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運命を奏でるレコード――【万象幸運】の真意と、僕が選ぶ旋律

 湊から「世界の仕組み」を聞かされて以来、俺の頭には一つの疑問がこびりついていた。


(確かに、最近の俺の運は異常だ。でも……本当に最初からそうだったか?)


 思い返せば、令和になってダンジョンが出現した直後、俺の適性検査の結果は確かに「LUK:測定不能」だった。でも、その頃はまだ、石に躓けばただ痛いだけだったし、音楽だって聞こえてこなかった。


 この「神懸かりな幸運」と「BGM」が加速したのは、仲間が集まり、俺が『注目』され始めてからだ。


「……世界が俺を『演出』してるなら、俺はその脚本に従うだけの操り人形なのか?」


 そんなモヤモヤを抱えたまま、俺たちは未踏破エリアの深層にある古びた宝物庫へと足を踏み入れた。


 そこは、現代のビル群のようなダンジョンとは違い、何千年も時が止まったような静寂に包まれた石造りの小部屋だった。


「蓮くん、見て。あそこに何かあるよ」


 なぎが指差した先。埃を被った祭壇の上に、場違いなものが鎮座していた。


 それは、黒く光る一枚の**『レコード盤』**だった。


「なんだこれ、骨董品か……?」


 俺が吸い寄せられるようにそのレコードに触れた瞬間――頭の中に、今まで流れていたどんなヒット曲よりも鮮明な「無音の衝撃」が走った。


【固有アイテム:始源の円盤オリジン・レコードを獲得しました】


【スキル:万象幸運オール・ラッキーが、真の姿へ覚醒します】


 ――え?


【真名:運命律の指揮デスティニー・コンダクター


【詳細:周囲の観測エネルギーを特定の「旋律」に固定し、因果を意図的に偏向させる】


「……これ、運だけじゃなかったのか?」


 俺がレコードを手に取ると、驚くべきことが起きた。

 今までダンジョンが勝手に流していた「流行歌」がピタリと止まり、俺の心の奥底にある「願い」に呼応するように、全く別のメロディが鳴り響いたのだ。


 それは、静かだが力強く、一歩ずつ大地を踏みしめて前進するような、勇壮なオーケストラ。


 今流行っているどの曲でもない。俺が「今、この瞬間、こうありたい」と願った心そのもののリズムだ。


「蓮、お前……何をした? 周りのマナの質が、一瞬で書き換わったぞ」


 湊が驚愕してタブレットを見つめる。


「湊、分かったよ。俺のスキルは、世界に遊ばれるためのものじゃない」


 俺はレコードを強く握りしめた。


 今までは、世界が俺に「面白い失敗」を期待し、俺がそれに無意識に応えていた。だから「カッコつけると失敗する」という演出バフが固定されていたんだ。


 でも、このレコードがあれば――。


「俺が『勝ちたい』と思えば、世界は俺を勝たせる曲を奏でる。俺が『仲間を守りたい』と思えば、世界はそれを守る旋律を流すんだ。……ギルドも、掲示板の連中も気づいてなかった。俺の未来は、俺が選べる!」


 その瞬間、部屋の隅から現れた巨大なガーディアンが、俺たちを潰そうと巨大な拳を振り下ろした。


 いつもならここで俺が転び、その拍子に何かが起きて解決していただろう。


 でも、今は違う。


「――このリズムで行くぞ!」


 俺が強く念じると、オーケストラが最高潮クライマックスの旋律へと跳ね上がった。


 俺は転ばなかった。


 自らの意思で一歩踏み出し、飛来する破片を最小限の動きで避け、落ちていた短剣を拾い上げる。


「えっ、蓮様が……転ばずに、自分の足で戦ってる……!?」


 結衣ゆいが目を見開く。


 俺の拾った短剣は、レコードから放たれる輝きをまとい、黄金の軌跡を描いてガーディアンの核を貫いた。


 偶然じゃない。俺が狙い、俺が引き寄せた「勝利」だ。


「……あは、最高だよ。蓮くん。操り人形を卒業して、自分から踊り始めるなんてね」


 凪が嬉しそうに目を細める。


「ふん、やっとマシな顔になったわね。……アンタがその気なら、私も本気でついていってあげるわよ」


 つむぎが、初めて「守る対象」ではなく「背中を預ける相棒」として俺の手を握った。


 俺は、手の平にあるレコードを見つめた。


 掲示板のスレッドは、今までにないほどの勢いで流れている。


300:名無しの探索者

おい見ろ! 蓮が転んでねえ! 自分の意思でボスを抜き去ったぞ!


305:名無しの探索者

なんだあの曲……聞いたことないけど、魂が震える。

あいつ、ついに『脚本シナリオ』を書き換えやがった……!




「……さあ、行こう」


 俺は、自分だけの音楽を響かせながら、ダンジョンの奥へと歩き出した。


 幸運に頼るだけの「転倒聖者」はもういない。

 俺は、俺自身の人生という曲を奏でる、最高の指揮者コンダクターになるんだ。


 その背中を見送る湊が、静かに呟いた。


「……面白い。これが、令和の『神話』の真の始まりか」

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