美少年は微笑み、幸運(バグ)は加速する
ダンジョンの第一層、安全圏のはずの広場で、俺は呆然としていた。
目の前には、黄金に輝く宝箱と、眉間に短剣が刺さって絶命しているレアボス。
そして、頬を赤らめて俺を見つめるエリート美少女、結衣。
「……あ、あの、本当にただの事故なんです。信じてください」
「ふふ、謙遜まで完璧なのね。ますます興味が湧いたわ、佐藤蓮さん」
だめだ、全く話が通じていない。
隣で幼馴染の湊が、「お前のLUK値、やっぱりバグってるな」と小声で呆れている。
その時だった。
「……君、面白いね」
不意に、背後から鈴の鳴るような声がした。
振り返ると、そこに立っていたのは、目を疑うほどの美少年――あるいは美少女だった。
さらりとした黒髪に、どこか憂いを帯びた大きな瞳。華奢な体つきだが、腰には一振りの鋭い小太刀を提げている。
名前ランキング上位常連の、中性的な名前がよく似合うその人物――五十嵐 凪は、ふわりと俺のパーソナルスペースに踏み込んできた。
「君の今の動き、マナの流れが完全に『正解』を叩き出していたよ。僕の目は誤魔化せない」
「いや、だから、躓いただけだって――」
「ふふ、そういうことにしておいてあげる」
凪は俺の耳元に顔を近づけ、吐息がかかる距離で囁いた。
甘い花のよう香りが鼻をくすぐる。……男だよな? 男なんだよな、この人。
読者……じゃなくて、周囲の探索者たちも「どっちだ!?」という視線を送っているのがわかる。
「君のその『愛嬌』、僕にも分けてくれないかな? 一緒に潜ったら、もっと面白いものが見られそうだし」
そう言って、凪は俺の服の裾をキュッと掴んだ。その仕草が、あまりにも様になりすぎていて、俺の心臓が無駄に跳ねる。
その直後。
ダンジョンのスピーカーから、またマナ共鳴のノイズが走った。
流れてきたのは、**SNSで爆発的に流行している、あの『中毒性のあるダンスナンバー』**だ。
複雑なリズムと、高音のボーカルが重なり合う都会的なメロディ。
「よしっ、新しい仲間(?)も増えたことだし、ここは一つ、俺がリーダーらしくバシッと道を切り開いてやるよ!」
美少年の前でいいところを見せようと、俺は鼻息荒く先頭に立った。
やる気は十分。ターゲットは前方に見える、弱そうなゴブリン三匹。
(今度こそ、転ばずに、普通に、かっこよく倒すんだ……!)
俺は流行歌のサビに合わせて、勢いよく地面を蹴った。
完璧な踏み込み。完璧なスイング。
――のはずだった。
曲のキメの部分で、俺の靴紐が「ぷつん」と切れた。
「うわぁぁあ!?」
勢い余って前方にダイブする俺。
その拍子に、背負っていたリュックのチャックが全開になり、中に入っていた予備の「目潰し粉」の袋が飛び散った。
「げほっ、ごほっ! 何やってんだお前は!」
湊の罵倒が飛ぶ。
しかし、その目潰し粉は、俺を無視して背後から忍び寄っていた**『透明化持ちの凶悪な暗殺者』**にクリティカルに命中した。
『ギギィッ!?』
姿を露呈し、悶絶する強敵。
凪がその隙を見逃さず、電光石火の速さで小太刀を振るい、敵を解体した。
「……驚いたな。あのアサシンの伏兵に気づいて、僕たちを巻き込まないように一人で突っ込んで、あえて目潰しをバラ撒いたのか」
凪が感心したように、キラキラした目で俺を見る。
「やっぱり君、最高だよ。蓮くん。……僕、君のことが、もっと知りたくなっちゃった」
凪は俺の手を握り、そっと指を絡めてきた。
……やっぱり、どっちなんだ!? 性別も、その好意の意味も!
俺のやる気は空回りし、疑惑とラッキーだけが加速していく。
これが、俺たちのパーティーが結成された瞬間だった。




