召喚
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ローブの男達に導かれた先は、「避難所」よりさらに広い空間……ドーム球場並みの広さと高い丸天井を備えた、やはり石造りの巨大なホールだった。
丸天井の半分以上は華やかなステンドグラスに覆われ、そこかしこにシャンデリアが輝く、金色の装飾も煌びやかな豪華な空間は、教会とか大聖堂などと呼ばれる施設をやたらと巨大にしたように見える。
中央にひときわ高い祭壇があり、その上には白を基調にしたこれまた豪華な衣装に身を包んだ老人が佇んでいる。
髪も鬚も見事な銀色の老人もまた、ローブの男達と同様に明らかな白色人種で、明らかに政治的もしくは宗教的に高位にある人物だと見てとれる。
祭壇を取り囲むように並ぶ簡素な長椅子に誘導されて、次々と黒眼黒髪の人間が座らされていく。
四カ所の入り口から川の流れのように続く人波は、いつまでもだらだら続き、なかなか途切れる気配が無かった。
目測でざっと千人近くにはなるだろうか。比率はおよそ男9に対し女1と圧倒的に男が多い。
経験上、災害時の生存者は女が若干多いものだが、珍しいこともあるものだ。それに子供の泣き声も聞こえず高齢者の姿も無い。
もしや女子供は別の施設に収容されているのだろうか。
予想以上に生存者は多かったのだと喜ぶ反面、入り口付近から長椅子にかけて立ち並ぶローブの男達に違和感を覚える。
「避難所」にいた男達と服装は同じなのに、放たれる雰囲気があからさまに剣呑だ。
何が違うのかと目を凝らすと、彼らはすべて長短様々な棒や杖、槍や剣を所持して武装している事に気付いた。
背中が嫌な気配にざわついた。
なぜ、今、この状況で武器が要るのか?
周りの人々も落ち着かない様子だ。
ただ単に右も左もわからずに不安がっているだけの者が大半だが、中には武装兵の存在に気付き、彼らから視線が離せない者もいる。
もし誰かが悲鳴でもあげたら、パニックが起きてもおかしくない……そう思った頃、祭壇上から深みのある声が響きわたる。
「静粛に!」
両手を大きくひろげて、歌うように老人が続ける言葉に、ざわつく空間が水を打ったように静まった。
「世界に選ばれし勇者諸君!はるばる異世界より来たりし我らの救世主達よ!ようこそ、聖王都へ!」
……は?
思考が止まる。
今、彼は何と言った?
勇者?
救世主?
……異世界?
「突然このような異世界に召喚されてさぞかし戸惑っていよう。なれど我らの世界は崩壊の危機にあり、これを救えるのはそなた達、異世界からの勇者をおいて外に無い!」
一旦静まり返っていた空間は、それまで以上の喧騒の渦に叩き込まれた。
2011年12月19日 投稿




