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ギルド総本部からの招待状――国家認定(バグ)の英雄と、最強の接待ダンジョン

 温泉騒動から数日。俺の家のポストに、一枚の「真っ黒な封筒」が届いた。


 差出人は『日本探索者連盟・総本部』。


 それは、国内にいる数百万人の探索者の頂点、通称「ギルド」の最高意思決定機関からの呼び出し状だった。


「……終わった。俺、何か悪いことしたっけ」


「バカね。あんなに派手に暴れれば、国が放っておくわけないでしょ」


 リビングでくつろぐ紬が、勝手に入れたお茶を飲みながら鼻で笑う。


 隣では、凪が俺の肩に頭を預けながら、タブレットでニュースをチェックしていた。


「蓮くん、これ見て。国会で『特定外来幸運個体への法的対応』が議題になってるよ。蓮くんのことだね」


「そんなUMAみたいな扱いされてるの!?」


 不安に押し潰されそうになりながら、俺は仲間に連れられて、霞が関にあるギルド総本部――「黒い巨塔」へと足を踏み入れた。


 通されたのは、防音完備の豪華な応接室。


 そこに座っていたのは、日本の探索者界を束ねる最高責任者、室町長官だった。


「よく来たな、佐藤蓮君。君の活躍は……もはや、一探索者の枠を超え、我が国の『国防』に関わるレベルに達している」


「い、いえ、僕はただ転んでいるだけで……」


「ふふ、謙遜はいい。君の【万象幸運】。あれを国は『戦略的確率変動資産』として正式に認定することに決めた。つきましては、君を『国家特別親善大使』に任命したい」


 長官が提示したのは、年俸数億円、専用の送迎車、そして「あらゆるダンジョンへの優先入場権」という、破格の条件だった。


「お、お断りします! 俺、そんな大役、怖くて無理です!」


 俺は必死に首を振った。


 こんなの受けたら、一生自由がなくなる。俺はただ、静かに暮らしたいだけなんだ。


 しかし、俺のこの「拒絶」が、またしても致命的な勘違いを生む。


「……ほう。この条件でも不服か。なるほど、『金や名声では、俺の幸運ちからは売らない』。そういうことだな。若いのになんと気高い……!」


 長官が感銘を受けたように目を輝かせる。


「ならば、実力を見せてもらおう。この総本部の地下にある『試練の迷宮』。ここを無傷で突破できれば、君の自由を認めよう」


(よし、チャンスだ! ここでわざと負ければ、国も俺を諦めてくれるはず!)


 案内された地下迷宮。


 そこは、国がVIPを接待、あるいは選別するために作った、最新鋭のギミックダンジョンだった。

 

 スピーカーから流れてくるのは、最新のチャートを駆け上がる、疾走感溢れる「王道のヒーローソング」。

 

「行くぞ、お前ら! 俺の負けっぷり、しっかり見ててくれよな!」


 俺はやる気満々(負けるため)で、迷宮の最初の部屋に飛び込んだ。


 目の前には、踏むと毒矢が飛んでくる「明らかなトラップ床」。


「よしっ、これを踏んでリタイアだ!」


 俺は勢いよく、その床を思いっきり踏み抜いた。

 

 シュバババババッ!!


 放たれる無数の毒矢。


 しかし、俺が「わざと」踏み込んだ力が強すぎて、床のタイルが予想外の角度で跳ね上がった。

 そのタイルが盾となり、毒矢を全て跳ね返したのだ。


「えっ……!?」


 跳ね返った矢は、隠れていた警備用のゴーレムの「関節部」に次々と命中。


 さらに、俺が驚いて後ろに下がった際、壁に飾ってあった「伝説の聖剣レプリカ」が棚から落ちてきた。


「危なっ!」


 それを避けようとして、俺はまたしてもズッコケる。


 転んだ俺の足が聖剣を蹴り飛ばし、聖剣は迷宮の最深部にある「制御装置」のわずかな隙間にスッポリと挟まった。


 ピコーン、ピコーン!!


『マスター・バイパス確認。迷宮全エリア、完全沈黙』


「…………は?」


 所要時間、わずか30秒。

 

 モニター越しに見ていた室町長官は、もはや椅子から転げ落ちんばかりに驚愕していた。


「な、なんという事だ……! 我が国が数千億かけて作った迷宮を、最短歩数で、しかも一度の転倒で無力化するとは……。佐藤君、君は……君は我々の想像を絶する『平和の神』なのか!?」


「違うんです、ただ死ぬほど不器用なだけなんです!」


 その頃、ネット掲示板の実況は、ついにサーバーがダウンする寸前まで加熱していた。


【速報】転倒聖者、ギルド総本部の迷宮を『秒』で更地にするwww


102:名無しの探索者

おい見ろよ! 長官が泣きながら蓮に土下座して『特例中の特例』の自由許可証を渡してるぞwww


105:名無しの探索者

迷宮を『転倒一回』で物理的に破壊シャットダウンしたんだろ?

もうこれ、人類が勝てる相手じゃねーわ。


110:名無しの探索者

しかも流れてる曲が、『全てを超越した孤独な王の帰還』を歌う重厚なバラードに変わった。


演出が神すぎて、もう実写映画化決定だろこれ。




「……どうしてこうなるんだ……」


 自由の身(という名の、国から『監視不可の超危険人物』として特別視される身分)を手に入れた俺は、夕暮れの霞が関で膝をついた。


「さすが蓮様。国の迷宮すらも、その一歩で平伏させるとは」と崇める結衣。


「もう、アンタが歩くたびに日本のGDPが変動するわね」と呆れる紬。


「ねえ、蓮くん。今夜は『お祝い』に、僕の特別メニュー、食べてくれる?」と耳元で囁く凪。


 令和の英雄伝説は、俺の涙を置き去りにして、ついに「世界」へとその名を轟かせようとしていた。

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