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第5話 - 犬猿

誰と誰が犬猿の仲なのでしょう?

+ ☆ & ★ + + + + + + + + +



 警察署に入ると受付で署長に面会を求めた。顔見知りの受付の女性だったので、話は早かったよ。少年課なら顔パスなんだけど、自慢にならないよな。


「おう来たか、幸太君」


「すみません、藤田さん」


「いいや、これも仕事だよ。そちらが記憶喪失のお姫様かな?」


「はい、”理々”と名乗っています」


「そうか……、病院にはまだ行っていないんだね?」


「はい、外傷はなかったので、普通に看病したんですけど……」


 小父さんには妙な言い訳をしない方が良いよな。


「いや、最上とは言わないが、最悪とも思わんよ。タクシーを呼んで病院という手もあるぞ?」


「うっ、そうですね……」


 藤田の小父さんも俺の救急車嫌いは知っているからな。総合病院とかなら何とかなるんだろうね、冷静に考えればだけどさ。(最初の格好の理々を連れて病院と言うのは、冷静に考えてありえないと思うけどね)


「しかし、美少女とは聞いていたが、柚姫ちゃん並みだな。シェルターとかだと、別の問題が起こりそうだ」


 ユズ姉の素顔を知っている人間だとやっぱり驚かないんだな。小父さん達は素顔どころか本性も知っているんだけどね。


「シェルター?」


「ああ、女性を一時的に保護する施設だよ。DVとかな……」


「DV?」


「知らない方が良い話さ」


「はぁ?」


「理々さんは未成年の可能性もあるし、当面の面倒を見る人物が必要だろう」


「はい」


「私が身元引受人になるよ?」


「藤田さんが?」


「ああ、家で預かる事にする。書類上ではな」


 書類上では? こんな提案の出来る辺りが、藤田の小父さんらしいよな。


「良いんですか?」


「君がそれを言うのかな、陽介と同じ位私を悩ませてくれる君が?」


「色々お世話になっています、息子さん共々……」


 本当に色々迷惑をかけたな、昔から小父さんには頭が上がらないよ。正確にはヨースケにも助けられているんだけどさ。


「なあ、今更だろ?」


「はい」


「それに、君達の仲を裂くほど野暮じゃないさ」


「はぁ?」


「幸太君に春が来たと聞いたぞ?」


「それは誤解ですよ、小父さん?」


「ふむ、理々さんはずっと幸太君の腕に抱きついているが違うのかな?」


 おかしな話だけど、理々にとっては、殆どの人が人間的にも社会的にも経済的にも頼りになる藤田の小父さんより、年齢が近いのと物理的に大きい以外取り得が無い俺の方が頼りがいがあるらしいね。警察嫌いも程ほどにして欲しいよ。さっきから胸が気になって仕方が無いし。


「ええ、警察が嫌いらしいです……」


「それ自体は珍しい話じゃないさ。警察官に憧れる子供以外は、警察官が好きというのは珍しいぞ。嫌いか、なんとも思わないかどちらかだね?」


「小父さん、何か自虐的ですね?」


「まあね、久々に旅行に行けば緊急で呼び戻された、それも下らない用件でな!」


「それは、大変でしたね」


 いい大人が不貞腐れても可愛くないですよ、小父さん。組織人と言うのも苦労が多いんだな……。


「そんな訳でちょっと困っている女性を助けて、警察官としての自覚を取り戻したい訳だな」


「喜んで協力させてもらいます、小父さん」


「基本的に辺見さんが頼りになるだろうけど、あそこは柚姫ちゃんが牛耳っているからな」


「その表現はおかしいですけど、ユズ姉が物理的に占拠しているのは事実ですね」


 辺見家は、辺見夫妻と2人の娘という家族構成だけど、家の内部は半分以上ユズ姉の趣味と仕事の諸々で”埋まって”いる。時々アシスタントの人が来るんだけど、本気で”空間”に余裕が無くて、寝泊りするのはウチか藤田の家なんだよね。


 藤田の小母さんは、時々仕事で家を空ける事があるので必然的に我が家アシスタントさんの寝所になる事もある。男だけの家に若い女性が居るのは外聞が悪いし、不動家の方がまだましと言った結論だろうね。(藤田父子が他の女性に手を出す事があり得ないと分かってはいるんだけどさ)


「病院の方は探しておくよ、警察にはそう言った相談もあるから、良い医者が見付かるさ」


「だってさ、理々、良かったね」


「はい! コータさん」


「幸太君、本当に春が来たんだね。オジサンからちょっと助言しておこう」


「あの……」


「良いから聞きなさい。出来れば理々さんは1人にしない方が良い」


「はい、それはそう思います」


 奇妙な妖しさと無邪気さを兼ね備えた理々は、どう考えて1人で買い物も行かせられない気がする。俺の近くに居て災難に巻き込まれるなら対処は(間違えるかも知れない)出来るけど、誘拐でもされたら俺には手の出し様が無いかも知れない。


「柚姫ちゃんみたいに変装でもすれば良いんだけどな」


「……、理々にはちょっと向かないですね」


「?」


 ユズ姉を良く知る人達は、少しは格好に気を使えと助言するらしいけど、ユズ姉が普通の格好をすると、先程の理々みたいになるんだろうね。


 ユズ姉を子供の頃から知っている人達は、ユズ姉の格好を当然と思っているよ。ユズ姉が着飾ったらどうなるか良く知っているからかな?


 ユズ姉の視力が悪いのは事実だし、本人は着飾るより創作活動の方が重要だと言い切っている。お陰で彼氏が居た試しが無くって辺見の小母さんがそろそろ心配しだしているそうだよ。


 辺見の小父さんも小母さんも話さないけど、モモの推測では、今の家に引っ越して来たのは、”何か”あったんじゃないかだそうだよ。(モモの女の勘が当てになるかは微妙だけどね)


「変装は良いでしょうけど、理々には、ユズ姉の様に自然に振舞うのは無理ですね」


「えーっと?」


 今の話が理解出来ない事からも明らかだよね。今の理々が演じられるのは中学生以下の女の子くらいだろうね。最近の女子中学生はませてるけど? ちょっと印象が違うけど、何処かのお姫様とか深窓の令嬢だったら違和感が無いかもね。(当然の様に目立つ事が前提だけどさ)


「やっぱりかい?」


「はい、逆に目立つ結果になるんじゃないでしょうか?」


「仕方ないね、出来るだけ幸太君が近くに居る事だね」


「はい、そうします!」


 あの理々さん、それは俺の台詞だよ? 話を理解していないのにそこだけ元気に返事をしないで欲しいな。


「うむ、仲良くな!」


 そんな言葉とは裏腹に藤田署長は俺の肩を力一杯叩いてくれた。仲良くし過ぎると責任を取らせるぞとかだろうか?

 心配のし過ぎだと思うな、理々は自分を取り戻せば、俺なんか目もくれないだろうし、俺にとっては守るべき存在と言ったところだからさ。



+ + +



 警察署からの帰りは、往きと違って理々のテンションが高かった。往きにどれだけ周りが見えていなかったを証明しているよ。


 本当に外に出るのがはじめてのお嬢様の様に、目に入るもの1つ1つに興味を持って、喜んだり驚いたりを繰り返している。あんまり口が達者と言う訳では無い俺だけど、それ程困りはしなかった。理々には色々な物が珍しいだけで”それ”が何かは憶えているらしい。


 例えばドリンクの自動販売機を見た時、理々とこんな会話になった。


「コータさん、あれは何?」


「自販機だよ」


「これが自動販売機なんだ……」


 理々の中では、自販機=自動販売機で何の目的の機械かも知っているらしい。こんな感じで記憶と現実が繋がって行けばきっと記憶も戻るんだよな!



+ ☆ & ★ & ■ + + + + + + +



 往きの三倍位の時間をかけて(遅い昼食をすませたからね)家に戻ると、父はきっちり復活していたよ。少しだけニヤニヤした感じで気持ち悪かったけど、多分俺も同じ様な表情をしていたから口には出さなかった。


 理々は、もう夕食の準備をはじめてた母上殿と一緒になって料理をはじめたよ。女性が1人増えるだけでキッチンの雰囲気はガラッと変わった。


 娘が出来た様な状況に嬉しそうな母上殿を見ながら”ホンワカ”している父と、どう見ても料理がはじめてな理々を見ながらハラハラしている俺、不条理だね?


「さあ、召し上がれ♪」


「おおう、今日は豪華だな」


「理々ちゃんが、はじめてウチに来た日だもの、当然よ」


「うー、まだあんまり腹が減ってない」


「そうですね、お昼が遅かったですからね」


 理々さん、ナイスフォロー! 危なく鍋蓋が発射される所だったよ。俺が空腹感を感じていないのは理々の包丁捌きが心配だったからなんだけど、最初は戸惑いながらも慣れてしまえば危なげないものだった。


 但し、理々の味覚はかなり特殊らしく、かなりの薄口好きらしいね。昼に食べたそばも汁が辛いと言っていた。薄口なら何とでもなると思って母上殿には言わなかったけどさ。


”ピンポーン”


 俺が料理に箸をつけようと思った瞬間に玄関の呼び鈴が鳴った。既にモグモグ言っている両親は無理そうだし、理々に接客も任せられない。


 インターホンで対応すると、ヨースケだった。隣家を訪問するには向かない時間だけど、よくあるパターンだけど、藤田の小母さんは家に居たはずだよな?


「あ、陽介君が来るんだったわ」


「思い出すのが遅いよ、母さん」


 玄関に出て鍵を開けて友人を迎え入れる事にした。ヨースケは藤田の小母さんが居ない時は時々、ウチで食事をするんだよね。モモが準備する事も多いんだけど、急だと間に合わなかったりする。(モモはヨースケとユズ姉を会わせたくないと思っているのが見え見えだしね)


「お邪魔します、小父さん小母さん」


「いらっしゃい陽介君」


「ご馳走になりに来ました、いつもすみませんね」


「構わないわよ、藤田さんも辺見さんも夫婦でデートなんですもの」


「あれ、そうなの?」


 聞いてないんだけどな? 夫婦でデートの話はスルーさ!


「藤田さんが、旅行が流れたお詫びをしたいって言ってね。ウチは理々ちゃんの歓迎会があるから遠慮したけどね」


「そう言う事か、納得いったよ。あ、理々、あれ?」


 俺がヨースケの事を紹介しようとすると、理々が椅子から立ち上がって親父の後ろに隠れている。理々が人見知りをしないのは分かっているし、ヨースケは俺と比べて女性受けが非常に良いんだけど……。


 と言うより端的に言ってイケメンだ。モモという恋人が居なければ女性から言い寄られて困るだろうな。モモの目を逃れてアタックする女性も居るらしいけど、ヨースケがモモ以外の女性と一緒に居る所を俺は殆ど見たことが無い。


 性格の方も”普段”は温和だし、頭も良い。認めたくないが俺の知る限り一番良い男だよ。何故ヨースケを理々が怖がるんだ? 父親に似て正義感が強過ぎるのと、妙な”カリスマ”を持っているけど、見て分かる物じゃないよな?


 ああ、藤田の小父さんの息子だからなんだな。明らかに反応が似ているんだろうね、あの時は俺の後ろに隠れていたから分からなかったけど、小動物が天敵から隠れているみたいだ。(何故か、バニースーツを着た理々を思い出したけどさ)


「理々、コイツは俺の幼馴染で友人の藤田陽介だよ。気付いたと思うけど藤田署長の息子だね」


「あの娘が理々ちゃんなんだ?」


「お前は黙ってろ、モモに言いつけるぞ!」


「……」


 一発で黙ったぞ? やっぱりヨースケが一番怖れるのはモモが怒る事なんだよな。食事の半分弱をモモの手料理に頼っているからね。


「理々、コイツは悪い奴じゃないし、警察とも関係ないよ?」


「本当ですか?」


「ああ、大抵の人間は俺とコイツを並べると俺の方が悪人だと言うね。俺自身もそう思う」


「コータさん……、ごめんなさい、失礼な態度をとってしまって」


「いや、俺じゃなくてヨースケに謝って欲しいな?」


「そうですね、ごめんなさい、藤田さん」


「良いよ、気にする程の事じゃない」


「だってさ、ヨースケにとっては殆どの事が些事なのは事実だしな」


 ヨースケ自身自覚があるのか、俺の言葉に反論もせずに何時もの椅子に座って食事を始めてしまった。人当たりが良いヨースケにしては素っ気ない感じだけど、本気でモモに言いつけると思っているのかな?


普段の救世主様は女性に対してもう少しスマートな対応をするんですよ。


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