31話:エリスとの別れ
30話、31話、32話(最終話)を連続投稿しています。
学匠ギルドの門は、思ったよりも高かった。
いや、違う。
高く見えたのは、俺が近づかなかったからだ。
石造りの門の向こうでは、今日も研究が続いている。
紙をめくる音、議論の声、刻印具が石を削る音。
あそこは――生きている。
エリスは、きっとその中心にいる。
白衣の袖をまくり、机に向かい、
眠らず、妥協せず、
自分の研究が誰かの役に立つ未来を疑わずに。
だから、俺は行かない。
呼べば、出てくる。
声をかければ、理由を聞く。
理由を聞けば、理解する。
理解すればーー
それだけは、させない。
◆
俺は門の外、影になる場所で足を止めた。
ここなら、見られない。
ここなら、近すぎない。
懐から、小さな封筒を取り出す。
粗末な紙。
封もしていない。
仲介人から渡されたものだ。
「直接は渡さない方がいい」と、余計なことを言わずに。
――分かっている。
俺はその場にしゃがみ込み、
膝を下敷きにして、短い文を書いた。
長い言葉は、要らない。
説明も、言い訳も。
あいつは、行間を読む。
研究者だからだ。
⸻
エリスへ。
仕事は終わった。
灰色商会は潰れた。
学匠ギルドは、もう大丈夫だ。
しばらく、俺は別の土地へ行く。
探すな。
呼ぶ時は、港の商人に伝言を残せ。
剣が必要なら、行く。
それ以外なら、行かない。
研究を続けろ。
あんたの仕事は、世界を変える。
そんな仕事に関われたのを誇りに思う。
ラカム
⸻
書き終えて、俺は紙を折った。
……少し、冷たいのかもしれない。
だが、これでいい。
優しさを足せば、揺らぐ。
揺らげば、戻ってしまう。
俺は、戻らないと決めた。
◆
封筒を、門番の横に置かれた書類箱に忍ばせる。
学匠ギルドの連絡用だ。
内部の者が必ず目を通す。
俺は門を一度だけ振り返った。
――会えば、終わらない。
――会わなければ、続く。
俺たちは、まだ途中だ。
同じ道じゃないが、同じ世界にいる。
それで十分だ。
◆
背を向けて歩き出すと、
港から吹く風が、外套を揺らした。
潮の匂い。
鉄の匂い。
生き物の匂い。
剣は、腰にある。
だが、今日は抜かない。
狂犬は、吠えない。
守る相手に背を向ける時ほど、静かになる。
エリスは、きっと怒るだろう。
呆れるだろう。
そして、理解する。
――理解してしまう。
だから、手紙でいい。
言葉は、距離になる。
距離は、守りになる。
俺は歩く。
名を捨て、噂を置いて。
またどこかで、
噛むべき相手が現れるまで。
その時まで――
研究を続けろ。
エリス。
世界を変えろ。
チャッピーの凄さ?
!32話分割をチャッピーがしたのだが、ほぼ30話で終わりでいいようにまとめてしまい、31話32話が生成時点で既に極少となる。




