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19話:夜明け前の奇襲

 夜明け前の空は、生き物が息を潜める色をしている。

 光でも闇でもない――ただ、戦いを孕んだ静寂だけが支配していた。


 俺は海を見下ろす高台に立っていた。

 潮は満ち、沈み杭は完全に海の底へ隠れた。

 罠の存在を知らなければ、誰も気づかないだろう。


 村人たちの気配は、背後の暗がりにひっそりと潜んでいる。

 怯えはあるが、昨日とは違う。

 “腹が決まった者の静けさ”があった。


 そうだ。

 この村は弱かったんじゃない。ただ――頼る術を知らなかっただけだ。


 俺は剣の柄に手を添え、潮騒に耳を澄ませた。


 そのときだ。


 ギ……ッ。


 舵の軋む音が、闇の向こうから響いた。

 低く重い、盗賊船の音だ。


 ――来たな。



 影が海面を滑り、やがて黒い船の輪郭が現れた。

 鉄板を腹に貼り付けた、盗賊団特有の船だ。

 その重量こそ、罠が“噛みつく”最大の理由でもある。


「……舵を切るぞ」


「見張り、二人……いや三人……!」


 背後の若い漁師たちが息を殺して囁く。


「怯えるな。まだ“見るだけ”の時間だ」


 俺は声を低く返した。


 船はゆっくりと桟橋へ寄ってくる。

 抜かれた杭の跡――盗賊が自分で“安全だ”と確認した通り道をまっすぐに。


 予定通りだ。


 村人たちの顔が強ばる。

 目に浮かぶのは恐怖ではない。

 “罠が噛むかどうか”を見極める極限の緊張だ。


 潮がさらに満ちる。

 舳先が陸風を切り裂いて進む。

 盗賊たちの声が聞こえる。


「おい、この辺なら深いはずだ!」


「例の杭は抜いてある! まっすぐ突っ込め!」


 ――いいぞ。

 お前らが勝手に判断し、油断していくその瞬間を待っていた。



 激しい音が響いた。


 ガン――!!


 水柱が跳ね、盗賊船の腹が沈み杭に噛まれた瞬間だった。

 船体が急に傾き、鉄板の裏側に杭が潜り込んで“爪”のように引っ掛かる。


「な、なんだ!? 止まったぞ!」


「舵が効かねぇ! 抜けねぇ!!」


 盗賊の叫びが響く。


 あの重さだ。抜けるわけがない。

 引き潮ならもっと噛むが――今でも十分すぎる“拘束力”だ。


 俺は短く言った。


「行くぞ」


 村人たちが動き出す。

 海から逃げようとする盗賊たちが、船べりを越えて海へ飛び降り、浜辺へ近いてくる。


 だが――


 足が網に沈み込む。


「うわっ!?」「脚が……絡ま――!」


 慌て、焦り、考える余裕もなく逃げ出そうとする人間ほど、網に獲られる。


 漁村の網は、魚を捕らえるものだ。

 だが、恐怖で冷静さを失った盗賊は――魚以下だ。



「ここだッ!」


 俺は網に足を取られた賊の腕を掴み、砂に叩きつける。

 剣を抜かず、拳で顎を跳ね上げ、昏倒させる。


 今、殺す必要はない。

 生かしておく方が情報は取れるし、“見せしめ”にもなる。


 別の賊が、後ろから叫びながら俺へ突っ込んできた。


 阿呆が――。


 俺は身体を反転しながら懐へ入ると、肩口へ肘を叩き込んだ。

 短剣が砂を転がり、賊が膝をつく。


「少しの間、寝ていろ」

「……ぐ、え……」


 首筋を締めあげ、意識を落とさせる。


 村人たちも、網の罠の効果で優勢だった。

 焦る賊は思うように動けず、逆に村人は海辺の足場に慣れている。


 この地の“主”は誰か――戦えばわかる。



 残った賊が船縁から弓を構えた。

 ここは射線が通る。


「伏せろ!!」


 俺の怒声よりも早く、矢が放たれた。

 しかし――


「外した……?」


 矢は風に流されたのではない。

 船が杭に噛まれ、傾いたせいで照準が狂ったのだ。


 その隙に、俺は陸風を真艫に受けた艀で近づく。艀の揺れる船縁が高くなっていくのに合わせ踏み台にし、賊の船の傾いた舷側へ跳び付く。左の指先を伸ばして縁に掛け、船腹を蹴り、その勢いのまま体を一気に引き上げて乗りこむ。

 船体は動かない。

 杭が捕らえた獣のように、海底から離れられないのだ。


 恐怖に揺れた賊と目が合う。


「……あ、あんた……何者だ……」


「ただの傭兵だ。潮に嫌われたのは、お前らの方だ」


 腹に拳を叩き込み、男は崩れた。



 静寂が戻った。

 惨劇ではなく、“勝利の静けさ”だ。


 網に絡まった賊を村人が縄で縛り上げる。

 船はまだ杭に噛まれたままだ。

 引き潮になれば、さらに深く噛むだろう。


 村長が俺のそばへ来た。


「……終わったのか?」


「一段落だ。ただし“半端な勝ち”だ。

 ――まだ聞き出すことが残っている」


 捕らえた賊の一人を見下ろす。

 こいつらは単なるならず者じゃない。


 背後に“誰がいるのか”。

 それを知るまでは、村は本当の意味で救われない。


 俺はゆっくりとしゃがみ込み、囁くように言った。


「さて。お前らを使っている“灰色商会”について――話してもらうぞ」


 賊の喉が、ごくり、と鳴った。


 夜明け前の冷たい光が、砂浜を白く染め始めていた。

 戦いの終わりは、新しい疑念の始まりでもある。


チャッピーの凄さ

!私の知識不足もあり、設定ミスで船の大きさが曖昧なのに、それなりに状況描写をしてくれた。とはいっても、ボートじゃないんだし、砂浜に直接乗りつけるのはどうなんだろうと、こちらで桟橋を追加で指定する。でもなぁ。桟橋が伸ばせる深さなのかなぁ。賊の人数と船の大きさは妥当なのかなぁ。チャッピーとやりとりしても、イマイチこの辺は信用しきれない。

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