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2話:王都の空気が変だ

 王都の門をくぐった瞬間、鼻の奥がざらついた。


 表向きは活気にあふれている。行商人の声、焼き串の匂い、旅芸人の音楽。

 だがそのどれもがどこか“上擦って”いる。賑わいの皮を一枚剥がせば、すぐに怯えが顔を出す、そんな気配だ。


 戦の前ってのは、たいていこうだ。

 皆、まだ気づいていないふりをしてるだけで、腹の底では知っている。“何か”が迫ってると。


「……嫌な風だな」


 呟いたつもりだったが、声が自分の耳にも重く響く。


 大通りを歩くほどに違和感は濃くなる。

 人の動きが早い。

 目線が落ち着かない。

 荷車の数が多いのに、積まれている荷の量が明らかに少ない。


 ――逃げる準備、ってやつか。


 そう思いながらリンゴを齧ったときだ。


 裾が、わずかに引かれた。


 反射で手首を掴むと、細い腕がそこにあった。

 見下ろすと、痩せた子どもが目を丸くして固まっている。


 その細い指が、俺の財布を掴んでいた。


「……おい」


 逃げようとする気配が、腕から伝わってくる。

 だけど無理だ。全身が震えている。腹が減ってる奴の震え方だ。


「違う、違うんだ兄ちゃん、これは、その……!」


「言い訳を考える前に、手を離せ。盗られる身にもなれ」


 子どもはびくっとして財布を手放した。

 逃げると思ったが、逃げなかった。

 肩を小さくして、俺の顔色をうかがっている。


 怒られるのを待つより、殴られるのを覚悟してる目だ。


 胃がきゅっとする。


「……腹、減ってんのか」


 子どもは何も言わない。ただ喉が動いた。


 俺は大きく溜め息をついて、リンゴを半分に割って渡した。


「食え。皮ごといける」


「……いいの?」


「金は盗んでねぇだろ。物々交換だ。俺は“驚いた代わり”にリンゴをやる」


 子どもはゆっくりと手を伸ばし、恐る恐る受け取った。

 食べる様子を見ながら言う。


「お前の“親分”は誰だ」


 子どもの顎が止まる。

 だが次の瞬間、悔しそうに眉を寄せた。


「……裏通りの“姉さん”のとこ」


「ああ、あのガキどもまとめてる女か」


 あの女は、子どもに危ない仕事をさせるが、死なせることだけはしない。妙な筋の通し方をするやつだ。


「伝えとけ。王都の空気が変だ。子ども使うには危ねぇ時期が来てるってな」


 子どもはリンゴをかじりながら、こくりと頷いた。


「兄ちゃん……」


「なんだ」


「ありがとう……」


「盗みは二度目から捕まるぞ。三度目で、普通は腕を落とされる。覚えとけ」


 子どもは目を丸くしたあと、リンゴを抱えて走り去っていった。


 その背中が消えるまで見送って、俺は肩をぐるりと回した。


 ――ほんと王都ってのは、ろくでもない場所だ。


 人は多い。金も集まる。噂はもっと集まる。

 だからこそ、危ない空気が流れはじめたとき、真っ先に歪む。


 帝国の商会の姿がやけに目につく。

 鎧を着た兵の数も増えている。

 何より……誰もが王都の“地下”へ視線を落とす癖を持ち始めていた。


 まるで、地の底に潜む何かを恐れて。


「迷宮層の噂が、ここまで広がってるのか」


 俺の依頼内容はまだ王宮の一部しか知らないはずだ。

 だが、人の匂いってやつは、ごまかしが利かない。


 これは――“王都は、戦場になり得る”という匂いだ。


「……さて、王宮評議会の依頼主って奴は、どんな顔してやがるのか」


 俺は残りのリンゴを齧り、王都の裏道へ足を向けた。


 変わり始めた王都を横目に、

 ゆっくりと、しかし確実に、

 “王都の真の匂い”へ近づいていく。


 そこで、俺の旅路は大きく歪むことになる。

 このときの俺には、まだ分かっていなかったが――

 もうすでに、歯車は回り始めていた。

チャッピーの凄さ

!治安の不安定な感じと言ったらスリの子どもでしょうって指定したら、ここでリンゴ使うんだ〜と思ったやり取りに編集してくれました。

!編集重ねる前は港→市場→王宮→裏市場の流れで場面転換しながら話を作成したのが、門→市場→裏市場→王宮と自然な移動順に、自動で話を変更した。まあ、最後のセリフが置いてけぼり感あるけど。

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