死の舞踏会と見える嘘①事件
アレックス・ブライト→アレク、端正な顔立ちに完璧なエスコートを見せる色男。
フィンバート・グレンドール→フィン、好青年、警察、アレクの知り合い。
セルジュ・ノクス→フィンの相棒、鑑定官、アレクの知り合い。柴犬みたいな男。
「さっきまで普通に踊ってたのに?」
『さっきまで普通に踊ってた』
浮かぶ言葉。嘘だ。
嘘をつくと、その『嘘の部分だけ』が文字として浮かんで見える、そんな厄介な能力を持つ令嬢ブリジットは舞踏会に参加していた。
優雅な音楽が流れ、会場ではワルツを踊っていた。色とりどりのドレスが揺れて、ゆったりとした上品な時間が流れ始めたその時、
「きゃあ、だれかー!!ヘルガ奥様が…!!」
誰かの悲鳴が上がった。
ブリジットは、突然の悲鳴に知り合いのフィンと顔を見合わせる。そして、ブリジットとフィンは声の主の方へ走った。
叫び声の方に進むたびに、どんどん人は増えていく。
だが、フィンが警察だ、通してくれと大きい声で叫びながら走った。人混みがフィンの進む方角にモーゼの十戒みたいに開いていく。
ブリジットもフィンに釣られた。フィンの後ろ姿を走って追いかける。
人混みの中に青ざめて座り込んでいる人がいた。その人の近くには女性が倒れていた。
倒れている女性はあのみごとなかつらをした豪華なドレスを身につけた女性であった。髪はそこまで乱れていない。
直前まで話していたのか、女性の近くに割れたグラスが落ちていた。
ブリジットの位置からは、顔の血の気が引き、青白くなった顔が見える。
フィンが近づいてその女性の脈を確認した。
「だめだ。亡くなっている」
フィンが首を振る。
そして、会場をぐるりと見回した。
「関係者、主催者と話して状況確認してきます」
と言い残しその場を離れる。
「関係者以外は下がってください!」
どこからかやってきた知り合いの鑑定官のセルジュがフィンにかわり現場保全に務め始めた。
「さっきまで普通に踊ってたのに?」
『さっきまで普通に踊ってた』
再びあの言葉が浮かぶ。嘘だ。
あまりの衝撃に倒れる女性や青ざめる男性、帰り支度をするもの三者三様だった。
その様子をぼんやり眺めながらブリジットは思った。
被害者は普通に踊っていただけではない。
今回また捜査に関わることになるのだろうか。
フィンと一緒に走る必要なかったのに…。
面倒なことになりそうだわ。
後悔を覚えながら、ブリジットは今日のできごとを反芻した。
あの時、誰かが嘘をついていたのかしら。
事件とどうつながる?
舞踏会にはたくさんの嘘が浮かんでいたのだから。
いいえ、でも今思い出す彼女に関する嘘は一つではなかった。
少なくとも三つの嘘があった。そのどれかが、彼女を殺した。
*
あの舞踏会の日の朝、起きるとメリィが支度をするのにブリジットのベッドの横に待ち構えていた。
ブリジットはメリィの圧を感じて目が覚め、メリィの薄らぼんやりの影をみてベッドでビクッとした。慌ててベッドから半身を起こす。
「おはよう。私、寝坊したのかしら!?」
メリィがカーテンを開けながら慌てるブリジットに挨拶をする。
「いえ。普段より早いくらいです。今日は滅多に参加されない舞踏会に参加されるので、私、メリィ気合いが入っているのです!」
メリィが目をキラキラ輝かせてブリジットをみる。
「ああ、あの兄が参加できないから代わりに参加する舞踏会のことね」
ブリジットは舞踏会の参加の経緯を振り返った。
家で招かれている舞踏会は大体母か兄が参加している。父とブリジットは参加を免れている。父は忙しい人だからだ。
ブリジットは家大好き引きこもり枠で参加を免れている、いや、変人枠かもしれない。
外ではできるだけ喋らないよう笑顔でいるよう母から言われている。
昔、参加したパーティーで人の嘘が見えることでやらかしたのである。
たまたま詐欺に遭いそうな人を助けたり誘拐未遂を防いだりとか色々してしまったのだ。
若気の至りだ。今ならもっと上手くこそっとやる。
そう言うことで、参加を免れていたが、今回はそうはいかなかった。
母は別の舞踏会に呼ばれていて参加できない。
本来、今回の舞踏会の兄が参加予定だったが、参加できなくなった。西部の活発になった魔獣を討伐しに行き、道路が凍結して立ち往生したためだ。
そのため、今回の舞踏会の参加にブリジットに白羽の矢が立った。
ブリジットは嘆息する。
母から言われた通り大人しくするか…
まあ、私はいつも大人しくしてるのに巻き込まれているだけなんだけどね。
ブリジットは気合いの入ったメリィを見た。
一番地味な服装を提案して…
今日の目標は目立たずに舞踏会を出席。
かんたんかんたん。
死亡フラグみたいなこと言ってる気がするけど、大丈夫でしょ。
普通の令嬢に私は擬態するわ。
見ててね、お母さま。女は女優。わたしの女子力を!!
ブリジットは気合いを入れて拳を握った。メリィがアクセサリーを用意する。
「ブリジット様、お兄様から特注のアクセサリーが届いています」
ブリジットはアクセサリーを見た。
22色の石を繋げたネックレスは光を織り上げたようだった。遊び心と気品を合わせもったパイナップルをモチーフとしたペンダントトップ。
「このペンダントトップはネックレスのペンダントとしても、イヤリングとしても身につけられるそうです。なのでペンダントトップは二つあります。どうされますか?」
「そうね…」
ブリジットはアクセサリーを手に取り息をのんだ。
すごく素敵…。二十二の石が繋がれたネックレスは、透き通るような青のアクアマリン、きらりと光る神秘的で力のあるダイヤモンド、静かに燃える深い赤のガーネット......。
でも派手じゃないかしら。このネックレスつけたら目立ちそう。
メリィは嬉しそうにアクセサリーの説明をする。
「お兄様が討伐した魔石と宝石を使って特別に仕立ててもらったそうです」
え、それってチャンピオンベルトみたいじゃない?首にかけたらなおさらそれっぽくない?
あの兄らしい特注のアクセサリーだ。豪胆で力強い成果物できたアクセサリー、なのにきっと気にしいで細かいところにも気がつく繊細さも持ち合わせている。
ブリジットはメリィに伝えた。
「このペンダントトップを使ってブレスレットにします」
「ネックレスはされないんですか?それではあまり目立たないので、せめてイヤリングにしませんか?」
メリィがとても残念そうな顔した。
「そ、そうね」
しまった、喜んでいないように見えたかもしれない…
「このパイナップルのペンダントトップは片方を左のブレスレットに。右耳にイヤリングとしてつけましょう。ブレスレットであれば、不安な時見ることができるから」
ブリジットは微笑んだ。メリィは両手を頬に当てて感激したように声を上げた。
「ブリジット様!素晴らしいです」
メリィの発言に、ブリジットは笑みを深くした。
ーーこの時はまだ、あんな事件に巻き込まれるとは考えもしなかった。




