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第1話 - 事故

ちょっとしたアクシデントです。切れる所がなくって、短くなってしまいました。

+ ● & ○ + + + + + + + + +



 造りが同じ三軒家の向かって左側、一番西に位置する紺色の屋根の家の玄関でそれは静かにはじまった。


「見なよ、何かが現れる」


「へぇ? 蜃気楼みたいに揺らめいて、あ、人だ!」


 アルゴとゲンの言葉通り、まるで魔法でも使った様に何も存在しなかった空間に1人の人間が唐突に出現した。ただ、そこに現れた人物は”普通”では無かった。眠っている様には見えないが、目を閉じたまま身動き1つしない。


「綺麗な女性だね、でも人形みたいだ」


「へぇ、ゲンはこういう異性が好みなんだね?」


「ちが、わないけど、ちょっと違うかな?」


「あっ、何か喋ってるよ」


「おい、話を振っておいて、放置するなよ!」


「ふーん?」


「聞いてないし、おい、アルゴ!」


「”基礎知識受領ました。続いて、人格データを受信開始”だってさ」


「? 基礎知識だって? それに人格データ?」


「うーん、何をやっているかは大体分かったよ、ゲンに説明するのは難しそうだけど。 人格データは分かるよね?」


「ああ、何となくだけど想像出来るかな?」


「まあ、そうかもね。あ!」


「どうした?」


 単純に主人公である不幸な人間が、何時も通り不幸な事故を起こしただけだが、この時点のゲンには知り様が無かった。



+ + +



 時間を少し遡る。そこは紺色の屋根の家の二階にある不動幸太の部屋に視点を移す。


「うお! なんじゃこりゃ~!」


 目覚まし時計を握り締めながら、起き抜けに大声を出したのがこの部屋の主、不動幸太だった。大声を出した理由は単に”寝坊”である。


「母さん! 何で起こしてくれなかっただよ!」


 飛び起きて、速攻で着替えをはじめながら部屋から顔を出して母親に向かって文句を言った幸太だった。


「だ~、昨日から出掛けてるんだった! くっそ~、目覚まし5個が全滅かよ!」


 幸太の名誉の為に言っておくと、きちんと目覚ましはセットされているし、当然電池も替えて1月も経っていない。ただ、何かの偶然か鳴らなかっただけだ。通常有り得ない事だが、不動幸太にとっては珍しい話ではない。


「8時25分か、一コマ目は無理だけど、二コマ目の人文なら何とか!」


 ちなみに、幸太の家から彼が通っている学舎までは凡そ一時間、普通ならば遅れる筈が無いのだが、幸太の場合は普通ではない。


 彼が朝食代わり野菜ジュースを飲み干して、寝癖もそのままにダッシュで玄関から駆け出そうとドアを開けた瞬間に彼の予定は脆くも崩れ去る事になった。


”ガン”


「きゃっ!」


”ドサッ”



+ + +



「うわっ、痛そう。大丈夫かな、あの人?」


「大丈夫だよ、普通の人間は転送なんてされないだろう、ゲンの世界の人間は?」


「そうか? でもあの幸太って人も、不幸なら不幸で他人を、あれ?」


「気にしなくて良いよ、僕が”見た”事実がゲンの中に流れ込んだだけだから」


「気になるよ!」


 何故か自分の知らない事が分かると言うのは、あまり愉快な経験では無いらしい。


「まあ、忘れる事だからね?」


「本当なんだろうな?」


「勿論!」


「はあ~、どうせ僕には抵抗出来なんだろう?」


「勿論さ!」


「なるようになれだね……」


 何かを悟ったゲンだった。



+ + +



「うわ、やっちまった! まさかこの時間に玄関先で突っ立ってる人が居るとは思わなかったんです、ごめんなさい!」


「……」


 意識の無い人間に対していきなり謝りだした幸太だったが、直ぐに返事が無い事に気付いた。状況を確かめずに謝罪をはじめる辺りが幸太の苦労を物語っている。


「もしもし?」


「……」


「どうしよう? ヨースケの所も家と同じだし、モモの所は……、もっと駄目だな。仕方が無い、とりあえずリビングのソファにでも、よっと、うわ軽いな」


 この時間帯に玄関前で若い女性を前に若い男が右往左往しているのは良くないと思い立ったらしい。本当は救急車を呼ぶべきとは分かっているのだろうが、救急車というのは幸太にとっては極力避けたい存在だった。



+ + +



「連れ込んじゃったぞ?」


「連れ込んじゃったね?」


「手は出せないんだよな?」


「手は出さないよ、そういう”主役”じゃなさそうだからね」


「そう言う主役の時もあるのか?」


「ゲンはそういう方面に興味があるんだね?」


 何やら面白げなアルゴの口調だったが、ゲンの心配は少し違って、かなり方向が間違っていた。


「いや、アルゴみたいな子供には、教育上悪いと思っただけだ、本当だよ?」


「まあ、そう言う事にしておこう」



+ + +



「はぁ、どうしようか?」


 幸太は女性をソファに横たえて、少しだけ赤くなっている額に濡れたタオルを乗せた後で、こう呟いた。


不幸な人間が不幸な事故を起こしました。普通の事故ではないですけどね?


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