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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第二章 盗作怪獣
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疑うべきは前提だ

 厳密には、ガソリンじゃなくてもいい。


 灯油やアルコールでもエンジンはかかると聞いたことがある。護送車の中に元々入っていたのか、それともタンクか何かに詰めて運んでいたのか。どうあれ最終的に、財宝部屋で給油して、エンジンをかけっぱなしにして〝怪盗Missing〟は脱出した。


 トラックそのものが、カラクリ装置だ。

 こんなに堂々と置いてあるそれに、俺達は気付かなかった。盲点ここに極まれリだ。


 水に溶けるのではなく水が気化するくだりをもっと掘り下げて考えればよかった。ガソリンを燃焼させて、気化させて、失わせるカラクリ装置が――――複雑なエネルギー変換の機械が、ずっとそこにあったのに。


 財宝部屋も、一応は〝部屋〟だ。換気口くらいは存在する。セキュリティがいくら頑丈とはいえ……いや、だからこそ、閉じ込められる類いのトラブルで窒息死しかねないからだ。排気ガスは換気口から外に出て、『部屋から失われた』ことだろう。そうじゃなくても、ガソリンとしての役割を果たせなくなった時点で『失われた』扱いだろうけど。


 気化したらガソリンとしての価値が無くなる。

 価値の無いお宝は、お宝じゃない。


 部屋の中に一酸化炭素や二酸化炭素が充満していたからといって、『まだガソリンは室内にある!』とは言えないだろう。怪盗の矜持とかいう謎システムを導入せずとも、俺の直感でもそれは分かる。


 これで条件は全て満たせたはずだ。この推理なら、不可解に対して全て説明できる。


 ……説明できるだけ、ではあるが。何故そんなことをしたのか、動機も意味もやはり全く分からない。不可能を潰していって、残った可能性がこの手法だっただけだ。


「ったく……この部屋に来るの、今日何度目かしら」


 財宝部屋C−1。

 げんなりと顔に書いてあるドレミとともに、再びこの部屋に到着する。


 ミラージュと一緒にさっきまで4時間も調査してたドレミだ。もうこの内装を見るのもうんざりだと言わんばかりにドレミは、よそ見さえせずに運転席へと直行していく。


 そして、ほんの数秒。

〝それ〟を確認するには、事足りる時間だ。運転席のドアを開けたドレミは、ほんの数秒だけ中に乗り込んで確認し、「よっ」と着地してドアを閉めた。


「どうだった?」


 そう聞く俺に、げんなりの上にどんよりと上書きした表情でドレミは答える。


「ガソリン、満タンだったわ……」

「じゃあ、この推理もハズレか……」

「もーっ! 何なのよ一体! 謎が解けたと思ったらハズレで、やっと辿り着いたと思ったら間違ってて……どんどん意味不明じゃないっ! この事件どうなってんの! おのれ〝怪盗Missing〟……憎たらしい奴っ!」


 溜め込んでいた鬱憤が噴火したらしいドレミの叫びが財宝部屋に響き渡る。

 謎が解けずにもどかしい……というよりは、同業者としてのライバル意識といった方が近いだろうか。見事に盗まれた時点ですでにしてやられている。

 その手法さえ理解不能ときたら、かの怪盗ドレミとしてはそりゃもう面白くないだろう。

 かく言う俺も、意気消沈は否めない。推理が外れるなんてのはよくある話だが、絞り出して捻り出してようやく見つけ出した抜け道が、こうも連続で行き止まりになると、徒労感もひとしおだ。


「さて……唯一の活路が絶たれたな」


 今の推理も間違っていたとなると……いよいよ。

 ずっとスルーし続けてきた、もう一つの荒唐無稽な可能性について考慮しなければならない。

 ドレミもそれを思い出したようで、


「……あっ、でもあんた! そうよ、もう一つあるって言ってたじゃない! ガソリン説じゃない、アイデアがもう1つあるんでしょ?」

「まあ、あるにはある。ここまで話してきた厳しい条件の数々をくぐり抜ける、矛盾の無い説。ざっと思いつくだけでも3つ、まだ俺達は精査していない」

「え、そんなにっ!?」

「ああ。犯人が魔法使いである可能性と、超能力者である可能性と、妖怪人間である可能性だ」

「期待して損したわ」

「超科学を操る未来人の可能性もあるな。やっぱり4つか」

「うっさい。真面目にやんなさいよこのアンパン野郎」


 ドレミの槍のような視線が痛い。ごめんって。

 というか、アンパン野郎は果たして悪口なのか……?


「冗談だよ。要は、そのくらいじゃないともうこの先にルートは開通できないって話な。全ての前提条件をクリアできる抜け道はもう無い」

「じゃあどうすんのよ……本当に魔法使いの仕業になっちゃうじゃない」

「『この先に』と言ったろ。一本道が行き止まり確定なら、もっと前の分かれ道で選択ミスをしてるってことになる。――――疑うべきは前提だ」


 前提条件だ。

 クリアできないのなら、その条件設定が間違っている。たとえば、


「情報屋の情報がフェイクだったらどうだ? 荷室の扉さえクリアできれば、まだ色々と道は開けるはずだ」

「そりゃまあ……フェイクだったらね。でもなりすましは無理よ」

「他にも、23時〜2時の、財宝部屋の出入りは本当に不可能か? これは、屋上で〝ファントム・ガールズ〟総出で月食観賞会をやっていたが故の、『常に監視下にある』という心理的密室だ。つまり、『メンバー全員がよそ見をする』確信があれば、その瞬間に脱出すればいい」

「グラスが割れてみんなの視線を集める、みたいなこと? そんな印象的な出来事は無かったわよ。みんな揃ってよそ見する瞬間なんて、そりゃ何回もあっただろうけど、予測できるはずないわ」

「予測しなくていいんだよ。誘導すればいいだけだ。グラスも何も使わず、印象に残ることもないくらい静かにこっそりと。……そうだな、」


 俺は少し、言い方というものを考えて逡巡する。

 が、早々に諦める。どんな言い方をしても、どんな表現をしようとも、結論は変わらない。俺はただ、事実を端的に伝えるまでだ。


「気付かないか? 情報屋になりすます方法……それができる人物像について。オフラインでアジトに保管されてる暗号資料や、お前達の脳内に保管されてる暗号パターンを参照できる、唯一の可能性について」

「そんなことできるはず……、……っ、……、」

「月食観賞会で、視線誘導するのはもっと簡単だ。0時ピッタリに『見て、流れ星!』とでも言えばいい。――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 それが全て潰れた今、必然的に。

 ドレミは途中で、俺の言わんとしてることに気付いたようで、すでに言葉を失っている。


 俺は最初から、この可能性は頭の隅に置いていた。それでも、動機が分からずやり方も非合理で、意味不明すぎて選択肢から外していた。だが、考え得る全ての可能性を消去したとき、残ったものこそが真実なのだ。探偵の矜持、ですらない。それは探偵の常識で、推理の絶対法則だ。


 俺は端的に述べる。

 結論。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()M()i()s()s()i()n()g()()()()()()()()()


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