1話:プロローグ 〜傭兵ラカム、王都へ向かう〜
風に塩の匂いが混じっていた。港町を離れてもう数日が経つのに、鼻の奥にはまだ海風が残っている。あれは不思議なもんだ。戦場の血の匂いよりもしつこく、しかし嫌にはならない。
俺は道の真ん中を歩きながら、肩に提げた荷袋を軽く叩いた。中身は、いつもと変わらない。刃物が一本、替えのシャツが二枚、少しの乾パンと、裏市場の仲介人から「飯に困ったら売れ」と渡された酒瓶が一本。
相変わらず、傭兵の荷は軽い。
けれど俺の足取りは、軽いとは言い難かった。
――王都に呼ばれた。
呼ばれた、というのは正確じゃない。正式には“依頼が来た”。
依頼主は王国評議会。内容は「迷宮層調査と古代機械の停止」。内容を聞いた瞬間の俺の反応は、我ながら予想どおりだった。
(また、死にかける仕事だな……)
迷宮層。古代機械。それらは戦場の敵よりもよほど容赦がない。斬れる腕があろうが、逃げ足が速かろうが関係ない。相手は頑丈で、疲れ知らずで、慈悲なんざ持ち合わせていない。
だが、そういう敵は嫌いじゃなかった。
俺はため息をひとつ吐いて、空を見上げる。王都の城壁が見えてきた。あの白壁は遠くからでも目立ちすぎる。
「港の剣」なんて呼ばれてるらしい俺も、少しは目立つらしいが。
……港の剣、ねぇ。
俺は鼻で笑った。
そんな大層な名前、どこかの誰かが勝手につけただけだ。俺はただ、自分の仕事をこなし、仲間に手を出した相手には牙をむいただけだ。
それだけなのに――人はすぐに二つ名をつけたがる。
「ラカムどの、と呼ぶべきでしょうか?」「港の剣のラカムどの?」
そんな声を、王都の門前で並ぶ兵士たちから聞いた気がしたが、気にしないふりをした。
俺は英雄じゃない。
ただの傭兵で、強くも弱くもない。他の誰よりも“生き汚い”だけだ。
門を通ろうとしたとき、見張りの兵が声をかけてきた。
「ラカム殿、で間違いありませんな? 王宮より通達が出ております」
「殿なんてつけるな。俺は傭兵だぞ」
「は、はぁ……で、でも通達が……」
困惑する兵を無視して門をくぐると、王都の喧騒が一気に押し寄せてきた。
果物の匂い、鍛冶屋の火花、商人の叫び声。
だがその中に、“違和感”が混じっていた。
――何かが変だ。
人の動きが速い。商人は落ち着かず、兵士は妙に多い。子どもでさえ走り回らず、影に隠れるようにして歩いている。
戦の前触れ。
俺にはそれが分かった。
こんな空気、何度も嗅いだことがある。
「……こいつは、嫌な仕事になりそうだな」
つぶやきながら歩いていると、屋台の果物売りのばあさんに声をかけた。
「お姉さん、それ二つもらえるか? 久しぶりに王都に来たが……何かおかしいな? この空気」
ばあさんは眉をひそめ、リンゴを紙に包みながら言った。
「戦の匂いさ。王宮の連中は黙ってるけどね。あんたみたいな傭兵の目には、すぐ分かるだろうよ」
「まぁな」
その通りだ。
俺の足は自然と裏市場へ向かい、仲介人を探していた。
迷宮層が動いた。
帝国が動く気配がある。
王国は嘘を重ねて隠すつもりだ。
でも、そんなことより俺が気にするのは一つだけ。
――この依頼、どれだけ俺を死なせようとしてくるのか。
それがすべてだ。
そう考えながら歩いていると、胸の奥がほんの少しだけ高鳴った。
きっと俺は、死地に向かうのが嫌いじゃないんだろう。
死ぬほど嫌いだが、嫌いじゃない。そんな矛盾を抱えて生きている。
だからこそ、王都へ来た。
そして、
ここで
“エリス”という魔術師と出会うことになる。
この出会いが、俺の旅と生き方を変えることも知らずに。
チャッピーの凄さ
!門の見張りの兵のシーンは全く指定して無いのに加筆された。
!市場の”お姉さん“とのやり取りは指定したけど、柑橘系果物と曖昧だったのがリンゴになってる。後のシーンで使い易いからかな?
!「きっと俺は、死地に向かうのが嫌いじゃないんだろう。死ぬほど嫌いだが、嫌いじゃない。そんな矛盾を抱えて生きている。」なんてセリフを吐く設定は、どこから引っ張り出してきたんだろう?




