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21話:灰色商会の影

 夜明けの海風は、戦の匂いを洗い流すには冷たすぎた。

 盗賊団の船は傾いてはいたが沈んではいない。

 俺が沈めたのは盗賊たちの逃げ道と、連中の希望だけだ。


 船内を調べたとき、見つけたのは、積み込まれていた箱の鉄板の裏に刻まれた奇妙な線。

 灰色商会の印章でも、どこかの傭兵団の紋章でもない。


 もっと古い、古代設備の残影に近い。

 ――迷宮の壁で見た刻印に、形が似ていた。


 盗賊どもは知らずに、その刻印の付いた箱を扱っていたのだろう。

 村を狙っただけではなく、“試験搬送”の経路に利用したのか…


(やっかいな話になってきたな)


 俺は砂を払って村へ戻った。



 村人の目は、もう俺を“助けてくれた外から来た傭兵”とは見ていなかった。

 恐れている。

 怒りは盗賊へ向くが、その処理をした俺という存在も、同じ破落戸の延長として見ている。


 村長の小屋で挨拶を受けたが、老人の声にも微かな震えが混じった。


「……村は救われた。感謝している。本当に、しているのだがな」


「分かっている。感情と理屈は別でしょうよ」


「恐れているのだ。村人たちは。

 あんたのように外へ出られぬ我々とは違い、あんたは“明日に消える”のだからな」


 俺はため息をひとつだけ落とし、余計な言葉を置かず外へ出た。


 村は守られた。

 だが、平和の代償として、村人は俺を見る目を変えた。

 それで構わない。俺の稼業だ。


(……エリスには見せられんな)


 胸の辺りが鈍く疼く。

 あいつは、戦場の泥を厭うタイプじゃない。


 危険も、汚れ仕事も、研究のためなら平然と踏み込む――静かな狂気がある。

 盗賊を皆殺しにした俺のやり方を見れば、迷わず助けようとする。


 だが、それでも。

 エリスは“研究を正しく役立てるために動く研究者”だ。

 俺とは違う歩き方をしている。


(だからこそ……巻き込みたくない)


 そう思いながら、裏市場へ向かう足だけは止まらなかった。



 王都の裏市場は、夜明け前でも生きている。

 静かな喧騒、押し殺された声、酒と血の混じる匂い。

 この街のもう一つの心臓だ。


 仲介人は、例の壊れた噴水の前で木箱に腰掛けていた。


「よう、ラカム。噂は届いてるぜ。盗賊、全滅だってな」


「流石耳が早いな。仕事をしただけだ」


「仕事ねぇ……まあいいさ。座れ」


 仲介人が机の下から紙片を出す前に、俺は船で見つけた刻印の話をした。


 仲介人の顔色が、いつもより一段だけ真面目になる。


「……迷宮で見たやつに似てるって?」


「ああ。形の流れが“同じ系統”だ」


「それは……灰色商会どころじゃ済まねぇな」


「どういう意味だ?」


「古代設備の“鍵刻”に近い。

 迷宮を再起動させるための動力線の一部かもしれん」


 嫌な汗が背中を滑った。


 迷宮の“鍵刻”――

 もし盗賊が扱っていた箱が、古代設備の動力線に関わるものなら。


 灰色商会は古代兵器そのものへ手を伸ばしている。


(エリスの研究も……狙われて当然か)


 エリスは魔術師というより研究者だ。

 あいつの論文は、魔術と古代技術の“境界”に踏み込んでいる。

 灰色商会と帝国が欲しがらない理由がない。


「で? エリス嬢には、なんて言った」


「……剣が必要なら呼んでくれ、とだけ」


「ふぅん……“港の剣は守る相手を決めた”ってわけだ」


「……俺はただの傭兵だ」


「依頼されてもない相手のために、盗賊全滅させて漁村を守り、その足で灰色商会追っている……確かに”ただ”の傭兵だな」


「揶揄はやめろ」


「事実さ」


 仲介人は薄笑いを崩さず、机に地図を置いた。


「これは港の倉庫街の図だ。

 灰色商会は“第七倉庫”を押さえてる。

 古代金属の管理帳簿はそこにある可能性が高い」


「カイエンは?」


「“女主人の宿”だ。

 護衛が三人。動きは早い。

 おまえが盗賊を潰したせいで、証拠隠しに走ってる」


「俺のせいじゃないだろ。元から悪さしてんだ。証拠になるもんは隠すだろう?」


「はいはい。

 ところでラカム――エリス嬢は研究所に籠ってる。

 彼女の研究、だいぶ進んでるそうだ」


 胸の奥で、何かがひやりとした。


「……あいつは研究者だ。俺がどう動こうが関係ない」


「関係あるさ。

 迷宮の鍵刻、古代設備、灰色商会、帝国……

 “全部”エリス嬢が進めてる研究と繋がってる」


「だからこそ、関わらせない。

 あいつは前に出るタイプだ。大人しく後ろで守られてなんかいやしない。

 知れば絶対に一緒に来る」


「研究が危険だからこそ、か?」


「……だろうな」


 仲介人はため息をついた。


「ほんと、おまえは分かりにくい狂犬になったな。噛み付く相手、勝手に決めやがって」


「狂犬じゃない。

 ただ――やることをやってるだけだ」


「やること、ね。

 じゃあひとつ教えてやるよ。

 灰色商会は“次の積み荷”をすでに港へ移してる。

 内容は分からんが、迷宮刻と同じ線が刻まれた箱の可能性が高い」


 心臓の奥に冷たい火が灯った。


「第七倉庫を潰せば、証拠は出るか?」


「出る。

 ただし……灰色商会も覚悟を決めてる。

 あんたが動くなら、カイエンも動く」


「望むところだ」


「……やっぱり狂犬じゃねぇか」


「違うだろ。ただの傭兵だ。

 腹立つ相手を噛むのは傭兵の習いだろう?」


 仲介人は笑い声を漏らし、追加で銀貨を払う俺の手を払いのけた。


「……エリス嬢の前では、その顔見せるなよ」


 胸の奥に何かを刺された気がした。


「……言われるまでもない。

 あいつには研究だけしていりゃいい」


「なら行けよ。“狂犬”」


「ただの傭兵だって言ってるだろうが」


 俺は踵を返して裏市場を抜けた。


 倉庫街へ向かう道は長くはない。

 夜風が冷たい。

 だが、胸の奥の火は消えなかった。


(あいつには……俺のやり口は似合わない)


 そう思いながら、俺は剣に触れた。

 これから血を見るのは分かっている。

 それでも進む。


 守るべきものを明かさないために。


チャッピーの凄さ

!全体編集後の当初、ラカムが「彼女なら、人を殺す俺を否定はしないだろう。ただ、静かに哀しむ。それが分かっているから、見せたくない。」「狂犬じゃない。――守る相手を決めた獣だ」「守るために、俺は泥に沈む。彼女には見せなくていい。」と、重過ぎでイタ過ぎだったので、私が考えるラカムのエリスへの想いと、距離感を伝えて調整してもらった。ちなみに、エリスのラカムへの感情は設定しないで、今はお任せ状態です。

!話を進めて行くと、ほぼ調整せずとも、会話をしている文章を生成してくれるようになってきた。

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