第6話 - 異才
天才ではなく異才なのは、それ以上だと言う事です。
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藤田陽介という人間はその気になればなんだって出来る人間だと思う。言い過ぎかも知れないけど、その気になれば世界だって変えられるんじゃないかと思う。(これに関してはモモも同じ様に感じているんじゃないかな?)
幼稚園からの付き合いだけど、努力をした形跡も無いのに誰よりも上手く、何でもこなしてみせる嫌味な所があるんだよな。ただ、非常に移り気で何かに打ち込む所を見たことが無い。
スポーツも万能だけど趣味にさえならないし、高校でも常にトップクラスなのに進学先さえ自分で決めなかった。放っておけば本当にニートになりそうだったが、その辺りがモモが上手くコントロールしたな。(自分に都合が良い様にだけどさ)
モモは英語の成績が良かったから、俺は自宅から通える、ヨースケは言われるままに今の大学の国際交流学科を進路に選んだ。受験勉強が大詰めで俺とモモが寝不足でも、ヨースケはマイペースだったね。ちょっとだけ殺意が湧いたのは否定しない。
結局腐れ縁は、幼稚園からずっと続いている訳だね。俺自身やっぱり、ヨースケ達と離れるのが怖いと感じている事は分かっている。ガタイが大きくて、顔が厳つくても小心者なんだな。不幸を招く体質と言うのが俺の人格形成に良い影響を及ぼす筈がないさ。昔は仙人になりたいとか本当に考えていたんだぞ?
今思い出しても、ヨースケの本気は俺も怖いと思うよ。最初に”それ”を見たのは幼稚園の闘犬乱入事件の時だったかな、噛まれて怪我した俺を見て”あの視線”を闘犬に向けたんだったな。(そういえば、何故か本気のヨースケの目は蒼く光って見えるんだよな)
ヨースケの視線を受けた闘犬は、既に闘犬じゃなくなっていた。おびえて(あーこの話はしない約束だったな)、おびえたモモの顔をペロペロ舐める大きな愛玩犬になっていたんだ。そうでなければ、保母さんばかりの幼稚園だったのだから被害は俺だけで済まなかっただろうさ。(闘犬としては役に立たなくなったけど、あの犬にはその方が幸せだったと思う)
同じ様に”不審者”は憑き物が落ちた様に真人間に変わったという噂だった。そうだよな、俺の不幸が最終的に破局を迎えなかったのは、ヨースケの起こす”奇跡”に助けられた事が多い。
無論、大らかな父、豪快な母上殿の支えがあったのは事実だし、第二第三の両親が積極的に動いてくれたのも分かるけど、周りの人間が俺という人間を排除しなかったのは、”藤田陽介”の傍らに俺が居たというだけの理由かも知れないんだ。
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翌日は、運良くなのか運悪くなのか微妙だけど、講義が二つとも休講になったので、ヨースケとモモと俺と理々で電車で一時間半程の大学病院に向かった。
理々は色々な検査を受けたけど、担当医師の様子を見る限り肉体的な異常は見受けられなかったんだろうね。俺とすればほっとする結果なんだけど、理々の記憶が戻る可能性が低くなる事も指摘されてしまい、全然ほっと出来なかった。
帰りの電車は、”京峰会”の人達と同じ車両に乗り合わせてしまい、妙に気疲れしてしまった。自宅に戻ってリビングのソファーに座ると思わずため息がこぼれた。
「はぁ~」
「ごめんなさい、私の為に……」
「いいや、理々のせいで疲れた訳じゃないよ」
「あの……、もしかして老人養護施設の人達ですか?」
本人達はそう名乗っているし、実際”現在”は、その通りの活動をしている。名前も別におかしくは無いんだよね、皮肉な事にだけど。
「あれ、気付いたんだ?」
「勿論ですよ! モモちゃんもコータさんも落ち着かなかったですよね?」
「理々とヨースケは普通だったよね」
「えっと、おかしかったですが?」
「いいや、理々の立場なら普通かな。ヨースケはおかしいけどね?」
「?」
理々に事情を話すべきかな?
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元々、あの老人養護施設京峰会の人達が、筋者だったと言って信じる人は少ないだろうな。某広域指定暴力団の下部組織の”京峰会”という組織が隣町にあったんだ。
そして一昨年、この街にも別の組織(葉桜一家だったかな)が勢力を広げて来て、当然の様に2つの組織は抗争をはじめた。この頃は藤田の小父さんは大変だったね、署長になったばかりでいきなり厄介ごとだったからさ。
この後は大体何時も通りだな、俺が銃撃戦に巻き込まれたし(俺が居たから銃撃戦がはじまった訳じゃないよ、多分)、本気で死ぬかと思ったけど幸運にも俺はかすり傷だった。但し、酒屋のおじさんが銃弾を受けて、それを見たヨースケが”開眼”した訳だね。
その場はそれで納まったんだけど、納まらなかったのは構成員がいきなり足を洗ってしまった葉桜一家の方らしい。事態の収拾に動いた藤田署長に見せしめをする為に、藤田署長の自宅の隣家にトラックを突っ込ませたんだ。(本当は藤田家が目標だったらしいんだけど、間違えたらしい)
その隣家と言うのが我が家で、トラックが突っ込んだのは眠っている俺の部屋の真下の客室だったんだよな。ベッドごと1階に落ちて軽症ですんだのは、幸運と言えるんだろうか?
そんな事件が起こった事で、ヨースケが再び”開眼”してしまったんだな。念の為に”某所”の隔離されていたから詳しい事情は分からないけど、藤田の小父さんが事故の処理をしている間にヨースケは問題の2つの事務所に直接乗り込んだらしい。
経過は分からないし分かりたくも無いけど、結果として指定暴力団京峰会は老人養護施設京峰会に姿を変え、葉桜一家の方は日本から飛び出して南アフリカの某国入りしたそうだよ。
後日”HAZAKURA FAMILY”という名前を、テレビのニュースで見掛けたけど、内戦が治まらない国で井戸掘り等の地道なボランティアをして感謝されているとかいないとか……。
哀れなヨースケの”力”の犠牲者の話はもういいだろうね、俺の不幸をサポートすると言う訳じゃないけど、ヨースケの”力”は格段に増している気がするんだよな。(個人なら兎も角、組織自体に影響を及ぼすなんてはじめてじゃないかな?)
こう考えると、理々に話しても信じない気がするよ、逆に頭から信じちゃう可能性も高いけどさ。どちらにしろあまり良い結果じゃない気がするね?
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「ごめん、理々には普通でいて欲しいから話さない事にする」
「良く分からないけど、馬鹿にしてませんか?」
「いいや、素直な理々の方がすき、いや、ヨースケの昔話を理々が聞きたいのなら話すよ?」
「う、うぅ、知りたいけど知りたくないです~」
上手く誤魔化せたかな? 理々さん的に言うとヨースケという人間は出来るだけ傍に寄りたくない存在なんだってさ。近付きたくないし、その習性を知る事は近付かない為に必要だけど、詳しく知りたくないと言う事らしい。
モモと仲良くなれる筈だね、ヨースケに興味が無い珍しい女性なんだからさ。ただ度を越すと、喧嘩に発展しそうだよな。(何故か分からないけど、ヨースケを飲食店で言う所の”太郎”扱いだからさ)
ヨースケの方はどうなんだろう? といっても殆どの存在はヨースケにとっては”どうでもいい”のだから聞くまでも無いか? ヨースケらしくも無く、病院へ同行してくれたけど、小父さんに言われたからだろうしね。
はい、救世主さんの出番は終わりです! この世界の主役でも、この話では単なる脇役ですからね。
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