ネット炎上(?)と、彼女たちの秘められた観測記録
佐藤蓮が寝ている間にも、ネットの海では彼に関する議論が加速していた。
きっかけは、昨日凪が冗談半分でSNSにアップした「ボス戦の断片動画」だった。
【Dチャン】特定急げ。第一ダンジョンの『転倒聖者』って何者?
450:名無しの探索者
例の動画見たわwww
あいつ、転んだ拍子に高級回復薬ぶちまけて、それが偶然瀕死だった仲間に命中してんのな。狙ってなきゃ不可能だろ。
455:名無しの探索者
あだ名が『転倒聖者』で定着してて草。
でも、その後に凪(性別不詳の天使)が蓮の服の裾を掴んでるシーン見て、俺は別の意味で発狂した。
460:名無しの探索者
≫455
あれな。凪だけじゃないぞ。
エリートの結衣様が、あいつの靴紐を結び直してあげようとして「いいえ、これは彼なりの儀式なのね!」って一人で納得して拝んでる目撃情報もある。
470:名無しの探索者
最新情報。S級の『爆炎ツンデレ』こと紬もパーティーに入ったらしい。
あいつの周り、令和の「名前ランキング」上位キャラばっかり集まってて、もはや主人公補正が物理法則を超えてる。
480:名無しの探索者
今のヒットチャート上位、『全人類を救う聖母の歌』みたいな曲あるじゃん。
あの曲がかかってる時にあいつが動くと、マジで世界が平和になるらしいぞ。
そんなネットの喧騒を、蓮の仲間たちはそれぞれの場所で眺めていた。
【凪の視点:ホテルの自室にて】
凪は鏡の前で、今日の衣装を選んでいた。
「蓮くんは、僕のことを男だと思ってるのかな。それとも女の子だと思ってるのかな」
指先で唇をなぞり、ふふ、と微笑む。
凪には見えるのだ。蓮の周りで、運命の糸がめちゃくちゃに絡まり合い、見たこともないような「黄金の道」を作り出しているのが。
「あんなに凄い力を持ちながら、『自分は運がいいだけだ』なんて顔をして……。その無防備さが、たまらなく独占欲を煽るんだよね。ねえ、蓮くん。君がいつか本当の絶望に直面した時、その幸運で僕を一生離さないようにしてよ」
【紬の視点:自宅のトレーニングルームにて】
「なによ『転倒聖者』って! ネーミングセンス無さすぎでしょ!」
紬は真っ赤な顔でスマホを投げ出した。
彼女は蓮の「運」の正体に、ある種の危うさを感じていた。
「あいつ、自分がどれだけ無茶苦茶なことしてるか分かってないのよ。昨日だって……私が魔法の暴発で死にかけた時、あいつが『あ、あそこに綺麗な石が落ちてる』って私を突き飛ばさなきゃ、今頃お葬式だったんだから」
突き飛ばされた拍子に抱きつく形になった感触が、まだ腕に残っている。
「運がいいだけ……そうよ、運がいいだけなんだから。私が隣で、ちゃんとあいつを捕まえておかなきゃいけないの。……ホント、世話が焼けるんだから」
【結衣の視点:ギルド本部にて】
「……完璧です」
結衣は蓮の隠し撮り写真をデスクに並べ、うっとりとため息をついていた。
「わざと自分の実力を隠し、世間には『運がいいだけ』と思わせる。その謙虚さ、その知略。これこそが令和の英雄のあるべき姿。私は確信しています。蓮様が躓くたびに、世界は一段階、上のステージへ進化しているのだと」
彼女の目には、もはや蓮が神か何かに見えていた。
「……なんか、背筋が寒いんだけど」
翌朝、蓮は集合場所のダンジョン入り口で、自分の腕をさすった。
目の前には、相変わらず性別不明な色気を放つ凪。
腕を組んで「遅いのよ!」と怒鳴りつつ、蓮の体調をチェックする紬。
そして、遠くから祈るようなポーズで自分を見つめる結衣。
「蓮、今日のBGMはこれだ」
湊が端末を操作すると、ダンジョンのスピーカーが共鳴し始めた。
最近、街の至る所で耳にする、若者の苦悩と希望を叫ぶような最新のロックナンバーが、重低音と共に響き渡る。
「よし、行こうぜ。今日の攻略ターゲットは『未踏破の第十層』だ」
「えっ、いきなり深くない!? 無理無理、俺の実力じゃ死ぬって!」
「大丈夫だよ蓮くん。君が『無理』って言えば言うほど、僕たちの勝利は確定するんだから」
凪に手を引かれ、蓮はまたしても自分の意思とは無関係に、伝説への階段を転げ落ち(駆け上がり)始めた。




