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動揺

誤字脱字、用語の間違いなどありましたらご教示ください。

時系列がはっきりしている記憶は「避難所」から始まる。


遠くから聞こえてきた潮騒が次第にざわめきに変わり、やがて不特定多数の会話だと認識できるようになる頃。

深い海の底からゆらゆら浮かび上がるように、少しずつ、少しずつ意識が鮮明になる。

まぶたの向こうが明るくなり、それが木洩れ日のようにちらついている。

周囲でにわかに人の動きが増えたことが、背に響くかすかな振動から感じとれる。


名前を呼ばれたような気がしてまぶたを開いてみると、目の前には高い高い石造りの天井。

身体にかかる薄い毛布をはねのけておそるおそる起き上がれば、病院の入院患者用ベッドのように飾り気のないシングルサイズのベッドの上だ。


「……ここは、どこだ?……」


見渡せば周りは体育館ばりに広い空間で、同じような病院ベッドが一面にびっしりと……ざっと見て50床以上はある……並べられ、そのひとつひとつに人間が寝かされていた。


中には起き上がっていたり、ベッドに腰掛けているものもあるが、全ての人間に共通するのは黒眼黒髪であることだ。

恐らくほとんどが日本人……少なくともアジア系黄色人種の集団が、ほぼ全員貫頭衣のような簡素な服を着せられて、ベッドについている。

そしてベッドの間の狭い空間を、純白のローブをまとった白色人種と思しき集団がせわしなく歩き回りながら、ベッド上の人間を覗き込んだり話し掛けたりしている。



野戦病院?

もしくは兵舎?

……まさか……強制収容所?



軽いめまいに片手で顔を覆うと、指先に金属が触れる。

手でなぞり、両手で確かめると、額のまわりに細い輪がはめられていた。


……あ……


ふと蘇る船上の記憶。


そうだった。

自分も保護対象……被災者とか傷病者と呼ばれるべき人間なんだ。

ということは、ここは避難所とか病院、多人数を収容するための大規模保護施設の類だろう。


船上では自分以外に生存者はいないのかと絶望的な気持ちでいたけれど、こうして見るとけっこう助かっていたんだなと胸を撫でおろしていたところに、白いローブの男達が大声で呼ばわりはじめる。


「まもなく召還の儀が始まります!動ける方は手荷物を持って、誘導に従って移動してください」


召還……って何だ?

聞き慣れない言葉に首を傾げながら枕元に置かれた布袋を覗くと、中に衣服や財布、携帯など身に着けていた物が入っている。

周囲の人間がもぞもぞと動き始める中、強張る身体を無理やり伸ばし、ベッドから抜け出して袋を背負った。


ローブの男達の誘導に従って歩くのは、皆、自分と似たような者ばかりだ。

ほとんどが十代後半からせいぜい三十代の男。

皆一様に疲れて、生気のない顔つきをしている。

被災直後ならばそれも仕方がないのだろうが、何というか、それだけが原因とは思えない、不自然な活気の無さが気になった。


2011年12月19日 投稿

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