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第8話 - 受攻

こんな日本語は無いと思いますが、ピンと来た方は……。

+ ☆ & ★ & ▼ & △ + + + + +



 だけど、死の一撃は何時までも俺を捕えないし、頬どころか身体全体が暖かい気がしてゆっくり目を開けると俺を守り様に黒い翼が広げられていた。黒い?いや黒いのは間違い無いんだけど、その翼が金色の仄かな光を発していて黒ではなく鳶色や錆色の様な複雑な色に見える。


 まるで鷹の翼に守られているみたいだ。今まで見た事が無い鋭い表情を浮かべた理々が、俺にそんな事を感じさせたのかも知れない。


「くっ、何ですかそれは! 今回の計画は予定外の事ばかり、天界神の呪いでもかかっているのか?」


 常に余裕綽々だった遠藤の顔にはじめて焦りが浮かんだ様に見えたよ、だけど冥使としての”力量”は分からないけど、未だに全力を見せていない遠藤に対して、理々ははじめての力の解放で力を使い果たした様に感じられる。


「理々、逃げ出せないか?」


「分かりません、コータさんだけでも、くうっ!」


「仕方無いですね、冥使としての誇りを失った出来損ないは、今の内に処分しておきましょう、予備を送り込めば!」


 遠藤は俺達を処分する事に決めた様だ。例の不可視の力を理々が懸命に防いでいるけど、限界が近いかもしれない。


「おやおや? 自称誇り高い冥使様の行動とは思えませんね」


 俺と理々にとっては”詰んだ”状況を覆してくれたのは、能天気と言えそうな若い女性の声だった。


「誰だ!」


「それはこちらの台詞! 私の目の前で好き勝手してくれた上に人間ごと消そうだなんて、何様の積り?」


「天使か、姿を見せろ!」


 遠藤の声を受けて、その場に1人の天使が舞い降りた。多分天界の使いと言う意味なんだろうけど、見た目は文字通り”天使”だった。色彩の乏しいこの空間に、白が混じるのはある意味感動的だし、天使が降り立った場所には緑の草花が咲き乱れるオマケ付きだ。


「えーっと、見た事があるわね、何とかっていう中間管理職的冥使?」


「誰が中間管理職だ!」


「根拠も無く妙に偉そうな所とか、部下に任せておけんとか言って出張ってくる所もそうだし、都合が悪くなると証拠を消そうとする辺り?」


 天使の力か、理々の守護か分からないけど、身体の痛みがゆっくり引いていくのが分かる。俺としては中ボスとか小物とか評したいね!


「余計なお世話だ! 私は冥使エドヴァン!」


「ああ、そんな名前だった気もしないでもないわね、私は天界の使いユセリエル、前回の協定にも正式に参加しているから知っているわよね?」


「くっ!」


「天界神と冥界神のはじめたゲームだけど、ここまで露骨にルール違反された例は無かったわよね、エドヴァン殿?」


「……」


 ゲーム? ルール? どういう事だろう?


「私も消したそうね? 出来るかしら?」


「今回は天界側が”受け”、冥界側が”攻め”で監視の為に正式に派遣された私と、協定に名を連ねる事さえ叶わない貴方では元々勝負にならないでしょう?」


「チッ!」


 理々に闇を送り込んだり、この空間を作ったり、俺をいたぶってみたりと無駄な力を使ったのは確かだろうね。


「方法は分からないけど、器と中身を別に送ってきたのよね。肉体と魂と”定め”かしら、さすがに盲点を突かれたわね。一つ一つは天界の網に掛からなかった……」


「そこまで読まれるとはな、次の手を楽しみにしているんだな、天使!」


 気になる捨て台詞を残して、冥使は消え去った。文字通り消えて居なくなったけど、今更そんな事には驚かないさ。


「人の子よ、良く耐えましたね。冥使が去った以上この狭間の世界ももう直ぐ消えるでしょう、その女性との絆大切にするのですよ」


「天使様……」


 理々がそう呟いたのが聞こえた、そうだよな、事情を知らなければ”騙される”よな!


「冥使だった者よ、これから貴女には多くの試練が課せられるでしょう。ですが決して道を誤ってはいけませんよ」


「はい、コータさんと一緒なら、大丈夫です!」


「期待していますよ」


「て・ん・し・さ・ま、俺からも1つ聞いて良いですか?」


 俺の言葉に多少棘があっても仕方ないよな?


「構いませんよ、人の子」


「何時から出番を待っていたんだ、ユズ姉?」


「柚姫さん?」


 ユセリエルを名乗った天使と、普段のユズ姉のギャップに理々は俺の言葉が信じられないみたいだ。でも俺は知っているんだ。髪の色もあの時と同じ輝く様な金髪だし、声の印象が全く違うけど顔付きは同じなんだから。


「……」


「最初から分かったよ? その格好を見たことがあるんだからさ!」


「あっれ~?」


 天使とは思えない間の抜けた声が崩れ行く空間に響き渡ったよ。中学に上がったばかりの俺は、天使のコスプレをしている(とさっきまで思っていた)ユズ姉に恋をしたんだ。普段のだらしない格好からは信じられない美しさ清純さだった。


 ユズ姉の部屋からこっそり私物を持ち出したのは、本気で反省しているよ。ついでに後悔もしている、あれさえ見なければ初恋は苦い思い出などにならなかったんだよな。


「ちゃんと記憶は消したのに、何で憶えているのよ!」


「記憶を消した?」


「いや、あれよ。天使としては冥使に正体を知られる訳には行かないでしょう?」


「まあ、そうなんだけどね……」


 単純にコスプレだと思ったし、普通はそう思うだろう? 天使や冥使なんてものが存在するなんて思っても見なかったんだからさ。


「それに記憶を消した後、私の事を避ける様になったじゃない。私てっきり記憶操作の副作用だと思っていたのよ!」


「うっ!」


 天使のユズ姉に一目惚れして、用も無いのに頻繁に辺見家を訪問したのは事実だし、あれを見てしまった後ユズ姉を避けたのも事実なんだよね。


「なーに、コータクン、私に対して疚しい事でもあるのかな~?」


 見掛けは本当に天使で、可笑しそうに微笑まれると、罪悪感が……。


「コースケ、ヨータと言えば分かるかな?」


 微妙に聞いた事がある名前を聞いて、理々が首を捻っている。そうだよな、コータとヨースケの頭を入れ替えただけなんだろうしさ。



+ ● & ○ + + + + + + + + +



「ちょっと、アルゴ、いきなり何を見せるんだよ!」


「ちょっと刺激的だね」


 驚いたゲンの様子とは裏腹に、落ち着いたアルゴの表情は興味深々と言った感じだった。2人の目の前に広がったのは、少年二人が”恋人”になる経過と”その後”を描いた漫画だった。


「ヨータとコースケか、名前を少し変えても人物像はそのままだね?」


「アルゴってこう言うのに慣れているの?」


「ふむ、ヨータが受けと言うのは意外かな?」


「……」


「そんな目で見ないでよ、こう言うのは結構あるんだよ?」


「……」


「だけど、幼馴染の少年達をカップリングしちゃうなんてね?」


「……」


「何か言ってよ、ゲン! 何で椅子の後ろに隠れるのさ!」


 お尻を押えて、後ずさるゲンはある意味滑稽だった。アルゴが人間と同じ欲望を持っているとは限らないし、それ以上に本来性別が無かったり、人の姿も仮の物かもしれないのだから。



+ ☆ & ★ & △ + + + + + + +



「ふへぇ?」


「俺が、中二の頃だったかな?」


「コータクン、も、もしかして、”アレ”読んじゃったの?」


「ユズ姉、ゴメン。勝手に部屋に入ったのは謝るよ!」


 長年謝っていなかったけど、謝罪するには良い機会だ。別に下着を盗んだとかじゃないし、こっそり直ぐに返したんだけど、やっぱり気にはなっていたんだ。深々と頭を下げて、頭を上げると、アタフタとしているユズ姉が居た。


「あ、あれは、そうよ。天使として、人間らしく振舞わなくちゃいけなかったから、だよ!」


「ユズ姉、こっちは素直に謝っているんだよ?」


「何を言っているか分からないわね、まあ、謝るなら許してあげるけど……」


 あくまでもあれは、人間らしく振舞っていた結果だと言い張るんだ。


「はい、ここで問題です。”攻め”の反対は何でしょう、理々さんどうぞ!」


「えっと、”受け”ですか?」


「ユズ姉~!」


 おかしい、何で天使が冥使を間違った方向に導いているんだ? さっきの遠藤?(あれ?名前を忘れたけど、まあいいか)との会話で妙な所があったから突っ込んでみたんだけど、深刻な影響が見受けられる! 本当なら、人間として振舞えていないと言うはずだったのにさ。


「何よ、間違ってないじゃない!」


 やっぱり駄目だ、この人。純真な理々をこの人と接触させる訳には行かない。もしも天界での常識が攻め⇔受けだったら、そこは天界とは認めん!


「攻めの反対は守りだろ、学校で何を習ったんだよ!」


「……、えっ?」


「大体、ボーイズラブの漫画家にまでなっておいて、人間らしくとか無理があるよ!」


「……」


「セリエルってペンエームだったよね? もしかして、天界にはユズ姉みたいな人ばっかりなの?」


「ねえ、コータクン、イイ事してあげるから忘れてくれない?」


「それって天使の言う台詞じゃないよ?」


「うっ!」


「ユズ姉お互いに水に流すという事で妥協しない?」


「うん、そうしましょう! 理々ちゃん、やっぱりコータ君は優しいわよね?」


「はい!」


 理々も、こう言う所だけ、息が合うんだね。ユズ姉が誤魔化す気なのは分かるけど、それはお互い様だしね。


△の意味はお分かりでしたか? 同一人物?だと分かって読むと少し見え方が変わっていたかも知れませんね。


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