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怪盗結社ファントム・ガールズの事件簿  作者: 一星
第二章 盗作怪獣
7/28

アンパンの件なら別に全然また怒ってるぞ

 怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟のメンバーが一人、〝怪盗ミラージュ〟。


 一言で言えば彼女は、贋作師だ。どんな偽造品もとんでもないクオリティで作り上げてしまう、結社きっての神業職人である。たとえば、すり替え用の贋作絵画。たとえば、偽造公文書に偽造免許証。あるいはたとえば、特殊メイクの変装さえも。彼女の手にかかれば、再現できない工作物はおよそ存在しないだろう。


 探偵機関が付けた彼女のコードネームは、〝盗作怪獣(イミテーション)〟。


 偽造と工作のスペシャリストである彼女の目を、DIYで欺くことなどまず不可能だ。どんなに精巧にカモフラージュされていても、そこに抜け穴があるのなら、微細な形跡や痕跡も確実に見つけ出し白日の下に晒される。ドレミと一緒に4時間も調査したというのであれば、見落としはなおさらあり得ない。見つからないわけがない。

 本当に抜け穴が存在するのなら、の話だが。


「じゃあ……本当に抜け穴は見つからなかったんだな、ミラージュ」

「『見つからなかった』? 極めて心外〜。ミラは完璧完全、『無い』って断言したつもりだけどー」


 アジトの一室、リビング然とした居住空間に、気の抜けた緩い声が響く。


 セーラー服を身に纏っているボサボサ髪の少女。あまり手入れはされていないようで、毛先も傷んでいるのが見て取れる。前髪で目が完全に隠れてるけど、ちゃんと見えてるのか?


 そのヘアスタイルだけ見ても無頓着な性格が察せられるものだが……床に寝転がりながらポッキーをくわえて携帯ゲーム機をピコピコ操作しているという、絵に描いたようなグータラ光景が目の前にあった。ヒマな中学生の休日か。


 バランスボールを足置きにしているあたりも、怠惰のテンプレといった体たらくだ。床に寝転がっている都合上、必然、足を思いっきり上げてバランスボールに乗せている構図になる。本人は気にもしてない様子だが……。


「……。どうでもいいけどお前、スカートめくれそうだぞ。その体勢やめとけよ」

「別にいーけどー。減るもんじゃないしー」

「女子力が減ってないつもりなのか、それで」


 ちなみにこのセーラー服だが、どこの学校のものでもない。

 実のところ、ミラージュは現役高校生だ。が、その高校の制服じゃない。わざわざ着替えているのだ。


 私服を選ぶのが面倒くさい、という理由で。


 私服可の学校でも、あえて制服で過ごす生徒が多いという話は聞いたことがある。私服を毎日選ぶのが手間だという、同じ理由でだ。休日を制服で過ごす生徒もまあ、理解できなくはない。でも、下校してから別の制服に着替えるアホは俺は見たことがない。


 それなら制服そのまま過ごせばいいじゃないかと思うのだが、まあ当然といえば当然で、怪盗稼業の性質上そんな正体モロバレの服で活動するわけにもいかない。結果、どこの学校のものでもないセーラー服を自作してしまったそうだ。


 もうなんというか、意味が分からない。私服を選ぶ方が楽だろ、絶対。


「ったく……ん? おい待てミラージュお前、何食べようとしてんだ」


 ポッキーを食べ終えたミラージュは、体勢そのままに、何か別の袋を取り出してピリッと包装を破き始めた。


「何って、アンパンだけどー」

「俺のだそれは! 勝手に食うな!」


 通勤途中のコンビニで買ってきた俺のアンパンだった。いつの間に……。


「施錠したスーツケースの二重底に隠してロッカーにも鍵かけたのに、どうやって盗んだんだよ……この怪盗め!」

「いや……あんたこそアンパンごときに守り固めすぎでしょ。二重底?」


 ぽすんとソファに腰掛けながら、呆れ顔でドレミも口を挟んでくる。


「しょーがないだろ、どうしても食べたかったんだから! アンパンは3時に食べるんだ。それまで保管しなきゃいけない。怪盗のホームで盗難を想定して何がおかしい?」

「頭とか」

「誰が頭おかしいだ! 実際盗まれてるだろ今! いいからミラージュ、返せ」

「いやいやー、違うよー? これミラが自分で買ってきたやつだけどー。サグルのはあっち」


 そう言って、ミラージュの視線がちらりと部屋の奥へ向けられた。……ように見えた。前髪で隠れていてわずかにしか見えないこいつの目線を追うと、


「あれ?」


 同じアンパンがテーブルの上に置いてあった。……あっちが、俺のだって? あんなところに置いたっけ……?


「サグル、今朝あそこに置いてたじゃん。覚えてないのー? 抜けてるねー。まあ何でもいいけど、もうこれ、食べていいー?」

「ん……あ、ああ……いいよ。悪いな、勘違いだったみたいだ」


 何にせよ、アンパンはそこにもう一つあるのだ。俺の分があるのならそれでいい。

 アンパンを頬張るミラージュの姿を尻目に、部屋の奥のテーブルに近寄って俺はアンパンを回収――――できなかった。


「え」


 絵、……だった。


 そこにあったのは、アンパンの絵。実物と見分けがつかないくらい精巧に描かれた一枚の絵が、俺の目を欺いていただけだった。つまり、

 騙された。


「んの…………ミラージュこの野郎! あっ、もう全部食べ終わってやがる!」

「わっはっは。食べていいって言ったじゃんー」

「あははははっ!」

「おいそこ! 笑うなドレミも! ちくしょう……っ」


 怪盗め。

 してやられた……。俺は怒りを通り越して、脱力と脱帽も通り越していっそ感服の心持ちだったが、それはこの絵があまりにも上手すぎるからだった。


 近付いてよく見ないと本当に見分けがつかない。テーブルや背景もしっかり描き込まれていて、カメレオンよりカメレオンだ。いつ盗まれたのか分からないが……4時間ほどずっと財宝部屋を調査してたんじゃないのか? それ以外のわずかな時間でよくもまあこんな人智を超えたクオリティの絵が描けるものである。


 自分でアンパン買ってきた方が絶対に楽だろうに。


 ……もういい。人智も理解も飛び越えていく怪盗という呆れた生態に溜息を漏らしながら俺は、盛大に脱線した話題を戻す。


「で……何だっけ。そうだ、抜け穴が無いって話か」


 アンパンの弁償は後で請求するとして、今は〝怪盗Missing〟だ。


「床だけじゃなく隅々見たけど抜け穴なんてどこにも無いよー。トラックにも穴なんて開いてなかったしー。あの部屋はもう完璧完全、密室だよー」

「お前、モチベ無いときの仕事アホほど適当だろ。その言葉、信用していいのか?」

「わっはっは。『信用していいのか』? 裏稼業で信用なんて命取りだよー。早死にしたいなら好きにしたらいいと思うけどー?」


 ドレミにも同じようなこと言われたな……。怪盗の、いや裏社会の常識か。

 ミラージュは気の抜けた声のまま言葉を続ける。


「疑うのが好きだねー名探偵サグル君は。『モチベが無い』? 秘宝〝ブラックカーテン〟を盗んだのはミラの手柄でもあるんだよー? それが盗まれたとか、普通に業腹だけどー」

「まあ……そりゃそうか」

「それにさー。『アホほど適当』に仕事してたとしてもさー、その程度のことで、〝抜け穴〟なんてものをミラが見落とすはずもないけどー」


 それもそうだ。

 ともすれば高慢だと切り捨てられてもおかしくない、いや、普通はそうすべき、驕り高ぶった主張だが、俺は抵抗なくすんなり胸に落ちた。

 ドレミの聴力と同じくだ。これはもはや信用でもない、事実。それだけの能力がミラージュには、確かにある。


「となると……〝怪盗Missing〟がカメラに映るのは不可避だな。映像記録の改竄は確定だ。23時〜2時までの間はどうあがいても財宝部屋に出入りできないし、2時以降に改竄するのも不可能だから、侵入も脱出も23時より前ってことになる」


 つまり。


「それなのに、犯行時刻が0時である矛盾。……ここが一番の疑問だな」


 脱出した時間。秘宝が失われた時間。この2つが確実にズレていることが確定した。

 しかも、前者が先ときた。この順番が逆ならば、食べたり燃やしたりなど、やりようはいくらでもあるが。0時の瞬間、犯人は秘宝に触れてもいない。室内にすらいない。なのにどうやって『失わせた』のか?


「ふーん」


 と、怠惰を体現した怪盗少女は呟き、


「そんなに疑問かなー、それ?」

「え……」

「あら、何か分かったのミラ?」

「分かったっていうか、普通にだけどー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。自動化は現代産業の基本だよー」


 ……なるほど。〝盗作怪獣(イミテーション)〟らしい視点だ。


「でもじゃあ、カラクリそのものが部屋に残ってるはずじゃない?」

「カラクリそのものも、自動で消えればいいと思うけどー。たとえばー、蚊取り線香なら最初に火を点けとけば時間通りに消滅してくれるしー。氷は溶けて消えてくれるしー。微生物が分解してくれるバイオプラスチックもあるしー。あとはそーだねぇ、時間経過で色が変わる塗料とか。知らんけどー」

「その素材を使って……どんなカラクリを作れば、秘宝が消えるのよ?」

「だから知らんってー。それを考えるのは名探偵の仕事だけどー」


 ゲーム機に目を落としたまま、キラーパスを投げてくるミラージュ。

 だが……良い視点だ。考え方の道はかなり開けた気がする。俺は「ふむ」と一息置いて、考えを口に出し始める。


「とりあえず、蚊取り線香の類いはナシだな。灰が残る。バイオプラスチックも言わずもがな、時間がかかりすぎる。けど、氷はいいな。気化すりゃ見えない」

「見えないのはいいけど、肝心のカラクリは? 氷で何かを消せるとは思えないわよ」

「そんなこともない。氷は時間経過で水になる――――水に溶ければ、消えたと言える。水溶性の物質なんて、この世にいくらでもあるだろう」


 秘宝の素材がたとえば、塩、砂糖、水溶紙。だとしたら、氷と水のカラクリを上手く作れば、0時にそれらを消すことも可能じゃなかろうか。


「秘宝そのものが〝氷〟ならもっと単純だけどな。荷室から出して放置するだけでいい」

「で、0時に完全に消えて、あとはコントロールルームに侵入して映像改竄した、と」

「お前達みんな月食観賞会で屋上にいるからな。その時間なら、財宝部屋に出入りするのは不可能でも、アジトに侵入するのはむしろハードルが低い」

「秘宝が氷かー。彫刻とか氷細工なら、時価総額3億もあり得ない話じゃないけどー。芸術の世界じゃ価値は青天井だしー」


 護送中の氷細工はさすがに溶けないように対策されていただろう。魔法瓶的な容器にでも入っていたはずだ。〝怪盗Missing〟はそこから氷細工を取り出し、魔法瓶だけを持ち去った。


 ……何故? そのまま秘宝も持ち帰ればいいのに。まるで意味不明な挙動だが……一応、これで犯行可能ではある。


「あとは、『色が変わる塗料』も使えそうかな。秘宝が絵画だったら、塗りつぶしでもしたらさすがに『失われた』と言っていいはずだ。透明から有色に変化する塗料でも使って、0時にちょうど塗りつぶされるように調整した、とか」

「いや、実際に消えてたじゃない、秘宝。塗りつぶされた絵画なんて無かったわよ」

「んなもん、隠せばいいだろ。周囲の財宝の中……たとえば他の絵画の裏にでも入れておけばいい」


 最初に財宝部屋を調査したとき俺達は、周囲の財宝に関しては、盗まれたものが無いかリストと照合くらいはしたものの、隅々までしっかり調査したわけじゃない。犯行声明には『0時にこの部屋から失わせた』と書いてあったからだ。嘘は書かないという怪盗の矜持に則るなら、室内に隠してあるという選択肢は除外される。

 が、室内に隠してあった上で、さらに『失われる』なら問題は無いはずだ。


 できるっちゃできる。……例によって、動機が全く不明だが。


「…………『失わせる』ってのが、やっぱり、意味不明なんだよな。その小細工に何の意味がある? 何ならトラックごと持ち帰ることもできたはずだ。トラックのキーは付けっぱなしだったし、アジトのトラップやカメラもこいつなら解除できるし。そこがどうしても、俺は疑問だ」

「そうねぇ。先に脱出してるってあたりが、特にね。自分は脱出して財宝は放置して、わざわざ時限式のカラクリを用意して、そうまでして0時に『失わせる』意味が無い。誰も見てないんだからショーにもならないし」

「理由なんて無い、って言われればそれまでだけど。ただの愉快犯だと思うか?」

「思わない。盗むからこその怪盗よ。盗めるものを盗まず、あまつさえ財宝を無価値にするなんて……よっぽどの理由が無いと、納得できないわ」


 怪盗結社のリーダーも、そう言ってはっきり否定する。


「お宝に敬意を払うべし。怪盗の矜持よ」

「……そうか。まあどうあれ、秘宝の正体が何かによって話は変わってくるな」


 いや、そもそも。


「怪盗結社〝ファントム・ガールズ〟。ドレミを除いたお前達の盗難(しごと)にミスは無いんだよな? 秘宝〝ブラックカーテン〟がそもそも、確実に間違いなく財宝部屋にあったっていう前提は、本当に疑わなくていいんだな?」

「極めて心外〜」


 長い前髪の向こうで、ミラージュの目がゲーム機から離れて俺を射抜いた。


「他のことならともかく、盗みに関して言われるのは傷つくけどー。飴細工のように繊細なこの心が」


 説得力のまるで無い、神経図太そうな相変わらずのふてぶてしさでミラージュは言う。


「あの日、あの時、あの場所で、秘宝は間違いなく護送されていて、ミラ達は間違いなくそれを奪い、邪魔も妨害も干渉も接触も一切許さず完璧完全、財宝部屋に運び入れた。たしかにミラ達にとっても秘宝の正体は暗黒のヴェールに包まれてるけどー。まさしくブラックカーテンだけどー。疑うなら色々、見せようか? 秘宝を護送する旨の機密文書と、991件の盗撮記録と、1219件の盗聴記録と、関係者全員の行動パターン分析と、……まだまだ無限にあるよー。〝そのもの〟の情報がたとえ何一つ無くても〝それ以外〟を描いて浮き彫りにする、なんて、表現者的にはベタ中のベタな手法だけどー。財宝が見えない知らない触れない、あるかどうかすら分からない――――その程度のことで盗みに失敗する三流怪盗の集まりだと、ほんとに思う?」

「いいや、思わない。そう突っかかるな、一応確認しただけだ」


 相変わらずふてぶてしく高慢な発言……だが、こちらは説得力がある。


 一応後でそれらの情報は見せてもらおうと思うが、彼女達が失敗していたなんて実のところ欠片も思っちゃいない。『推理に行き詰まったら疑うべきは前提だ』、探偵としてのセオリーに従っただけである。

 盗みに関して、こいつらがこれほど断言するんだ、失敗してたなんてあり得ない。


「それにさ、〝怪盗Missing〟に盗まれたことそれ自体が証明でしょ。どんな超一流の怪盗も、無いものは盗めない。犯行声明まで出してるんだから、そこに嘘は無いわよ」


 それもそうだ、とドレミの捕捉に納得する俺。

 納得、できてしまった自分に自分で溜息をつきたくなる。もう今さら文句も言うまいが……怪盗の生態なんていう意味不明な前提ありきのロジック構築に慣れてきた自分が怖い。


 妙な世界の妙な常識が着実に刷り込まれつつある現状に抵抗するように俺は、大きな咳払いとともに「とにかく」と仕切り直す。


「じゃあとりあえず……現状、矛盾が無いのは〝氷〟説か〝塗料〟説ってところかな。わざわざそんな盗み方をする合理的理由が分からなくて、不可解も疑問も残るけど、可能っちゃ可能だ。つまり秘宝の正体は、氷そのものか、水溶性の何かか、絵画か……」

「んー、氷そのものってことは、やっぱり無いと思うけどー」

「? 何でだよ。お前もさっき言ってたろ、彫刻とかなら3億の価値があっても不思議じゃない」

「価値はねー。そーじゃなくて、トリックの方だけどー。芸術に使われるような透き通った氷って、気泡が入ってないから全然溶けないんだよねー。溶けるまで平気で8時間とかかかったりするしー」

「別に、それを計算して逆算すれば……」

「その計算がブレるって話ー。この2月の寒空の下、暖房なんて無い財宝部屋でさー、絶対にロングスパンの消滅計画になるよ? 誤差1時間とか余裕で生じるのに、犯行声明に『0時』って指定しないでしょ。唯一無二の作品で、財宝部屋の環境も当日の気温も不明なのに、事前にシミュレーションすらできないしー」

「じゃあ、まず最初に砕いたってのはどうだ? 小さな氷なら早く溶けるだろ」

「砕いた時点で秘宝としての価値は無い。その手順を踏んでおきながら、見ないふりして『0時に失わせる』と書くべきではないわね。怪盗として」


 と、ドレミからも否定材料が投げられる。

 ふむ。


「じゃあ秘宝が氷って線はナシだ。この説が消えたのはありがたいな。――――財宝部屋、もう一回調査に行くぞ。溶けた氷は探せないけど、そうじゃなくてよかった」

「残る候補は〝水溶性物質〟か〝絵〟か……後者ならいいわね。探せば見つかる」

「前者でもいい。徹底的に調査すれば痕跡くらいあるはずだ。ほら、汗が乾いた後、塩の跡が残るだろ」

「あ、たしかに」

「いくら水に溶けようとも、水が全て気化してしまえば、溶けた物質は必ず残る。お前も来いよミラージュ。それを前提にもう一回注視してくれ」

「えーーーーー……………………やだ」


 前髪に隠れた眉間に、シワが寄ったのが分かった。

 まあ、想定通りの回答だ。むしろ最初に4時間も働いたのがレア中のレアなのだ。今日はきっと豪雪が降る。


「この中でお前が一番観察力あるんだよ。頼むって。モチベあるって言ってただろ」

「いやー……でもほら、意味無いというかー」

「意味無い? 何だよ、俺の推理が不満か」

「じゃないけどー、んー……」


 数秒ほど黙ってゲーム機をピコピコやった末にミラージュは、その目線をちらりと俺に向けた。


「怒らないー?」

「何がだ? アンパンの件なら別に全然まだ怒ってるぞ」

「それはまだ怒ってんのね……。あんたにとってアンパンって何者なの?」


 それ以外なら怒らないから早く言え。

 促すと、渋々といった様相でミラージュは口を開く。


「ミラは最初から、自動カラクリ装置があれば辻褄合うなーって思ってたんだよねー」

「何だ、自慢がしたいのか? 素直に、さすが〝盗作怪獣(イミテーション)〟といったところだと思うけど……ん? 最初から? いつからだよ?」

「4時間前からー」


 つまり。


 それを前提に4時間みっちり、すでに調査したんだよねー。とミラージュは言った。


「あの部屋は隅から隅まで、トラックの下から運転席の中まで、周囲の財宝の中や外や陰や隙間までー……全部チェックしたけどもー。抜け穴だけじゃなく、塩も砂糖もその他諸々の水溶性物質も、他に考え得る痕跡という痕跡は一切ナシでー。もちろん絵画も無かったからー。まー端的にアレだよね――――完璧完全、サグルの推理はハズレだなーってずっと思ってたんだけど」

「もっと早く言え!」

「報告めんどくてー」


 何だったんだ今までの推理タイムは……。

 ただアンパンを騙し取られただけの時間だった。


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