測定不能の『LUK』と、無敵のアイドルの調べ
令和の改元から数年。日本は「あの日」を境に一変した。
空に亀裂が走り、物理法則を無視した「ダンジョン」が各地に出現したあの日。
同時に人々に発現した、超常の力――「ギフト」。
そんな激動の時代において、俺、佐藤蓮は、都内の適性検査場にいた。
「……は?」
検査官の女性が、端末を二度見、三度見して固まっている。
周囲の若者たちが、攻撃力や魔力の数値に一喜一憂する中、俺の診断結果だけがバグったような表示を吐き出していた。
【名前:佐藤 蓮】
【ギフト:万象幸運】
【攻撃力:10 / 防御力:10 / 魔力:10】
【幸運(LUK):測定不能(Error:Limit Break)】
「あの……これ、故障ですか?」
「いえ……数値そのものは最低値ですが、幸運値だけが計算式の限界を超えています。前例がありません」
周りの連中が「なんだ、攻撃力10のザコかよ」「運だけか、ハズレだな」とクスクス笑う。
俺自身、内心ほっとしていた。これなら目立たず、公務員探索者の末端として細々と生きていける。
しかし。
この時、俺はまだ知らなかった。
この【万象幸運】というギフトが、「本人の意思」を無視して世界を改変してしまうほどの、呪いに近い最強の力だということを。
初めて入ったE級ダンジョン。
俺は幼馴染の鈴木湊と一緒に、入り口付近でスライムを狩るはずだった。
「よし、湊! ここは俺がビシッと決めてやるよ。カッコいいところ、見ててくれ!」
俺は少し調子に乗って、新品の初心者用短剣を構えた。
ヒロイン候補の女の子たちも近くで見ている。ここは男として、スマートに一撃で仕留めたい。
――その瞬間。
ダンジョンの壁に設置された拡声器から、マナの乱れと共に「あの曲」が流れ出した。
今、街中の至る所で耳にする、無敵で究極なアイドルの輝きを歌った、あの超ヒット曲だ。
(あ、この曲好きなんだよな……よし、リズムに乗って――)
一歩踏み出した瞬間、俺は何もない平地で盛大に躓いた。
「わわっ!?」
無様に転倒し、手から離れた短剣が放物線を描いて空を舞う。
湊が「おい、何やってんだ……」と呆れた声を出す。
だが、事態はそこから急変した。
俺が投げ出した短剣は、たまたま天井から奇襲を仕掛けようとしていた隠れボス『シャドウ・レオパード』の眉間に、吸い込まれるように突き刺さったのだ。
『ギシャアアアアッ!?』
断末魔の叫び。
さらに、俺が転んだ拍子に手をついた場所は、偶然にもダンジョンに隠された「伝説の宝箱」のスイッチだった。
『カチリ』
「え……?」
目の前で、ボスが消滅し、黄金の宝箱がせり上がってくる。
背後では、エリート探索者の結衣が、口をあんぐりと開けて俺を見つめていた。
「……今の、わざと転んで、敵の不意を突いた上に、隠しギミックを解除したの……? なんて、なんて恐ろしい計算高い男なの……っ!」
「いや、ただ転んだだけなんですけど……」
俺の必死の弁明は、アイドルの歌うハイテンポなサビのメロディにかき消されていった。
これが、俺の「最低で最強」な探索者生活の始まりだった。




