覚ますと、見覚えの無い光景があった。

布が貼られた天幕のような物……

一定の間隔で揺られており、その乗り心地の悪さから、馬車の荷台の中だと気付いた。

吐き気や血の気が引くような感覚は薄れており、毒は血清によって取り除かれたらしい。

だが、毒に侵された体はズタボロのままだ。

回復もできていない点から時がさほど経っていない。

そして、不自然なほど体はピクリともしない。

まるで何か別の薬品でも使われたかのような……



あのままだったら確実に自分は死んでいた。

あれだけ望んだものだった筈なのに、何故、あんな行動を取ったのだろう。

あのまま、このしがらみから解放されたらどんなに楽だった事か。

この地獄から解放される事を望んでるのに、行動は真逆だ。

まるで生に執着しているかのようだ。



このままだと敵の本拠地で拷問を受けるのだろうか?

この世界は現代では無く、しかも国際的な法律もまだ無い時代である。

非人道的な拷問を受けたとて、法律も何もない状況で助けてくれる者など1人もいない。

いや、こんな悪党など誰が助けようとするか。

これはきっと、俺が受けるべき罰だ。

世界を憎み、隣人すら信じる事が出来なかった俺への罰。

実に悪党らしい最後だと言える。



死の覚悟もした、死への恐怖も感じない。

あの時、死ぬ代わりに奴も道連れに出来た筈だ。

だけど、俺はこの選択をした。

その理由は何なのか、考えても答えは出ない。



「時間通りの目覚めだね」


「何が……目的だ」



嬉しそうに荷台へと入ってくるチプリアーノに、空は目だけを動かして睨む。

体が動かないのは、この事を踏んだチプリアーノによるものだ。



「言っただろ。この世界に俺たちの居場所を作る。全ての王達を抹殺し、覇国を作る。その為に君が欲しい」




空が動けないのをいい事に、チプリアーノは語り始める。

裏の世界で猛威を振るっていた空が加わったとなれば、空の事をよく知る裏世界の住民達の多くはチプリアーノの陣営に加わる。

それを利用し、世界を飲み込もうとするものだった。

良くも悪くも、空の名を使ったものだ。



「なら……国民ごと、全員殺す……」


「君1人で?面白い事言う気力は残ってるようだ。残念ながら無理に決まっている。君はこれから首を縦に振るのだから」


「あがぁっ!?……ぐぁああああああああああ!」



チプリアーノは持っていたスイッチを入れると、空が驚きと苦痛で叫び上がる。

それを楽しそうに眺め、歪んだ笑みを浮かべた。



「いい声で鳴くなぁ。楽しみがいがある」


「何をした……」


「君に痛覚ナノマシンを入れさせて貰った。これを入れる事によって、痛覚を何十倍にも上げると同時に、痛みを与えられる代物さ」


「ああぁぁぁあぁあああ!!……死ね」


「まだそんな元気あるとは強情だなぁ」


「ぐぁぁあっ!あああああああああ!!」








「敵襲ッ!!」



荷馬車を防衛する兵士の1人が叫んだ。

手にはAK102が握られているが、構えるまでにもたついている。




「はぁぁあ!!」


「ぐはぁっ!」



影から忍び寄る一刀が、一刀で斬り捨てた。

防弾ベストの肩部から入った剣戟は奥へと減り込み、心臓部へと達する。

そのまま振り抜けば、胴体は防弾ベストごと二分された。



「これで、3人……」



血を振り払い納刀しながら、呼吸を整える。

既に疲労が顔に現れていた。

撤回からの、空の奪還。

体力の消耗は測りしれない。

正面から攻撃を仕掛けた愛紗も、緊張に心拍数が上がっていた。




何故、このような闘い方をしているのか。

それは少し前に遡る。



「いいか、奴らは訓練を受けてはいるが、まだ素人に毛が生えた程度だ。敵を見つける、セーフティ解除、撃つまでの動作を一瞬では行えない。相手はソラじゃないんだ。真正面でも簡単には当たらん」


「空は出来るんですか……」


「訓練を積めば誰でも出来る。まぁ、俺が一から仕込んだからもある」


「で、だ。奴ら、チプリアーノ以外は雑魚と言っていい。チプリアーノも君達が一番相性がいい敵だ」


「それはどう言う」


「チプリアーノは銃は使わない。君達が使う氣とやらも扱えない。これで負ける要素は無いと思うが?」


「でも空が……」


「見かけに惑わされるな。ソラは武将の君達と比べるととても弱い」


「私は一度も彼に__」


「身体能力だけで見れば君の方が上だ。ソラは手持ちのカードの切り方が上手いだけだ。氣とやらのブーストがかかるとソラ程度余裕で圧倒出来る。それこそ時間をかければソラぐらい倒せるようになる」


「………」


「場数を踏め。ならば未来は見える」



一方的とも言うべき作戦説明を受け、布陣を決められて今に至る。

白狼は多くの兵をひきつけ、戦闘を行なっている。

イーグルがバックアップについてはいるらしいがその姿も見えない。

一刀と愛紗、武官の3人は別方向から奇襲を仕掛け、防衛部隊少しずつ数を削っている。

順調とも言えた。



「順調ですね、ご主人様」


「ああ、あの人の言う通りだ。武器は凄いけど、扱う人はそこまで強く無い」


「あれが彼の師匠なんですね……」



愛紗は自分の師匠だった人と思い比べていた。

自分の師匠だった人と比べ物にならない程のオーラ。

向けられただけで戦意を失いそうな程だ。

そんな人が師匠についた彼は一体どんな訓練を受けたのか、興味がある。

武器を持たなくても強く、どんな状況でも諦めはしない。

彼が言ったカードの切り方の上手さとは一体なんなのか。



「チッ、煩い小虫だ。……あのママ大人しく帰レバ見逃しタものを」



そして、ようやく敵のボスが現れた。

手にはマチェットナイフが握られている。

殺意も空並みな濃さをしている。



「今度は俺が相手だ!」


「自ラ死に来るトハ儲けモノだ」



嘲笑うように視線を向けると即、姿を消した。

逃げた訳では無い、これは攻撃の準備。

愛紗が反応し、一刀の後ろから迫り来るチプリアーノの斬撃を受け止める。



「ナニッ……」



あまり声を大きくは上げないが、それでも動揺が見て取れる。

空ですらギリギリ反応していたものを余裕で止めたのだ。

理解が追いつくのに時間はかかる。



「なるほど。確かに空殿が言っていた通りだ。行動が読みやすい」



愛紗が撤退の最中に空がチプリアーノに対して言い放った言葉を思い返していく。

背後からの攻撃、狙うのは急所のみ。

そこまで情報があるのなら愛紗には余裕だった。

空よりも優れた目と勘は、一瞬でチプリアーノの捉えて攻撃を何度も防ぐ。



「ソノ目。捉えてイルだト……ダガ、これデ」



業を煮やしたチプリアーノは持っていたグレネードを一刀に投げた。

愛紗は反応するが、どう考えても間に合わない。

このままでは一刀が爆発によって死ぬ。

が、グレネードが突如してベクトルの向きを大きく変え、チプリアーノへと向かう。



「ナニっ!?」



チプリアーノは右腕でグレネードを掴み、別の方向へ投げ飛ばすが、直前で爆発を引き起こした。

それはどこからか援護したイーグルによるものだ。

的確にグレネードを弾き返し、チプリアーノにダメージを与えようとする最高の一撃。

右腕を吹き飛ばしたのだ。



チプリアーノはイーグルの存在に気付き、一度体勢を立て直すために離脱を選択する。


逃す訳にはいかない。


一刀の心の叫びは足を動かさせる。

縮地によって距離を詰め、刀を抜き放つ。



「届けぇぇっ!!」



チプリアーノの逃げる速度を一刀の詰め寄る速度が上回る。

右脇腹から左肩口へと刀身が伸びた。

深くは無いが、決して浅くも無い。

チプリアーノは衝撃で地面を転がっていく。



「ハァ……ハァ……」



それでも息があるチプリアーノは立ち上がろうとしてくる。

不気味さすら感じる。

だが、仲間をやられた事や空を連れ去れた事が一刀の背を押した。



「逃すかぁぁぁ!」



渾身の突きがチプリアーノの喉を貫く。

致命的な一撃にようやくチプリアーノが沈黙した。



「勝った……?」



今でも、まだ動きそうなチプリアーノに恐怖を抱きながらも勝利を確信する。

勝った。

たった一言なのに凄く重く、後味も悪い。

空は泥臭いこれを何度も繰り返していたのかと思うと、気が重くなっていく。



「不知火殿を見つけました!」



武官が空を発見し、慌てて戻ってきた。

その焦りから、まだ生きている。



「さぁ、お早く!」



武官に連れられて、一つの馬車に辿り着く。

中に入れば、片腕を鎖で吊るされ、全身はボロボロの姿の空がいる。

それでも、まだ息がある。



「助けに来た!」



一刀が空に駆け寄ると、意識を取り戻したのか、力なく空は笑った。




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