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従者

王女の説明は続く。

「勇者」をいきなり魔獣との戦いに放り出すようなことはしない。

装備も宿舎も国が支給するし、十分な訓練を積んだ上で戦いに臨んでもらう。

倒した魔獣が落とす魔晶石は、安定した価格で国家が買い取る。

相応の強さの魔獣を一定数以上倒した者には、国家から称号を送り、さらに戦功著しい者は貴族に取り立てることも可能である。

貴族ともなれば王族との婚姻も有り得る……そう言いながら王女が微笑むと、一部の男達から歓声が上がった。


とにかく、「勇者」に対して全国民ができる限り最大の便宜をはかるよう周知徹底する。

その手始めとして、全ての「勇者」に対して従者を支給する。


王女が合図すると、先ほど「勇者」達が導き入れられた四つの入り口から次々と人間が入ってきた。

金や銀の髪を持つ全般に色素の薄い人間達……その大部分が女性で、まだ年端もいかない幼女からまさに今が女盛りの肉惑的な美女まで、柳腰あり巨乳ありと様々なタイプの美しい女たちがぞろぞろと、祭壇を後ろから取り巻くように導き入れられた。

女性よりはるかに数は少ないが、やはり色素の薄い男性達……中には天使と見紛う美少年や、ギリシャ彫刻のような美青年、ボディビルダーのような美丈夫達があとに続く。

召喚された「勇者」の倍以上の人数が祭壇の後ろに整列し終わるには、かなりの時間を要した。



どことなく王女と似通った身体的特徴から見て、彼らもこの聖王国の国民なのだろうが、誰もがかなりの水準の美男美女で、全員がやたら露出度の高い……ほとんど局部しか隠せていない、水着のような衣装を身に着けていた。


「彼らには皆様の忠実な従者として、皆様のどのような命令にも喜んで従うように十分教育を施してあります。また皆様が身に着けている魔道具との契約によって、皆様のどのような命令にも従者は逆らえない仕組みになっています」


「どのような」の部分を王女は不自然なほど強調した。


「召喚の際、たまたまあちらの世界は大災害に見舞われており、その自然エネルギーの影響で予定よりはるかに多くの「勇者」様にこちらに来ていただくことになりました。そのために当初三人の従者を皆様にお付けする予定でしたが、従者は二人までとさせていただきます。その代わり、戦闘の結果、もしくは皆様の命令によって従者が使用不能になるか死亡した場合は、すぐに替わりの従者を支給いたします」



従者達が青ざめる台詞を平然と言ってのける王女に、眉をしかめる者も中にはいた。

しかし大多数の「勇者」達は、目の前の美女を自分の好きにできる状況に浮き足立っていた。

早くよこせと騒ぎ出す一部の「勇者」へ、王女は冷たい微笑みをくれた。


「焦らずとも、従者は十分な数が用意してあります。潜在能力の高い……皆様の身の内にある魔素の量が多い方から順にお呼びしますので、それまで静かにお待ちください」


ややうんざりしたような表情が一瞬、王女の顔をよぎる。

しかしすぐに唇を引き結び息をととのえてから、王女は低く何事かつぶやき始めた。

何かの呪文だろうかと皆が気付き始めるころ、「勇者」達に異変が起こった。

全ての「勇者」の頭に被せられた細い金属の環……サークレットという装身具の額のあたりに、指の爪ぐらいの小さな水晶が付いているが、それが王女の呪文に連動するようにキラキラと輝き始める。

光りかたは人によってまちまちで、まともに見ると目が眩むほど輝きが強い者もいれば、まだほとんど光っていない者もいる。


中でもひときわ輝きが強い青年のもとに武装兵が走り、彼を立たせて祭壇へと連れていった。

連れていかれた青年は、最初慌てて不安げにしていたが、祭壇上で王女の恭しい礼を受け、居並ぶ美女の群れの中に導き入れられると、徐々に表情を崩し、ついにはヘラヘラ笑いながらあちらこちらの美女に抱きついたり髪やスカートを持ち上げたりとちょっかいを出して回った。

やがてメロンのような胸の金髪美女を二人、両脇に従えて、青年は笑いながら祭壇の後方にある扉から外へ出ていった。


そうして、水晶の輝きが強い者から順に連れ出され、従者を選ぶ権利を与えられていった。


戦闘力を見込んで男性の従者を選ぶ者も中にはいたが、ほとんどが女性を、それも顔立ちや胸の大きさで選んでいる。

彼らが従者に何を求めているかは明白だった。


……嫌な感じだ。


奴隷市場を連想させる状況に顔をしかめていると、ふいに額が熱くなる。

自分のサークレットが光を放ちだしたと気付いたのは、目の前に無表情な武装兵が立ち、慇懃無礼に頭を下げられた時だった。

2011年12月29日投稿

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