第9話 - 再発
病気が再発する訳じゃないですよ?
再発送という意味です。送られるのは勿論もう一人の方ですけどね。
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その後、ユズ姉の部屋に場所を変えて、もう少し詳しい話を聞く事になった。何だか事情をペラペラ喋ると思ったら、理々は兎も角、俺には忘れてもらう予定だったそうだよ? 理々なら簡単に丸め込めると思っただろうし、俺も同意見だけどね。
「ゲーム?」
「ええ、ちょっと前に人間界の支配権を巡って天界と冥界が全面戦争に突入しそうになった事があるの」
「戦争ね~」
「当然戦場は人間界だけどね!」
「また、迷惑な話だね」
「そうね、天界冥界共に人間界にそれ程魅力を感じていた訳じゃないけど、”相手に渡すくらいなら”で、はじまった争いだったのよね、殆どメンツの問題ね?」
メンツか、人間を馬鹿にする割には以外にレベルが変わらないよね?
「全面戦争は拙いと言う事、天界神モナトウスと冥界神サウレニアが何千なんだか何万年ぶりに直接交渉をして、双方が人間界に代表者を送り込んで戦わせて、勝った方が代表者が死ぬまで人間界の支配権を持つという話になったの」
「少しゲームっぽくなったね」
「そうね、それが2000年位前の話よ」
2000年前? うん、考えないでおこう、話が大き過ぎる。
「戦いと言っても、天使がう、守りなら堕落させる、冥使なら改心させるという感じね。少しして天界神冥界神ともに双方を監視する形で何処かに篭ってしまったわ。でもゲーム自体は天使と冥使で続けているの、戦績としては天界側が有利に進めているけど、冥使が勝つと結構酷い事になるのよね」
「ふーん?」
「彼らの人間界への影響力が強いからね、世界大戦とかなっちゃう訳よ」
「……、聞かなかった事にするよ」
考えるのを通り越して、聞く事も拒否したくなって来たぞ?
「まあ良いけどね。今回は天界側が”ま・も・り”で、冥界が攻め。冥使の代表として受肉したのが理々ちゃんと言う訳ね」
「天界側が、ヨースケと言う訳だね」
「まあ、コータクンなら気付くわよね?」
「付き合いは長いからね、人間に対しての影響力と言う話も実感出来るよ」
多分、ヨースケの目覚めは近いんだろう。友人としては複雑だけど、ヨースケという存在は確かに俺なんかには大き過ぎるさ。
「ユズ姉は、監視役だっけ?」
「ええ、彼が生まれる前から守護して来たわね。藤田の小父さんの知り合いの辺見を狙って”生まれて”来たの」
「狙ってね、理解を超えるよ」
「それは冥界側に言うのね、理々ちゃんの身体は人間の身体を使って冥界で作られたんだと思う。ここまで本来の冥使に近い身体は生まれられないでしょうから……」
「……、いや、理々は理々だよ!」
「そうね、結局私の思惑通り失敗してくれたけど、”肉体”と”精神”と”冥使としての力”を別々に送り込んでくるとは思わなかったわ。近くを彷徨っていた”悪意”は浄化したんだけどね」
「監視者って、何やるの?」
「受肉した天使を導くかしら、何でそんな目で見るの!」
「いや、気のせいだよ」
何処に導くか不安に思うのは当然だと思うぞ! ヨースケという人間が未だに目覚めていないのはユズ姉が手を抜いているからじゃないかとか疑いたくなるしさ。
「守り側が不利なのは当然だから、監視者は守り側に付くのね。選ばれた天使、冥使以外が直接人間界に干渉するのは禁止なの」
「もしかして、ユズ姉がモモを操っている」
「ふふっ、そう思う?」
「微妙だな、昔からモモは世話焼きだったし、ヨースケに夢中だったもんな」
「姉として妹を厳しく躾けたのは事実よ。それに炊き付けたというなら否定はしないけどね。なるべくヨースケ君とは会わない様にしていたし」
何となく話が分かった気がする、”モモ”が”ヨースケ”を導いていて、それをプロデュースしているのがユズ姉なんだ。そして、ヨースケを誘惑する為に理々が送り込まれた。
「ねえユズ姉、俺ってどんな役割をもって生まれてきたんだろう?」
「さあ?」
「えっ? 俺が不幸なのって冥界の影響とかじゃないの? もしかしたら、ヨースケを巻き込む為に……」
「大丈夫よ、コータの不幸は生まれつきだし、冥使も天使も干渉はしていない、お姉さんが保証しちゃう!」
そんな保証は要らないよ!
「えーっと、じゃあ、ヨースケと幼馴染になったのは偶然?」
「それは違うわね。私がそう仕組んだんだもの。コータクンを一目見た時に”使える”と思ったのよ?」
「意味が分からないんだけど?」
俺って何者なんだろう? 今回の事を考えれば、普通の人間とは思えない不幸さなんだけど?
「天使も冥使も、間接的になら人間界に干渉する事が出来るのは分かる?」
「ああ、遠藤が人間を操ったとか言っていたよ」
「遠藤じゃないんだけど、まあ、意識を誘導する感じなんでしょうね。遠藤さん自身は本当に家出した娘を探していたんじゃないかな?」
「そうなんだ……、それで?」
「うん、直接じゃない方法で天使を殺そうとする場合もあるのよね。致命的な物なら私が直接助けるけど、それをすると冥界側の干渉を招く訳よ」
「そう言う事か……」
ヨースケに対する冥使の間接的な干渉を俺が引き付けていたんだろうか……。
「分かった? 何故か不幸を招くコータクンの近くに、ヨースケ君が居ればどうなるか実感しているでしょう? まさか、冥使自身まで巻き込まれるとは思わなかったけどね!」
「と言う事は、俺はこれからも不幸なのかな?」
俺って救われないんじゃないかな?
「さあ、分からないわね。でもね!」
「はい、コータさんは私が守ります!」
俺を徹底的に利用したユズ姉はどうでも良いけど、理々の申し出は凄く、本当に凄く嬉しい。多分、ユズ姉も陰から”俺”を助けてくれたんだろうけどさ。天使が人間を間接的に助ける位なら、酔狂で済むんだろう。
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十数年後、国際連合の停戦視察団の代表にヨウスケ・フジタのが任命される事になる。彼は積極的に世界中の戦乱に苦しむ国々を訪れ、交渉を奇跡的に成功させて行き、非公式に”救世主”と呼ばれる事になる。
その”救世主”の身を守る鉄壁のボディーガードとしてコウスケ・フドウの名前も忘れてはいけないだろうが、夫を支えるリリ・フドウの存在は意外に知られていない……。
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その頃、遠藤を名乗った冥使は、リリスが生み出された場所で部下と口論の真っ最中だった。
「馬鹿者、天使どもの裏をかける絶好の機会なのだぞ! 対策を打たれる前に、次の一手を打つ必要があるのだ」
「ですが、エドヴァン様。転送が失敗した理由がまだ」
「構わん!」
「それにこちらの素体は十分に成長していませんが……」
部下の冥使の視線の先には、リリスに良く似た”素体”が、人の背丈ほどの水球の中に浮かんでいた。髪が栗色なのとリリスに比べて3~4歳ほど幼く見える。
「分かっている、そういう趣味があるかも知れんだろう」
「そう言う趣味はアンタだけだよ、中間管理職といわれたのが応えたらしいな」
「何か言ったか、チアーノ?」
「いいえ、上手く”飛ばされる”といいですね?」
”飛ばす”の所に別の意味が隠されているが、言われた本人は気付かない。
「何を言っている、上手く飛ばすのだ! やれ!」
「はぁ、すまないね”リリム”」
チアーノが小さく指を振ると、そのまま”素体”は水球の中から消え失せていた。
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「冥使って懲りないんだね?」
「いや、僕に同意を求められても困るよ」
「でもさっきの話からすると?」
「そうだね、きっと彼の所に飛ばされるんだろうね」
アルゴが実に愉快そうに言葉を口に出した瞬間に”リリム”の転送が開始された。
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「ぞれじゃあ、お邪魔しました!」
「いえいえ、何のお構いもしなくてごめんなさいね」
「ユズ姉のお茶を飲んで酷い目にあったってアシスタントの人が言ってたな……」
モモによれば、家事の才能は”絶滅”らしいから、妙な事を思いつかなくて良かったと思うよ? いや、さっさと逃げようか!
「きゃあ!」
「……」
何だろう、この妙な空気は? ちょっと焦って辺見家のドアを開けただけじゃないか。また、外に誰か居るなんて……。
「理々、ちょっと外を見てくれるかな?」
「はい」
「コータクン……」
「何も言わないでくれ、ユズ姉」
外を確かめずにドアを開けた俺が悪いのは認めるけど、こんなタイミングで次が来るとは思わないよね?
「コータさん、大変です。女の子が倒れていますよ!」
はぁ、何故こんな事になるんだろう?
「ねえ、貴女、大丈夫?」
「ふぇ?」
ああ、今度は直ぐに目覚めたらしい。諦め気分で玄関の外を覗くと、あの時の理々と同じ様な格好の理々を少し若くと言うより幼くした感じの女の子が倒れていて、理々がその女の子を介抱しようとしている。
理々自身は自分の身に起こった事を認識出来なかっただろうから、俺が何をしたのかも分かっていないんだろう。ユズ姉の反応をみれば、この女の子が誰なのかは大体想像が付く。
「あれ? ここは何処ですか?」
「えっと、名前分かる?」
「なまえ?」
理々が途方に暮れて俺の方を見たけど、俺の方がもっと途方に暮れているよ!
「あっ、り、りむ?」
「そう、理夢ちゃんね!」
こんな感じで、理々の名前も決まったんだろうな。
「はい、お姉様!」
「……」
後ろで、ユズ姉が、こっちも行けるかもとか言っているし、何処か遠くで”何故だ~!”とかいう叫びが聞こえた気もするけど気のせいだよな?
ネタバラし第一弾でした。
まだもう一捻りありますよ。予告通り次が最終話ですけどね。
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