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【解説】なぜ世界は『演出』されるのか?――幸運の代償と、掲示板の正体

 ギルド総本部から解放された日の夜。俺はみなとに呼び出され、人気のない深夜の公園にいた。


 湊はいつになく真剣な表情で、愛用のタブレットを叩いている。


「蓮。お前、自分がなぜ『音楽』に包まれ、ネットで『実況』されているのか、その理屈を考えたことはあるか?」


「……いや、正直それどころじゃなかったけど。あの音楽、どこから流れてるんだ? スピーカーがない場所でも聞こえるだろ」


 湊はタブレットの画面を俺に向けた。そこには、俺のステータス画面の裏側に隠された、膨大な「ソースコード」のような文字列が並んでいた。


「令和になってから発生したダンジョン現象……あれの本質は、この星の**『観測者による現実改変』**だ」


1. なぜ「音楽」が鳴るのか?

「この世界のダンジョンはな、『そこにいる人間の感情やテンション』をエネルギー(マナ)に変換して稼働している。 そして、マナの密度が一定を超えると、その場の空気を振動させて、人々の集合無意識にある『最も旬な旋律』を具現化するんだ」


 つまり、あの音楽は**『世界の期待感の現れ』**。

 俺がピンチになれば逆転の曲が、カッコつければ皮肉な曲が鳴る。世界という舞台が、俺という役者のために勝手にBGMを当て書きしているのだ。


2. なぜ「スレッド」が立って応援されるのか?

「『Dチャン』の掲示板……あれ、ただのネット掲示板じゃないぞ」


 湊が指差したコードには、驚くべき事実が記されていた。


「あれはダンジョンが生成する**『リアルタイム予言板』だ。書き込んでいるのは確かに人間だが、その書き込み自体が『因果』を固定している。『こいつは次、こうなるはずだ』という数万人の期待が、お前の【万象幸運】と共鳴して、現実を無理やりねじ曲げているんだ**」


 応援されるのは、俺が面白いからだけではない。

 俺が勝てば、掲示板を見ている連中のマナも活性化し、世界がより「豊か」になる。だから、彼らは本能的に俺というコンテンツを熱狂的に消費し、応援(観測)し続けているのだ。


3. 主人公・蓮が「最強」である理由

「お前のギフト【万象幸運】は、実は『運がいい』なんて生易しいものじゃない」


 湊が画面をスクロールする。そこには、俺のスキルの真の名前が隠されていた。


【ギフト:叙事詩的介入エピック・レイド

本質: 観測者の期待を裏切ることで、最大級の「カタルシス」を発生させ、因果を書き換える能力。


「お前がカッコつけると失敗するのは、**『カッコつけた奴が失敗した方が、物語として面白いから』だ。


そして、絶望的な状況で転んで勝つのは、『その方が圧倒的に盛り上がるから』**だ。お前は、この世界の『演出家』に最も愛されている役者なんだよ、蓮」

 その時、静かな公園に**今、夜の静寂を切り裂くようなピアノの旋律から始まる「真実を告発する最新ヒット曲」**が、ぼんやりと流れ始めた。


「……じゃあ、俺の人生は、誰かの掌の上だってことか?」


 俺が少し落ち込んで呟くと、不意に暗闇から声がした。


「半分正解で、半分間違いだよ」


 現れたのは、なぎだった。月光を浴びて、男とも女ともつかない神秘的な笑みを浮かべている。


「世界は君を『舞台』に上げたい。でも、その舞台でどう足掻くかは、君の自由だ。……現に、君が今日『お断りします』って言った時のカタルシス、凄かったよ? 世界中の観測者が、君のその『謙虚さ』に熱狂してる」


 スマホを確認すると、案の定スレッドが更新されていた。


150:名無しの探索者

『国家特別親善大使』を蹴る蓮、マジでシびれるわ。

あいつ、自分がどれだけ特別か分かってないフリして、世界を弄んでるだろwww


155:名無しの探索者

これこそ令和の主人公だよな。

謙遜すればするほど、俺たちの『推し』としての熱量が上がるぜ!




「……はは、結局そうなるのか」

 俺は力なく笑った。

 

 音楽が鳴り、スレッドが立ち、世界が俺に「期待」する。


 それは呪いかもしれないが、同時にこの狂った令和を生き抜くための、最強の武器でもあった。


「いいじゃない、蓮。世界がアンタを応援してるなら、アンタはただ、盛大にズッコケてればいいのよ」


 いつの間にか現れたつむぎが、乱暴に俺の背中を叩く。


 その瞬間、音楽は**最高に明るく、前向きで、どんな困難もギャグに変えてしまうような「国民的アニメの最新主題歌」**へと切り替わった。


「……よし、わかった。なら、盛大に転んでやろうじゃないか。……ただし、絶対に俺の好きなようにだ!」


 俺の宣言に呼応するように、夜空に巨大な「ダンジョンの亀裂」が走り、新たな物語の開幕を告げるファンファーレが鳴り響いた。

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