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真・恋姫†無双-獣達の紡ぐ物語-  作者: わんこそば
前日譚 群れない狼
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前日譚1

前日譚は完結しましたが、先に見るか、後に見るかは個人でお選びください。4話のあとがきにはちょっとしたネタバレも含んでいるのでご注意を。




ピチャピチャと血が床に滴る音と、空になった薬莢が落ちる音が合わさり不協和音が部屋一杯に響く。

肩を撃たれた男は後ろの壁に背を預け、力なくその場に座り込んでしまう。



「テェメェ!ぐぁぁぁあああ!」



追い討ちとばかりに太ももにナイフを突き刺され、堪らず悲鳴に似た絶叫を上げた。

ナイフを突き刺したのは真っ黒なコンバットスーツを身に付けた人。

中性的な体付きで、顔をガスマスクで隠し、聞こえるのは呼吸音だけで、男か女かも判断出来ない。

分かるのは黒髪で、背は平均値ぐらいだという事。



「この男を探してる。教えろ」



アメリカ訛りだがその英語を発した声で男だと分かったが、大人ではない事も分かった。声が若いのだ。

右手で写真を見せ、左手には銃が握られている。

スライドにベレッタとだけ刻印されたその銃は無慈悲に傷付いた太ももにあてがわれる。

「教えなければ撃つ」、そんな警告なのだろう。



「知るか、ボケェ!」



だが、男にとってその写真に写る人物を教える事は一大決心だった。

プライドがそれを許さず、目の前のガスマスク男を睨み付ける。



「それはそれで結構。価値の無くなったモノを生かす通りも無い」



銃口を太ももから額へとズラし、トリガーに指を掛けた。

もうダメかと男が覚悟を決めるが、裏切られたかのように目の前のガスマスクが鳴り響く携帯を取り出した。

ガスマスクが邪魔なのか、それを男の目の前で外すと通話ボタンを押し、携帯の通話相手に出る。

男はその顔を見て驚きを隠せずに声を上げようとしたが、直ぐに銃口を口の中へと突っ込まれ、黙らされる。

男が驚いた理由、それは目の前の彼が色白ではあるが黄色人種である事、つまりは日本人だという事だった。

更にはそれが少年だという事が男を驚かさせた。

そんな事など目の前の彼にはどうでも良く、通話を続けていた。



「こっちは無駄足だった。……分かった。処理したら向かう」



通話を終え、携帯をしまう。

一度外したガスマスクを付けるか少し悩んだ末に、付けないと判断し、そのまま男へと向直った。



「残念だけど。あんたがもう喋る必要も無くなった。最後に言いたい事があるなら聞く」



男が言った事が嘘だと見ぬかれていたらしい。

その猶予は彼の慈悲によるものだった。



「…なぜ、日本人が?戦争を嫌う平和ボケした民族だと思っていたんだが」


「俺は日本人ではない。無国籍で彷徨う一匹の狼だ。故郷なんて拠り所は俺には存在しない」


「悪党だな……」


「よく疑問に思うんだ。何を持って正義と悪を決めているのかって。神が決めた訳でもなければ、国によって限度も感覚も違う。嘘を付けば悪か?なら誰かを守る為に付いた嘘ですら悪なのだろうか?結局はそれぞれの主観でしかないソレは、果たして価値はあるのだろうか?」


「……だが、どこでも殺人は悪だろ」



男が力なく左手で指を指す先には、男の仲間達が額や胸に風穴を開けられていたり、無残に切り裂かれた状態で倒れていた。



「そうだ、俺は悪だ。けど、それはお前も同じだよ。だから国から雇われ、お前達を殺せと言われた」


「フハハッ……あんた今話題になってる切り裂きジャックだろ。まさか日本人だとは思わなかった」



その名を聞いた途端、彼はビクッと震えて反応を示した。

だが、直ぐに何でもなかったかのように冷たい瞳で男を睨んで来た。



「理由を聞いても?」


「俺達は25人もいた。それをこんな短時間で殺れる奴はこの国にはいねぇ。そして、特徴的な真っ黒な髪。アジア系でもこんな綺麗なほど真っ黒な奴はいない。そして、何よりもそのコンバットスーツとガスマスクだよ」



切り裂きジャックという通り名。

たった1人でありながら大人数を幾度となく壊滅させて来た正体不明の存在。

必ず黒のコンバットスーツにガスマスクを身に付けている事だけが分かっており、最近ではイギリスのSASの一部隊とアリメカのDEVGRUを壊滅させた事で有名になっていた。

無線の最後のやり取りから黒髪である事、戦闘開始2分で部隊の半数が壊滅した事などが発表され、世界に衝撃を与えた。

世界の各国は切り裂きジャックとして国際指名手配を出している。



「なるほど。 ……髪を金にでも染めれば、こんなあだ名とおさらば出来るのか」



自身の髪を触りながらそんな事を平然と言う彼に男は思わず吹いた。



「やめとけ。日本人には合わない」


「正体を見破ったのには驚いた。死ぬ前に聞きたい事があるなら答えられる範囲で答えよう」


「名を聞かせてくれ。地獄で他の奴らに自慢したいからよ」


「俺の名は……ソラ。ソラ シラヌイ。地獄で語り継ぐがいい」



その瞬間、男の視界が暗転した。



この物語は、始まる前数日を描く前日譚。

主人公の1人となる彼がいかにして恋姫世界に飛ばされるのかが描かれる。




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