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魔素

いきなり召喚とかどういうことだ?

勇者って、まさか魔王と戦えと言うんじゃないだろうな?

異世界とは、ではここは日本ではないのか?というよりむしろ地球上ですらないのか?

元の世界に帰してくれ!

そもそも元の世界はいったいどうなってしまったのか?

家は?家族は?友人は?恋人は?


いったい自分たちはどうなるのか!?


誰もが、思い思いの疑問や不安を負の感情と共にぶちまける。喧騒はほどなく怒号になり、立ち上がって叫ぶ者や地団駄を踏んでいきり立つ者達でホールが揺れる。


興奮した数人が席を立ち祭壇に駆け寄ろうとするのを、すかさず武装兵が通路に散らばって制し、座席へと乱暴に押し戻した。

鈍い殴打の音やくぐもった悲鳴も混じって聞こえる。

兵が興奮した「勇者」に対して、ためらいなく暴力を使ったのだ。



仮にも「勇者」と呼んだ者に対するにしては、武装兵らの行動は少しばかり横柄に過ぎる。



単純に怒りの表出だった怒号が弱まり、不審と脅えを含んだざわめきに切り替わる。そこへ、


「……皆様……」


か細く震えるような、若い娘の声が響きわたった。


気がつくと、祭壇上の人物は銀髪の老人から美しい少女に入れ替わっていた。

むきたまごのように白い肌に金色の長い髪を垂らし、向こうが透けて見えるほど薄い生地のドレスと大量のアクセサリーのみを身に着けて、祭壇上の少女はぶるぶる震えていた。

羞恥心からかほんのりと頬を紅潮させ、薄い生地を通して乳首の勃起や性器へと繋がる発毛の形までが透けて見える姿は、「勇者」達……特に年若い男性の……を黙らせるには十分な威力があった。


何度かためらう仕草を見せた後、少女は覚悟を決めたように顔をあげ、まだ震えながらも先ほどよりは大きな声で話し始めた。


「皆様、突然このような異世界に呼ばれてしまい、さぞかし驚き混乱していらっしゃることでしょう。まずはその事について、聖王家の一員として深くお詫びいたします」

優雅な動作で少女は深々と頭を下げた。



「勇者」達が戸惑うほど長い間頭を下げ続けた少女は、再び顔を上げた時には完全に羞恥心から脱出して、すっかり王家の一員らしい威厳のようなものを纏わせていた。


少女はエリューセラ王女と名乗り、聖王国の次期王位継承者にして国教会の最高位巫女であると付け加えた。

彼女こそが今回の「勇者」大量召喚の総責任者だと判明して、再び場内は騒然となったが、武装兵のひと睨みで収まった。


ひと呼吸おいて、王女は今回の召喚について説明を始める。

この世界がいわゆる「剣と魔法の世界」であること。

世界を構成する基本となる「魔素」なるものが存在し、あらゆる生命活動を支えるエネルギーとして世界を循環していること。

しかし、この魔素を一方的に食い荒らして不当に溜め込む「魔獣」と呼ばれる生き物が大量発生しており、魔獣の増殖に伴って世界から急速に魔素が減少し始めている。

このまま魔素が枯渇してしまえば、森は枯れ人も獣も死に絶えて、世界から多くの命が失われてしまう。

一方、魔法の存在しない異世界の人間は、魔法が無い世界で生まれ育ったが故に体内に非常に多くの魔素を持ち、また世界から魔素を体内に取り込むことに優れている。

魔素を変換する力を持つ「魔晶石」を介することで、体内に有り余る魔素を強大な魔法に変換することができるし、また肉体的にも頑健で技術の習得にも優れている。

この世界の人間の誰よりも優れた戦士となる可能性を秘めた異世界人の力をもって、増え続ける魔獣を倒し、不当に溜め込まれた魔素を再び世界に解放し、この世界を滅亡から救って欲しい、と。


「皆様には不本意な形で戦いに巻き込んでしまう事になりましたが、私たちはもう皆様の優れたお力に頼るよりほかは無いのです。どうか、どうかこの世界をお救いくださいませ」


王女は再び深々と頭を下げた。

先ほどは身体を覆い隠していた両手は、今度は大きく左右に広げられ、片足を後ろに引いて腰を屈める、ちょうどバレリーナが舞台挨拶をするような礼である。

透けるドレスの中で豊かな乳房がたわわに揺れ、おそらく前の席についている者達には女性器すら丸見えだろう。

扇情的ともいえる美少女の一礼に、ホールはしんと静まり返る。

隣の若者のゴクリと唾を飲み込む音まで聞こえる程だ。

2011年12月29日投稿

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