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3話:裏市場の仲介人

 王都の喧騒から数本路地を抜けると、人の気配が薄くなる。

 石畳は割れ、家々の影は深まり、風よりも声が鋭い。

 ここが 裏市場――王都のもう一つの心臓だ。


 表通りが昼の顔なら、裏は夜の心臓。

 鼓動は静かだが、生ぬるい血を確かに送り続けている。


 俺は慣れた足取りで進む。

 左にひしゃげた階段、右に壊れた噴水、二本目の路地の奥。


 ――いた。


 古ぼけた屋台と、木箱を椅子にして座る男。

 何度も取引し、助けられ、そして裏切られていない唯一の情報源。


「よお、仲介人」


 そう声をかけると、奴は笑った。

 しわだらけの目元だけが綺麗に整っている。

 血も泥も洗い流せるが、目の濁りは洗えない。

 だがこの男の目は、妙に澄んでいた。


「港の剣じゃないか。生きてたか」


「その呼び方はやめろ」


「じゃあ“狂犬”がいいか?」


「もっとやめろ」


 仲介人は喉の奥で笑った。

 いつもと変わらず軽口から入る。

 スリの子どもより油断ならないが、会話に無駄がないのは助かる。


 俺は机に硬貨三枚を置き、低く尋ねた。


「王都の空気が変だ。理由を聞きに来た」


 仲介人は硬貨を袖に滑らせ、前のめりに囁く。


「迷宮層だよ、ラカム。

 地下が動き始めた。鉄の兵隊が目撃された。

 炉が赤く灯った、って話まで出てる」


「目撃はどこだ」


「王宮直下だ。だが噂は表じゃ伏せられてる。

 見た兵は皆“栄誉ある転属”で行方知れずさ」


「転属ね……口封じだろう」


「そういうこと」


 仲介人は机を指で叩く。

 どこか愉快そうで、同時に冷ややかだ。


「帝国も嗅ぎつけた。王国と同じものを欲しがってる。

 古代兵器が再稼働するなら、戦争の口実として十分だ」


「つまり、王国も帝国も火薬庫に火を入れようとしてる」


「その真ん中に君がいる」


「好きで入った覚えはない」


「だが――抜ける気もないだろう?」


 図星だ。

 俺は死地を避ける質だが、退けない仕事もある。


「依頼は正式に来た。迷宮層調査、可能なら機能停止。

 古代遺物の回収。ただし暴走させるな」


「はっ、暴走させず回収しろ? 無茶言うねぇ王宮は」


「俺もそう思う」


「魔術師が呼ばれてるはずだ。“エリス”。

 若い。真面目。無鉄砲。君とは真逆のタイプだ」


 聞き慣れない名前。

 その響きはどこか柔らかく、危うい。


「俺と組むのが前提か」


「王宮はそう見てる。

 傭兵と魔術師――どちらが欠けても迷宮は踏破できない。

 鉄の兵を止めるには、刃だけでは足りない」


「俺の腕前じゃあ鉄を斬れないぞ」


「だろうね。だが退ける。逃がす。囮にできる。

 この王都で、“逃げる知恵”を持つ傭兵は貴重だ」


 仲介人は机の下から木札を取り出す。

 粗末な符文、刻みかけの線、だが意味がある。


「刻印だ。通路の癖を覚えるための道具。

 迷宮は動く。だが刻印そのものは消えない。

 帰るための“命綱”だよ」


「迷宮に刻む。癖として刻む」


「そう。生きて戻る奴は皆やる。

 死ぬ奴は、帰り道を考えなかった者だ」


 分かりやすい理屈だった。

 だからこそ真理だ。


 俺は木札を受け取ると、無意識に刃の柄に触れた。

 ――俺はまだ死ぬ気はない。


「気になる話もある」と仲介人が続ける。


「帝国の密偵が王都に潜ってる。“カイエン”って名だ。

 商人を偽り、古代金属を買い漁ってるらしい。

 迷宮層が絡むなら、その男は間違いなく動く」


「つまり、そいつを追えば迷宮の出口が見える」


「出口じゃない――燃える導火線だよ」


 仲介人は声を低くした。


「ラカム。

 君が迷う時は必ず来る。

 “牙を剥く相手を選べ”」


 言葉が胸の奥に沈んだ。

 俺は剣を抜くために生きてるわけじゃない。

 だが抜くと決めた時は――止める奴は誰もいない。


「エリスはどこだ」


「赤い帆。港の酒場。君を待ってる」


 ため息が漏れる。


「あの酒場は荒い船乗り御用達、喧嘩と情報の巣窟だぞ」


「なら君には向いている」


「……まぁ否定はしない」


 仲介人は笑い、肘で木箱を押しやって座り直す。


「帰って来れたら、話を聞かせてくれ。

 刻印の数と、生き延びた理由を」


「じゃあ、話す理由を作ってくるか」


「もし死んだら?」


「供え物に酒ぐらいは持ってこい。少しは色を付けてくれよ」


「ああ、いつもとちょいと毛色が違うやつを選ぶよ。“狂犬”に相応しいやつを」


「……港の剣でいい」


 口では否定しつつ、俺の胸は小さく熱を持っていた。

 名を嫌いながら、名で呼ばれることを捨て切れない。

 そんな滑稽な矛盾ごと抱えて生きている。


 だからこそ――


 俺は王宮へ向かった。

 迷宮へ踏み込む理由を見つけるために。


 風が鉄を鍛える匂いを運ぶ。

 地の底が脈打ち始める音が聞こえた気がした。

 

チャッピーの凄さ

!“情報屋”として登場させたはずの人物が、後の話で良いように使っていたら、編集によって、いつの間にか裏市場の顔役的な“仲介人”の役職名へ自動でクラスチェンジ。

!話の末尾の数フレーズは、ダークファンタジー風の編集指示により挿入されたのだろうと、この話を読んで思った。こちらの自分勝手な指示で、取ってつけた感が無きにしも非ず…?

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