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性別不詳の誘惑(カウンター)――湯煙に消える境界線と、極限状態の幸運(バグ)

「……蓮くん。昨日は紬さんと、ずいぶん仲良くしていたみたいじゃない」


 翌日、なぎが俺の部屋にやってきた。


 いつも以上に気合の入った、肩のラインが大胆に開いたニットを着ている。どっちの性別としても破壊力が高いその格好で、凪は俺のベッドに腰を下ろし、小悪魔的な笑みを浮かべた。


「お詫びに、今日は僕と二人で『隠しダンジョン』の調査に行こう? 報酬に、最高の温泉チケットを手に入れたんだ」


「温泉……? でも、調査なんだよね?」


「もちろん。魔物も出るし、蓮くんの力が必要なんだ」


 そう言われて断れるはずもなく、俺は凪に連れられて都内某所の地下にある特殊エリアへと向かった。

 そこは、令和の変異によって生まれた『極楽の湯脈』。攻略した者だけが、最高の露天風呂に浸かれるという特殊な階層だった。


 道中、凪の様子はどこか扇情的だった。


 狭い通路を通るたびに、わざとらしく俺の腕に柔らかい体が触れる。


「あ、ごめんね。狭くて……。蓮くん、顔が赤いよ?」


「いや、これはダンジョンの地熱のせいで……っ!」

 俺が必死に理性を保とうとすると、スピーカーから**今、若者の間で爆発的にヒットしている『夜の帳を揺らすような、艶っぽいダンスナンバー』**が流れ始めた。


 重低音が心臓の鼓動とリンクする。


 そんな中、現れたのは中ボス『熱狂のサキュバス・クイーン』。


 相手は魅了魔法の使い手だ。


「蓮くん、ここは僕が――」


「いや、凪さんは下がってて! ここは俺が、男としてビシッと防いでみせる!」


 昨日、紬を不安にさせた反省もあり、俺は今日こそ「カッコいいところ」を見せようと決めていた。


 俺は魔力耐性(と言っても数値は10だが)を信じて、ボスの前に立ちはだかった。


 ――しかし。


 やる気を出した瞬間に発動するのが、俺の【万象幸運】という名の呪いだ。


 サキュバスが放った最強の魅了弾『ピンク・グラビティ』。

 俺はそれを華麗に回避しようとして、湿った岩場で見事に足を滑らせた。


「おわぁぁっ!?」


 空中で一回転した俺の足が、偶然にも壁に設置されていた「非常用スプリンクラー」のレバーを直撃。


 さらに、転んだ拍子に放り出した俺のタオルが、サキュバスの顔面に完璧に張り付いた。


「んがっ!? 前が見えないわ!?」


 スプリンクラーから降り注いだのは、ただの水ではなかった。

 それは、このエリアに封印されていた『聖なる不純物除去液』。


 魅了魔法を無効化し、魔物の魔力を霧散させる特効薬だ。


『ぎゃああああ! 属性が、属性が書き換えられるぅぅぅ!』


 ボスは自爆するように消滅し、俺の目の前には「完全攻略」の文字と共に、極上の露天風呂への扉が開かれた。


「……ねえ、蓮くん。結局、二人で攻略しちゃったね」


 湯煙が立ち込める露天風呂。

 そこは、性別による仕切りのない「混浴」エリアだった。

 

 俺は心臓が口から出そうなほど緊張しながら、端の方で身を縮めていた。


 すると、お湯の中からゆらりと凪が近づいてきた。


「蓮くん。……君は、僕が男に見える? それとも、女に見える?」


 お湯に濡れて透き通るような肌。滴る水滴が、首筋から胸元へと流れていく。


 凪が俺の肩に手を置き、顔を近づける。


「どっちでもいいよ。僕は、蓮くんの特別な存在になれるなら――」


 その瞬間。

 ガバァッ!! と背後の扉が豪快に開いた。


「ちょっとぉ! アンタたちだけで抜け駆けなんて許さないわよ!」


「蓮様……混浴という神聖な儀式を、私抜きで始めるなど……!」


 そこには、般若のような顔の紬と、鼻血を出しながらカメラを構えた結衣、そして「やれやれ」と苦笑いする湊がいた。


「え、なんでここに!?」


はやてが『蓮師匠が温泉で修行してるぞ!』って騒いでたから、ギルド中に筒抜けよ!」


 さらに、ネット掲示板の実況スレも爆発していた。


【悲報】転倒聖者、混浴ダンジョンを『転倒一回』で全裸(?)攻略www


950:名無しの探索者


おい見ろよこのライブ映像! サキュバスをタオル一枚で黙らせたぞwww


955:名無しの探索者


凪と紬の修羅場に結衣様乱入とか、令和の地獄絵図すぎて草。

あいつ、幸運っていうか、もはや『ハーレムを引き寄せる磁石』だろ。


960:名無しの探索者


しかも流れてる曲が、**『全てを愛で包み込む女神のラブソング』**に変わったぞ。


もう世界が佐藤蓮を祝福してるとしか思えねえ。




「……もう、帰りたい……」


 湯煙の中、ヒロインたちの喧嘩と、凪の思わせぶりな視線、そして新たな伝説の誕生。


 俺は、お湯に潜って現実逃避を試みたが、それさえも「水温を最適化する伝説のダイブ」として称賛されることを、まだ知る由もなかった。

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