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検証

だいぶ間が開いてしまいましたが、ようやく再投稿します。

今後は週一度を目安に投稿できるよう努力します。

「……つまり、あなたが周りの様子を知りたいと強く願った時に、むこうの世界で使っていた『CT』とか『MRI』という技術を思い浮かべたせいで、大量の白黒画像を見るはめになった、と?」


「はい、多分。本来の目的から考えたら、レーダーとか魚群探知機みたいなものを思い出してしかるべきだったんでしょうが……なるべく詳細な情報をと願ったせいでああなったのかな、と」


結局、私は取り調べと称してバルバラ教官の執務室に通され、紅茶をご馳走になっている。

私としては、精神的にも肉体的にも疲労困憊だったので、一刻も早く宿舎に戻りシャワーでも浴びて寝たかったのだが、青ざめた顔の教官に呼び止められ、取り調べと言われては逆らうわけにはいかなかった。


心配そうなオリエとクレオに荷物を預け、気を引き締めてついて行った先は、しかし予想外に快適な豪華な部屋で、温かい紅茶と焼きたてのマフィン、色とりどりのジャムに取り囲まれての「取り調べ」と相成った。

趣味の良い執務室には時を刻む柱時計の音と、教官の副官という青年がペンを走らせる音だけが響く。


一応、今日の私の魔法発動について尋ねられてはいるので、取り調べである事には間違いないようだが、ふかふかのソファーの上で美味しいマフィンを食べながらなので、調子が狂うことこの上ない。

訊かれるまま、CTとMRI、それからレーダーについての基本原理を説明する。

バルバラ教官はそれにいちいち頷きながら、放射線や磁力などの概念には更なる説明を求めてきた。

どうも、放射線や磁力についての認識はこちらの世界には無いか、あってもかなり関心が薄いらしい。


「私達が感知するのは時空の歪み。すなわち時空魔法の痕跡です。今回はとにかく規模が大き過ぎた。それから同時に静闇魔法の痕跡も見られた事を重要に思います。もしかしたら、『放射線』や『磁力』は静闇魔法の領域に属するものかもしれませんね」


ひととおり私の説明を聞き終えたバルバラ教官は、しばらく沈思黙考した後でそう言った。

彼女が言うには、この世界での魔法発動の原動力はイメージする強さと確かさに比例するらしい。

普通は、自分が操れる属性の力の中から目的に合わせてイメージを練り上げ魔法発動へとつなげていくもので、想像力(妄想力?)の逞しい者ほど強大な魔法を使えるのだという。


それで少し納得がいく。

魔法訓練中に大魔法をばんばん打ち出していたのはほとんど10〜20代の若い男性……漫画やアニメ、ゲームなどで魔法や必殺技などの超現実的な現象に対して抵抗の少ない年代の者達ばかりだった。

私の場合、漫画はそれなりに読むがアニメは見ず、ゲームもそこまではまったことは無い。

自分が魔法を使うなど空想したことすら無かった。

だからだろうか、最初なかなか魔法が使えずに教官の手を煩わせたのは。


その代わり、現代日本で実際に経験した記憶を思い出すことが私の魔法発動につながっているようで、その記憶の鮮明さ、原理の理解の深さが魔法の強さに直結してしまうのだろう。


地震や湧水の魔法が、初めて発動したにも拘わらず洒落にならない規模で暴発しかかったのも、おそらく最も強烈で鮮明な記憶として脳裏によみがえったせいではないか?


自分の考えを教官に告げると、彼女も素早く頷いていた。


「……多分、その認識で間違いないでしょうね。あなたの場合、まず使いたい魔法の完成形があって、それに必要な魔力が属性を超えて練られるのでしょう。もしあなたが使えない属性の力が含まれる魔法であれば不発に終わるのでしょうが、幸か不幸かあなたは全属性が使える。

だから、あなたの魔法は常に複数属性による複合魔法だわ……言い換えると、発動する魔法は常に強大なものになる可能性が高い、と」



バルバラ教官は呆れた表情で私を見た。

どうしようもない悪戯小僧を前にして、どうやって説教しようか悩んでいる校長先生のような表情だ。

今まではじっくり正面から見る機会が無かったが、あらためてよく見るとバルバラ教官はかなりの美女だ。

女優で言うならシガニー=ウィーバーやミラ=ジョヴォヴィッチのような「闘う女」の美しさではあるが。


こんな迫力ある美女に困ったようにため息をつかれては、凡人であるわたしはただうなだれて、ソファーの毛玉のごとく小さくなっているより他にない。


「でもね。ものは考えようよ、キノサキ=タカシ」


バルバラ教官の唇が、ニイッと薄い三日月の形になった。


「力が少ない者に大きな力を出せというのは無茶だけど、大きな力を出せる者が力を小さく絞るのは可能だわ。大きな声で歌える者が囁くように歌う事が可能なように」

「つまり、私は魔力を制御できるようになる、と?」


紅茶カップの陰からおそるおそる問いかえすと、教官は大輪の薔薇のように微笑んだ。


「してもらわねば困ります。あなたがその強大過ぎる力をきちんと制御できるようになるまで、私は他の一切の仕事を中止してあなたを監督しますからね」

「……他の一切って……総括!?」


それまで部屋の片隅で書類に埋もれていた副官の青年が、素っ頓狂な声をあげた。


「召喚勇者に関する諸業務はどうするんですか!?」

「あなたに任せます、スティーブンス。適当にやっときなさい」

「……適当って……そんなぁ」


紙より白い顔色の青年に向けて、バルバラ教官は再び華やかに微笑んだ。


「もとより、こんなムチャクチャな召喚計画を一方的に押し付けてきたのは王室です。

とにかく召喚勇者達には一切不自由のないように、市民に危険が及ばないようにだけ注意して。

予算は多少オーバーしていいから集計だけは正確に、全部王室へ請求なさい。文句は言わせません」


気力が尽きたように書類の山陰に沈んだ青年から視線を外し、バルバラ教官は今度は私に視線を向けてきた。


「……私の監督って、城門で聞いたときは冗談だと思ってましたが……」

「私は冗談は言いません。魔法属性について気になることもあるので、その実験がてらしばらくは同行しますよ」


「実験」という単語に神経を逆なでされつつ、私はなんとか監督期間を短縮できないかと足掻いてみる。


「でも、あまり長期間あなたが諸業務から離れると、彼が潰れるんじゃないですか?」


年の割にはかなり寂しい青年の後頭部を見やりながら呟くと、バルバラ教官も再び彼に目を向けて苦笑した。


「……そのとおりね、キノサキ=タカシ。だから早く魔法を制御できるようにあなたが努力なさい。スティーブンスの胃に穴があかないうちに、ね?」


ああ、胃も弱いわけか、彼は。


明日からの監督付き生活に思いを馳せ、私は無意識のうちに自分の鳩尾を軽く撫でていた。

2012年4月8日 投稿

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