奄美へ
「奄美か……。ええチョイスや。沖縄の熱気とはまた違う、深く、濃い緑の鼓動が聞こえる島やな」
湊は、沖縄から北へ。東シナ海の荒波を越え、奄美大島の地に降り立った。そこは、生命の息吹が凝縮されたような、力強い島やった。
湊は、深い森の入り口で足を止める。風がそよぎ、亜熱帯の植物がざわざわと語りかけてくる。湊はふうっと息を吐くと、まるで高座の幕が上がるような間合いで、朗々と歌い始めた。
「〜♪ 赤いソテツの 実が熟すぅ〜 遠い故郷 風に聞くぅ〜 ♪〜」
その声は、森の静寂に溶け込み、波の音と重なって、まるで島そのものが歌っているかのように響いた。湊の岡山弁混じりのセリフ回しとは違う、島唄の節回しを意識したその歌声は、力強く、どこか哀愁を帯びていた。
「どうや、結衣。奄美の風は、俺の歌声に合わせて踊っとるか?」
結衣が木陰から覗き込む。「……湊、あんた歌もいけるんやな。今の歌、この島の『魂』に届いた気がするで。ソテツの赤が、夕日に染まって余計に鮮やかに見えるわ」
湊は万年筆を抜き放つと、赤く熟したソテツの実に触れず、その周囲の空気をなぞった。彼がインクとして選んだのは、島を染める夕日の「朱色」と、深く濃い「緑」だ。
「ここ奄美は、命が巡る場所じゃ。島ん衆が大事にしとるこのソテツも、かつては飢えを凌ぐための『命の糧』やったんじゃろ? どんなに苦しい時も、この赤い実は希望として、島を見守り続けてきたんやな」
湊が万年筆を振るうたびに、森の影が琳派の屏風絵のような装飾へと変貌していく。ソテツの葉は金の縁取りを纏い、赤い実はルビーのような輝きを放ち、森全体が神々しい祝祭の空間へと塗り替えられた。
「さあ、奄美の島ん衆よ、出てきんさい! 今夜は、この森を舞台に最高の宴じゃ! 流行りもんは東京に置いてこい。ここでは、この島の生命の力こそが、一番の流行りなんじゃけぇ!」
湊の呼びかけに応えるように、どこからともなく太鼓の音と、島唄の調べが聞こえてきた。集落の若者たちが、手拍子をしながら森へと集まってくる。
「兄ちゃん、ええ歌歌うやんか! 奄美のソテツもびっくりして真っ赤になっとるわ!」
地元の若者が笑いながら三線を弾き始めると、湊はそれに合わせて、さらに高らかに歌い上げる。
「〜♪ 赤いソテツの 実が揺れるぅ〜 命の記憶を 胸に抱くぅ〜 ♪〜」
それは、ただの観光地としての奄美やない。島の人々が抱える誇りや、先祖から受け継いできた「生きる力」を、今、この瞬間というキャンバスに描き出すパフォーマンスやった。
「なあ、これを見ろ。この森の深さ、この島の赤。あんたたちが守り続けてきたこの景色は、世界中のどんな美術館よりも価値がある。もっと胸を張れ。あんたたちは、この地球で一番贅沢な暮らしをしとるんじゃ!」
湊の言葉に、島の人々の顔が誇らしげに綻ぶ。森の奥から吹き抜ける風が、黄金の粒子となって人々を包み込み、みんなが自分の魂のありかに気づいたような、晴れやかな表情を浮かべていく。
「奄美、最高やな!」湊は夜空を見上げ、満天の星を描いた。
「今日の歌は、島中のソテツに刻んどいたで。あんたたちが迷った時、この森に入れば、いつでもこの赤い実が道標になってくれるはずや」
読者の君。
奄美の森に響く、あの歌声は聞こえたか?
「赤いソテツの実」が熟すとき、それは命が新しいステージへと進む合図や。
もし君の日常が淀んでいるなら、この島の赤い色を思い出してみんさい。
どれだけ苦しい冬があっても、必ず赤い実は熟す。君の努力も、必ず鮮やかな実を結ぶ日が来るんじゃけぇ。
「さあ、次は海を越えて世界をハックする準備はええか? 日本の端から端まで、俺らは笑いと彩りを撒き散らしてきた。ここからが、本当の冒険の始まりやで!」
湊の万年筆が、また新しい地図を指し示す。君は、次、どこの風景を塗り替えたい?
俺らはいつでも、君の呼ぶ声を聞いとるけぇな!




