「父の遺品」戦艦のプラモデル。
夕食には「鱧」が出た。
たまにしか顔を出さないボクのための心尽くしだろう。
「鱧」は徳島の夏の食べ物だ。
ボクは、父の醜態を見てきたために酒を飲まない。
「鱧」は「骨切」が命の魚だ。
小骨が多い。
その小骨を細かく包丁を入れて切る作業だ。
魚屋の腕が試される魚だ。
古くから付き合いのある魚屋から買ってきたと母が言った。
流石という仕上がりだった。
鱧だけじゃない、アジ、イサキもある。
・・・・食べているとアジもイサキも身が繋がっていた。
これは、母が切ったものだろう。
何も言わずに笑って食べた。
弟は、どんぶり飯に刺身を乗せてかき込んでいた。
今日も、阪神を応援しながらメシを食う。
風呂からあがれば、深夜1時近かった。
弟は二段ベッドの下の段で寝ている。
祭壇の前の段ボールの山・・・・父の遺品。
・・・箱を開けていく・・・・ほとんどが洋服だ・・・・
いらない・・・・センスが・・・時代が合わない・・・さらには体形も合わない。
父の方が背が高かった・・・足が長かった。・・・・ボクは、母方に似たんだろう。
・・・・・腕時計が出てきた。
「RADO」・・・スイスの高級時計だ。
父が羽振りの良かった時に手に入れたものだ。
父は片時も離さず身に着けていた。
・・・・病院でも置いてあったな・・・・
「持って行くか・・・?」
いつの間にか、隣に座っていた母が言った。
「RADO」は秒針が動いていない・・・・時間が止まっていた。
「いや、いい・・・」
・・・・そのまま段ボールに戻した。
高級時計に興味がない・・・・いや、父の「遺品」というものに興味がなかった。
何かを持って行こう・・・・何かを形見として貰おう・・・そんな感情が動かない。
酒乱。 クズ。 クソ野郎。 負け犬・・・それが、ボクにとっての父だ。
次の小さな箱を開けた。
ミニカーやら、マンガ本が入っている。
「それは、カァくんの荷物や。・・・・整理したら出てきたからまとめといた」
確かにボクのものだ。
ミニカー、雑誌・・・押入れの奥に入ってたようなやつだ。
これは、このまま持って帰ればいい。
・・・・次の箱を開けて手が止まる。
プラモデル・・・・戦艦模型が詰まっていた。・・・・丁寧に塗装が施された模型が何隻もあった。
昔、部屋には、父の模型専用の飾り棚があった。・・・・ガラス戸には鍵が掛かって開かないようになっていた。
戦艦大和・・・・武蔵・・・長門・・・空母飛竜・・・蒼竜・・・・
子供だったボクは、それを飽きもせず眺めていた・・・・ボクがプラモデルを作るようになったのは、その影響だ。
父は、ボクが寝ている間に仕事に出かけ、寝ている間に仕事から帰ってきた。
一度家を出れば一週間くらい帰ってこない。
飾り棚には、作りかけのプラモデルも置いてあって・・・その進み具合で、父が帰ってきたのを知った。
ボクも、作りかけのプラモデルはそこに置くようになった。
・・・・ある時、ボクの作りかけのプラモデルが直されていた・・・・ボクが間違えて設計図とは左右逆に部品を取り付けていた・・・・それが直されていた。
いつしか、作りかけのプラモデルは父子の会話になっていた。
会えなくても、言葉を交わさなくても、プラモデルの飾り棚が、父子の会話の場所になっていた。
あらためて、父の大和を見る。長門を見る。
テーブルに模型を並べてみる。
1/350となれば、全長は1m弱ほどの大きさだ。
・・・・・しかし・・・・・溜息がでるほどに見事な出来栄えだった。
プラモデルはプラスチックだ。
しかし、父の戦艦はどうみても鋼鉄にしか見えなかった。
ボクには造れない。
・・・・父の戦艦は1/350という本物の戦艦でしかなかった。
電子音。
メールの着信音だった。
携帯を開いた。




