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4話:王宮の依頼

 王城に近づくほど、空気が冷たくなる。石壁は磨かれ過ぎて影を落とさず、衛兵の靴音だけが硬く反射する。


 王都の市場とは違う。


 ここでは人の声より沈黙の方が力を持つ。


 俺は腰の剣に触れず歩いた。触れたが最後、それは「脅威」とみなされるからだ。


 傭兵が城に足を踏み入れる――

 

 その視線は決まって、歓迎ではない。

 案内する騎士は若くて真面目だが、目が硬い。傭兵を「使い捨ての刃」としか見ていない目だ。

 だが、その憎しみすら感情と呼ぶには浅い。ただ習った通りに俺を警戒しているだけだ。


 俺が心で笑っていると、奥の扉の前で立ち止まった。


「ここで待て」


 即座に扉が閉じられ、石の廊下に一人残された。


 ――静寂。

 風の音もない。遠くの鐘の響きだけが薄い。


 俺は壁を見つめながら考えた。

 切り捨てられると知りながら、なぜ俺は踏み出す?

 死ねと言われたら、俺は迷宮へ行くのか?

 そこに答えはない。


 思考を断ち切ったのは扉の再び開く音だった。奥に通され、重厚な会議室へ。


 長い楕円の机、赤い絨毯、天井に淡く光る魔灯。貴族たちはまるで見世物を見学に来ているかのようだ。それもニセモノの珍獣を目の前にしている顔だ――嘲笑――好奇心――苛立ち――無関心――


 その中で、ただ一人だけ空気の色が違う男がいた。


 銀髪。

 年の割に背筋が伸び、瞳は琥珀のように澄んでいる。俺と同じく戦場の匂いを知っている人間の目だ。


 彼は名乗った――


「私はヴァロス。王国の老臣に過ぎん」


 声は穏やかで、軽く笑う癖もあるが、目の奥は鉄のように硬い。貴族ではなく、兵の規律と痛みを知る者の声だった。


「ラカム。君に依頼がある」


 俺は無言で頷いた。

 こういう依頼には余計な言葉はいらない。


 ヴァロス卿は、机上に一枚の文書を置く。


「迷宮層の調査」

「古代兵器の停止、または持ち帰り」

「機密の保持」

「無用な騒乱を避けること」


 紙一枚に命の重さが載っている。

 貴族は紙。俺たちは血肉。


 周囲の貴族の視線には、期待も敬意もなく――ただ、都合のいい駒を見る色だけがあった。


 だが、ヴァロス卿だけは違った。

 あの男は「俺の命を使う」のでなく「俺の選択を尊重する」という重みで見ていた。


 だからこそ、胸の奥がざわつく。


 ――切り捨てられるのが分かっている。

 ――それでも俺は足を止めない。


 なぜだ?

 何を求めて、俺は剣を握る?

 答えはまだ無い。ただ、足だけが前を向く。


 ヴァロス卿は言った。


「同行者がいる。“エリス”という若き魔術師だ」

「静かだが、火を秘めている。君とは、良い相棒になるかもしれぬ」


 その瞬間――何かが胸で鳴った。


 名の知られていない、若き真面目な魔術師。情熱を秘めた者。俺とは逆の色。

 だが――奇妙な期待があった。


 気がつけば、俺の中ではもう選択は済んでいた。


「……仕事を受ける」


 声は自分のものと思えないほど低かった。

 死地でも構わん。踏み込む理由がある。理由はまだ言葉にならないが。


 ヴァロス卿は一度頷いた。


「挨拶は“赤い帆”で。エリスはすでに向かっている」


 その目が一瞬だけ、何かを託すように揺れた気がした。


 言葉は無かった。

 ――もし迷宮で死ぬことになっても、悔いるな。

 ――それでも進むなら、私が証人になる。

 そう言われた気がした。


 俺は踵を返した。

 剣が重い。命も重い。だが足取りは不思議と軽かった。


 王宮を出た夜風は、冷たいのに少しだけ優しい。


 まだ見ぬ魔術師――

 炎を内に秘めた娘の名を口中で転がす。


 エリス。


 その響きは、刃先より静かで、炎より熱い。


 迷宮は待っている。

 牙を研ぐ理由も、きっとその向こうに。


チャッピーの凄さ

!理由がどうのは勝手な自動のアレンジだったのを、「踏み込む理由がある。理由はまだ言葉にならないが。」と、こちらのツッコミなくても無理矢理にでも自動で処理している。

!ダラダラとした文を「話」に分割編集において、いわゆる「引き」のためか、終わりあたりで魔術師エリスのくだりを自動で追加してくれている。

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