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神様と人でなし

作者: さとぽん
掲載日:2026/09/09

ぼくは、おとうさんが大きらいです。

それは、おかあさんをいじめるからです。

この前は、近所の人が、見るに見かねて、おまわりさんを呼んでくれました。おとうさんなんて、いなくなればいいのに、ぼくはいつも思っています。

となりには、同級生の川崎大樹くんが住んでいます。大樹くんは、おとうさんとよく公園でキャッチボールをしています。家族そろって、いろんなところへも遊びに行く、仲良し家族です。ぼくの家族とは大ちがい。

そんなある日の夜、おとうさんが、またお酒を飲んで、帰ってきました。

「優斗、まだ起きていたのか。早くねろ」と言うと、ぼくを持ち上げて、ふとんがしいてある部屋に連れて行きました。

ぼくは、おかあさんが心配で、ふすまを少し開けて、見ることにしました。

「なんだ。その顔は」おとうさんが、おかあさんの座っている食卓のイスをけりました。

おかあさんは何も言いません。

「なんか言えよ」おとうさんがもう一度、おかあさんのイスをけりました。

「毎日、毎日いいかげんにしてください」

そのあと、おかあさんは、たくさんなぐられました。そして、おとうさんは、「もうつかれた」と言って、その場で寝てしまいました。おかあさんは、冷たいタオルで顔を冷やしながら、大きなため息をつきました。

それから数日後、おかあさんがぼくに言いました。「優斗、この家出ようか」

ぼくは大きく首をたてにふりました。

おかあさんの目の周り、化粧を厚くしているんですが、よく見ると、青黒くなっています。ぼくは、「おとうさんが出ていけばいいのに」と言いました。

「優斗の学校のこともあるし、それが一番いいんだけれど。それはぜったいに無理」おかあさんは首を横にふりました。

その時、おとうさんが帰ってきました。

「何をこそこそ話している、優斗早くねろ」

ぼくは急いでふとんに横になりました。

食堂からは、いつも通り、おとうさんがおかあさんを、いじめる音が聞こえています。

ぼくは上を向いて、手を合わせ、目をつむり、「神様、おかあさんを助けてください。おとうさんが悪いんです。いなくなればいい。神様、お願いします」と心の中でさけびました。

次の日の朝、学校へ着くと、すぐに先生がぼくに言いました。「おとうさんが交通事故にあわれたの、家に帰りなさい」

ばくが、走って、家に向かっていると、タクシーが横に止まり、おかあさんが出てきて、「優斗、乗って」と言いました。

ぼくとおかあさんが病院へ着くと、おまわりさんが、地下のひんやりとした部屋に案内してくれました。ポツンと置かれたベッドに人が横たわっています。

おわまりさんが顔にかけてある白い布をとりました。おとうさんでした。おかあさんは、「はい、まちがいありません。主人です」と静かに言いました。

ぼくとおかあさんは廊下に出ました。

となりの部屋の前の廊下のイスに、大樹くんとおかあさんが、座っていました。二人とも、声をあげて泣いています。

おわまりさんが、ぼくたちを、待合室と書かれた部屋へ案内し、「お宅のご主人は、歩道を歩いていたところ、後ろから、歩道に突っ込んできたトラックにひかれ、お亡くなりになりました」と言って、頭を下げました。

「川崎さんのご主人もですか?」おかあさんは小さな声で聞きました。

「ええ、そうなんです。川崎さんのご主人もお亡くなりになりました。お二人ともバス停へ向かわれている途中の事故でした。トラックの運転手が居眠り運転をしたようです」おまわりさんも小さな声で答えました。

おまわりさんが部屋を出て、しばらくすると、大樹くんとおかあさんが部屋に入ってきました。二人とも泣きつかれた顔でした。

大樹くんとおかあさんの、すすり泣く声だけが、ずっと聞こえています。ぼくは、神様にお願いしたことを、おかあさんに言おうかどうか、ずっと考えていました。

とびらをノックする音がして、おまわりさんが、若い男の人をつれて、部屋に入ってきました。男の人は、すぐに、両手を床について、「本当に申し訳ありませんでした」と頭を床にこすりつけました。

大樹くんのおかあさんは立ち上がり、「私はあなたを一生、許しません。あんなにやさしい主人をころすなんて、この、人でなし」と大きな声で泣きさけびました。

ぼくのおかあさんは座ったまま、「どうして居眠り運転なんかしたんですか?」と小さな声で聞きました。

「仕事がいそがしく、ほとんど、寝ていませんでした。本当にすみませんでした」男の人は、また頭を床にこすりつけました。

「もういいです。私たちはこれで」とおかあさんは言うと、ぼくの手をとって、「もう帰ろう」と言いました。

 病院を出て、目の前にある大きな公園に入りました。桜の花びらがヒラヒラと舞い散っています。おかあさんはベンチの前で立ち止まり、「優斗、ちょっと座ろうか」と言って、ぼくたちはベンチに座りました。

おかあさんは大きな息をはき、「終わったね」と言いました。

「おかあさん、ぼく……」ぼくは言わずにはいられませんでした。「きのう、ぼく、おとうさんがいなくなるようにって、神様にお願いしたんだ」

「そうだったの」おかあさんの目が少し大きくなりました。

「だから、おとうさんが死んだのは、ぼくのせいなんだ」

「優斗のせいではないよ」

「ぼくがお願いさえしなければ……」

「優斗がお願いをしても、しなくても、おとうさんは亡くなる運命だったのよ」

「ごめんなさい。おかあさん」

「優斗があやまることはないよ」おかあさんは、ぼくの手をやさしくにぎって、「優斗はやさしいね」と言いました。

春の日差しを受けた、おかあさんの目には、涙があふれていました。

その時、急に風が強くふき、多くの桜の花びらが、ぼくたちに舞いおりました。

「結婚式のフラワーシャワーのようね」おかあさんはさびしくほほ笑み、「幸せになろうね」と言いました。

それから、おかあさんは、しばらく遠くをながめていました。

そして、「あの若い男の人が神様だったのかもしれないね」

と小さく、小さくつぶやきました。


ある人にとっての「神様」は他の人にとっては「人でなし」ということもあります。善と悪は相対的な面もあるということです。あなたが「人でなし」といわれていても、落ち込む必要はありません。誰かがあなたを「神様」と崇めているかもしれません。

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