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無キャ人生~何もない高校生の日常~  作者: 文房四宝


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3話 席替え

「みんな席に戻ってー。朝礼始めるよー」


 そう言葉を発しながら若い女性教師が姿を現す。教師を見た生徒の反応はまちまち。


「せんせー。いつもよりきれいじゃね?好きな人できた?」


 といじりに行く生徒、勉強の時間が近づいていると嫌そうに席に戻る生徒、先生の存在を無視し会話を続ける生徒。

 俺はどれでもない。すでに席に座っている生徒だ。はたから見たら優等生だろうが、その中身は何もしていないボッチだ。

 このギャップがすごくつらい。俺に優等生を求めるのをやめてほしい。そんな卑屈な考えが止まらない。朝の経験がそうさせているのだろう。だめだ、思考をリセットさせる必要がある。

 なかなか始まらない朝礼、朝から騒がしい生徒の声。

 この時間と騒音で朝のことを薄めよう。

 そんなことを考えていると、先生が普段より大きめの声で注意をした。


「そんなことはいいから、早く席に戻って」

「えぇー、いつもより朝礼始めるの早くない?」


 声は出ていたが圧のない注意。その程度では今どきの高校生は動じない。


「今日は席替えするから。今の席にお別れ伝えてきなさい」


 動じない生徒たちに対して先生は席替えという単語を発す。


「マジ!席替え!すぐ始めよう!」


 席替え、その単語を聞いた生徒たちがさっそうと席に戻っていく。今どきの高校生は単純だな。

 ようやく朝礼が始まりそうだ。


「はい。みんな席に着いたね。それでは朝礼を始めます。日直」

「はい。起立、気をつけ、礼」

「「おねがいします」」

「朝礼って言っても今日やることは席替えだけ」


 席替え、この単語が出るたびに教室がざわざわする。

 うちのクラスは月に一回席替えを行う。中間テストも終わったことでちょうどいいタイミングなのだろう。

 俺の今の席は窓際の列の一番後ろ。誰もが憧れる席だ。

 そんな席ともお別れか、少し悲しいなぁ。

 だがこうも考えられる。今日の朝のような惨めな自分とお別れするタイミング、それに席替えはもってこいだと。

 この別れは悲しくないな。よし、変わろう。変わり始めよう。神を信じているわけではないが、神が言っている気がする。

『変わる時』と。


「じゃあ、席発表するからそれ確認したら静かに席に戻って。他の教室は朝礼中だから。まずは窓際の列の人から確認していって」


 確認は一列ごと。変わる決意をし意気込んでいたせいか、席を立つのが早すぎた。前の人が移動するのを待つ時間が発生する。

 この時間ちょっと恥ずかしい。だが恥ずかしく感じる自分とも今日でお別れだ!縁起のよさそうな席で頼むぞ。

 縁起のいい席、そんな訳の分からないことを考えながら黒板に貼られた紙を確認する。


「佐藤、佐藤、佐藤…」

「やったー!俺角じゃん、うぇーい!」

「いいなぁ、私一番前」

「中田君静かにして。他のクラス朝礼中って言ったでしょ」


 自分の場所を確認し速やかに席へ。

 これはどうなんだ?

 俺の名前があった位置は真ん中。一番真ん中だ。廊下から見て四列目の三番目。誰もが嫌がるけど、一番前より嫌がりにくい面白みのない席。

 だが俺にとっては好都合かもしれない。どこの方向を向いても人がいる。俺が変わるために一番大切なのは友達を作ること。友達候補が周りにたくさんいると考えると悪くない席なのかもしれない。

 いいや、かもしれないじゃないな。いい席だ。俺の行動でいい席にするのだ。

 他の生徒たちが自分の新しい席を確認し、一喜一憂している中、俺は決意を固め、生まれ変わる準備をする。


「みじめな俺…さようなら」


 小声で呟かれた声は周りの喧騒にかき消されていく。


 ******

―――唯


 自分の新しい席を確認し、元の席へ。

 一番後ろというアタリと隣がうるさいヤツというハズレを引いてしまうなんて。

 椅子に座り、新しい席について考えていると、黒板で確認を終えた友達の京ちんが自分のもとへ向かってきた。


「唯、席どこだった?」


 そう問いかけてくる京ちんの表情は少し悲しげだ。あまりいい席ではなかったみたい。


「廊下側の一番後ろ」

「一番後ろ!いいなぁー」

「でも隣中田だよ。あんなうるさいやつが隣だと授業に集中できない。マジ最悪」

「一番後ろってだけで十分いい席じゃん」

「京ちんはどこなの?」

「うち?うちは真ん中だった。授業中寝れなくなる。最悪ー」


 そう言いながら京ちんは机に腕を乗せ、膝立ちのような体勢になり俯く。

 京ちんにとって真ん中の席は相当嫌だったみたい。そんなに悪くないと思うけどなぁ。


「真ん中?いいじゃん、成績上がるかもよ?」

「なんでぇ?寝なくなるから?」

「そう」


 私なりの慰めの言葉を発しながら、俯いている京ちんの首下あたりを撫でてあげる。


「うん」


 そう呟き、俯いていた京ちんが、背伸びをする様に立ち上がった。


「まぁ、一か月我慢するかぁ~」


 よかった、ご機嫌取りは成功したみたい。でも席位置だけで落ち込む?私は隣の相手のほうが気になるけどな。


「そうそう、京ちんの隣はだれなの?場所よりこっちのほうが重要でしょ」

「隣?誰でもよくない?」

「そんなことないって」


 顎に手を当て考える人のようなポーズを取る京ちん。本当に興味がなかったのだろう。見たばかりなのになかなか思い出せないようだ。

 しかし、京ちんと友達になって結構経つけど、友達ってわからないなぁ。考え方が逆でも長続きするんだもん。


「ん~、確か…佐藤、そう!佐藤ってヤツ!…誰?」

「窓際の一番後ろにいるコだよ。佐藤君か、印象薄いなー」


 佐藤君を確認し「あいつかー、あんな奴いた?」と失礼なことを言っている京ちん。

 まぁ、気持ちはわかる。常に一人で、授業中や休み時間での目立った行動がない生徒。容姿は普通。陽キャではもちろんないけど、陰キャでもなさそう。オタク仲間と話しているところなんて見たことないし。

 例えるなら今日すれ違った人って感じかな。すれ違った人を寝る前に思い出す人なんていないし、やろうと思ってもできない。相当とがった容姿の人とすれ違っていない限り。

 そのぐらい印象がない。二か月近く同じクラスで生活しているのに。不思議というかなんというか。

 私はなるべく京ちんには楽しい日常を送って欲しいと思っている。友達、いや親友なのだ、そう思って当たり前だろう。そんな京ちんの隣が訳の分からないヤツ…


「アタリ?それとも、ハズレ?」

「わからん、でもなんとかなるでしょ!」


 そう言って自分の席に戻る京ちん、しかもスキップで。

 あんな嫌がってたのに…

 そんな京ちんを見ていると自分がしている杞憂が意味ないことだったと感じる。

 京ちんなら大丈夫、逆に相手の心配をしてあげなきゃ。


「がんばれ、佐藤君」


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